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お祭り回です。

 ヴルカ大陸の酒祭りは、それまであった原始的な酒を現在の精錬された酒へと発展させた功労者であるバッカーサの生誕祭である。正式名称はバッカーサ生誕祭なのだが、酒祭りで定着しているそうだ。


「はい、これ来て売り子さんお願いね。」


 今朝、当初の予定だった朝菓の鐘(10時)ではなく朝の鐘(8時)に来て欲しいと、赤熊亭にサオリさんから言付けがあったので、待ち合わせ場所の冒険者ギルドに向かうと、サオリさんの手から渡されたのは……。


「メイド服?」


「あら、ミイコちゃんは知ってるの?いま移動劇団で人気の演目の「私と執事様」に出てくる主人公メイドの服を真似たものなのよ。」


 この世界でも、その手の話はあるんだなと思いながら、手元の服を眺める。


 そのメイド服は実用性重視のメイド服ではなく、日本のメイド喫茶で見かけるスカート丈の短い、胸元やスカート、袖にレースがふんだんに使われたメイド服だった。

 

 もちろんサオリさんも着ているけど、いかがわしいお店に見えるのは何故だろう。


「そしてーーーージャーン」


 サオリさんの言葉と共に現れたのは、執事服を着ていつもはおろしている前髪をアップにした、セイランだった。


「なかなか似合うだろ、惚れ直した?」


「あつそう……。」


 思わず出た言葉は、体感温度で25度はありそうな中着ている、長袖の執事服についてである。


「えっ、そこ? ここまで興味持ってもらえないと、なんだか哀しくなってくるよ。」


 確かに黙っていれば、冷たさを感じさせる程整った顔だからか、ドSの執事様って感じがする。それが好きな人にはたまらなそうだ。


 打ち拉がれているセイランを放っておいて、サオリさんに話しかける。


「今日は、お休みじゃなかったんですか? 別に手伝うのはいいですけど。」


 それに、メイド服は着た事がなかったんだよね。イベントだと思えば着てみたくもあるんだよな。


 高校の文化祭の時は獣耳喫茶だったんだよ……。雅姉さんが何故か監修で入っていて恐ろしかった。クラスの友人達は『伝説の生徒会長に監修してもらえるなんて』って言ってたけど、一皮むけば唯の変態だから。鼻息荒く、盗撮カメラを設置していた雅姉さんを見せてあげたかったよ。


「それがね、ヴィント大陸との交易が復興したでしょ。だから今回の売り上げ1位の商品が、ヴィント大陸でしか手に入らない付与術の掛かった魔道具なのよ。各陣営が血なまこになって狙っているのよ。なんとしても勝たないと!!」


 サオリさんが鼻息荒く迫ってくるので、思わず後ずさってしまった。そのまま逃げる様に、控え室になっている部屋を聞いて着替えに向かった。


「サオリさん……。」


「ーーーーー子供用の服がないか探してくるわ。」


 スカート丈は誤差の範囲で問題なかったのに、胸回りが詰めると不自然なほど余った。

くっ、泣かないもん……。


 サオリさんが子供用の似た服を探してきてくれて、今度は問題なかったんだけど複雑な気分になった。


 そして、ツインテールにヘッドドレスをつけて、ニーソックスを履いて控え室をでる。


 セイランが抱きついて来そうだったので、先手必勝で蹴り上げておいた。とても良い顔で飛んでったのが腹立つけど。


「ローナ来ないですね。」


 そう聞いた私に、サオリさんは怖い顔をして私を見る。何かしただろうか。


「ロイが『私の妹だから、こっちを手伝わせるのが順当じゃないかしら。』とかいって、役所陣営に連れてかれたのよ!」


 昨日、ロイさんが私たちの話に乗ってこなかったのは、向こうの手伝いをするからだったのか。


「若干の不安は残るけど、そこにのびている変態セイランとミイコちゃんで、売り上げ向上間違いなしよ!」


 そうサオリさんは息巻いて、私たちを会場となっているギルド前広場の冒険者ギルドの屋台へと連れて行く。


「やってきたわね。友といえども今日は負けないわよ。」


「もちろんよ!1位は冒険者ギルドのものよ!」


 ロイさんとサオリさんはさっそくやっている。冒険者ギルドの左側が役所の屋台になっているようだ。


 ロイさんは藍色の着流しを着て、たすきをしている。そして私を上から下までみて、あごに手をあてて考え込んでいる。


「それにしても、敵ながらあっぱれね。ーーーーサオリ、相談だけど昼の鐘の後からローナとミイコちゃんを交換しない?」


「なによ、嫌に決まってるでしょ。」


「言い切って後悔しないのかしら、これを見てご覧なさい。」


 そう言って、ローナを呼び寄せる。


「兄貴、これ歩き難いよ〜。」


 ローナは、矢羽根柄の青地の着物を着ていた。着物と草履が慣れないのかよたよたと歩いているせいか、いつもより女性らしい感じがするので不思議だ。


「……っ、悪かったわ。ロイ、さっきの件お願いするわね。」


 さっきの険悪な感じからうってかわって、ロイさんとサオリさんは握手をしてお互いを褒め合っている。


 いったい、なんだったんだろう……。ローナも呼ばれたっきりほっておかれているので、私とローナはお互いを見つめて首をかしげあっていた。


 そこで視線を感じたので、その先を見つめてみると鼻を押さえている双子へんたいがいた。


「ローナ、そっちは何するの?」


「こっちは、ハナダさん監修のヴァンサ風焼き菓子だよ。ドラゴン焼きっていうんだって。」


 そう言って、ローナは売り物のお菓子を見せてくれた。


「たいやき……。」


「違うってドラゴン焼きだよ。」


 思わず声で出してしまった。ドラゴン焼きは、ホウを象った形のたい焼きの様な物で、中身はカスタードやチーズが入ったものだった。酒に合うかどうかは別として、祭りっぽい気分になるなぁ。これで焼きそばとか、たこ焼きとかあったら良かったんだけど……。


「セイラン、どこに行っていたんですか。お前は弟子の本分を忘れていると思うのですけど?」


 セイランに向かって声をかけている壮年の男性が居た。セイランと同じ様に執事服を着ている。


「お父さん、セイラン君にはうちのお手伝いをお願いしたのよ。それに、年甲斐も無くそんな格好して。」


 サオリさんの声に反応して、こちらを振り返った男性は灰色の髪をオールバックに撫で付けて眼鏡をかけた、まさに執事だった。おもわず、グッジョブしそうになったよ。


「そうか?周りには評判がよかったんですがね。」


「私も似合うと思いますよ。」


 思わず賛同してしまった。サオリさんはこちらを一瞥して、にんまりした。嫌な予感がするんですけど。


「ミイコちゃんはこういうのが好きなのね。さすがにうちの父はダメよ〜、なんなら弟を紹介するわよ。将来はああなるから、そしたら私の妹、うふふふふ。」


 顔に熱が集まってくる、気力で何とかならないか頑張ったが無駄だった。とことんからかわれてしまった。私だけじゃなく、ロマンスグレーな執事って、女の人は結構好きだと思うんだけどな……。


 そして、いつの間にかサオリさんのお父さんも冒険者ギルドを手伝う事になっていた。


「ギルド長〜〜。居なくなられると売り上げが下がるんですよ。」


「なんとか頑張りなさい。私は娘と弟子の頼みを断れませんからね。」


 サオリさんのお父さんはそう言って、工業ギルドの職員を追い払う。男性職員は若干涙目になっていた、可哀想に。


「サオリさん……。この格好で、これはどうかと思うんですが。なんでお菓子にしなかったんですか?」


 冒険者ギルドの商品は、フォレストボアのスペアリブでした。


「それは、材料が手に入りやすいのとお酒に合うからよ。文句言わず運ぶのよ!」


 サオリさんに言われた通り、焼けたスペアリブを注文のあったテーブルに運ぶ。その度に何故かお菓子や他の屋台の商品を『お手伝いえらいわね。』って言葉と共にくれるのだった。


 サオリさんのお父さんとセイランは、女性客に絡まれて大変そうだったけど。


 お昼は、貰った食べ物で十分な程だった。さすがに、やきそばやたこ焼きは無かったけど肉まんはあった、どこの店のものか後でチェックしとかないと。


 昼からは役所のギルドを手伝うためにロイさんの所へ向かう。


「ミイコちゃん、これを着てね。」


そ う言って手渡されたのは、薄いピンク地に大振りのぼたんが描かれた着物だった。さすがに一人で着れないので、女性の職員が手伝ってくれた。そして、ロイさんによって、お団子頭に結われて大振りの花を飾られる。


「うん、我ながら良い出来ね。そのまま店先で呼び込みをお願いね。」


 結果としては、物珍しさからか人が沢山集まって売り上げに貢献出来たようだ。そしてロイさんに持たされていた鞄には沢山のお菓子が入って行くのでした。ドラゴン焼きを貰ったのにはびっくりしたよ。


 そして私の代わりにメイド服に着替えたローナは、男性客に絡まれて大変そうでした……。だからか、ハナダさんがドラゴン焼きを大量にこげさせて使い物にならなかったらしい。


 夜になると、ローナと私は強制的に帰らされた。私は別に問題ない年齢なんだけど、紛らわしいという理由で却下されました。……ちっ、プラオム酒狙ってたんだけどな。


 きっと、例の混沌とした世界がこれから生まれるんだろう。


 翌日は祝福のお祭りの翌日と同様で、ギルドの中だけでなく町中が酒臭かった。


 そして売り上げ1位は商業ギルドで、冒険者ギルドと役所は同点2位、最下位は最大戦力がいなくなった工業ギルドだったそうだ。

ドラゴン焼きのイメージはたい焼きよりも、つるかめなんですが分かる人っていますかね……。

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