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トラオムから出発する朝、酒樽を積んだ馬車に商人がミント系のにおいのする袋を吊っていた。
「あれは何をしているんですか?」
私は側に居たメリダさんに聞いた。
「キラーアント避けよ、あの香りが嫌いなのよ。」
「行きも吊ってたら群れに遭わなかったんじゃ。」
「ーーーーーこれから出発すればわかるわ。」
そう言って私の疑問に言葉を濁したメリダさんに、嫌な予感がする。
その予感が的中したのは、トラオムから出て半日ほど立った頃だろうか。私の索敵範囲に引っかかたのは尋常じゃない数のキラーアントだ。
「ビルさん……。軽く50匹は越えているキラーアントがいます。どうやら範囲外にも居そうなので、100匹は居そうな気がします。」
私は、動揺を押し殺しながらビルさんに現状を告げた。ビルさんはやや顔を青ざめさせて、商人と後ろの護衛陣への言付けをメリダさんに頼んで、私たちを集める。
「今からは、キラーアントを引き連れたまま進んで行く事になる。キラーアントの習性として巣の位置からある程度離れると追いかけてこなくなるはずだ、それまで耐えてくれ。
馬車は主に前衛陣で固める、におい袋のおかげですぐには近寄れないからな。魔法士達と後衛陣で迫ってくるキラーアントに牽制をしていってくれ。では健闘を祈る。」
ガイツさんと私は後陣の魔法士と後衛の人達と話し合い、役割を決めていく。元々少ない人数である、まずは先頭でキラーアントの群れから力技で道を無理矢理あけて、馬車を進ませてから全員で殿をつとめる事になった。
『炎雨』
『炎矢』
ガイツさんと後続の馬車にいた魔法弓士によって、馬車の正面にいるキラーアントの群れに全体攻撃を行う。
言葉通りに炎の雨が降り注ぎ、致命傷にはならないが群れが乱れた、そして注意散漫になったキラーアントへ炎の矢が降り注ぐ。
私と弓使いは、2人の攻撃で瀕死のキラーアントを排除して馬車の通れる道を作っていく。
『炎纏』
私は炎の温度を上げた纏を鞭の様にして、キラーアントの首を狩っていくことにした。全体攻撃を逃れた個体もいるので近接攻撃は避けた方が良さそうだからだ。
炎の鞭を首に巻かれたキラーアントの首は高熱に耐えられず、面白い様に取れていく。
なんとか数分かけて馬車がキラーアントの群れを通り抜けた。ここから先は、牽制をしながらあきらめてくれるのを待つことになる。
ガイツさんと魔法弓士は、先ほどの魔法をキラーアントに向けて打つ。先ほどと違って広範囲にいるキラーアントに向けて、左右を分担して撃っているので致命傷にはなっていない。しかも全体攻撃だけあって、連続使用は出来ない様だ。数分のクールタイムを置いている間に、群れとの距離が縮まっていく。
私は、腹を決めることにした。
『焰よ弾となりて穿て、炎弾』
両腕に一個ずつの炎の玉が出来て、腕を向けた方向に弾が発射される。キラーアントに炎の玉が着弾した瞬間、私は呟く。
『爆』
着弾したキラーアントを中心に、爆発が起こって周囲のキラーアントが吹き飛んだ。
何度繰り返しただろうか、周りが暗くなってからもガイツさんの光魔法を頼りに魔法を撃っていた。日付が変わる頃、突然キラーアント達がきびすを返し始めたのだった。
それから、数刻歩いてビルさんが声かけをする。
「皆無事か?今日はよくやった、これから野営に入る。殿を努めてくれた者達は見張り番から外すのでゆっくり休んでくれ。」
野営のたき火の側でパーティーで食事をとっていると、打ち合わせが終わったのかビルさんが戻ってきたので今日の説明を求めた。
「キラーアントはプラオム酒が好物のようでな、フランへと帰る道で追いかけては来るんだよ。こんなに多いのは初めてだかな。
どうやら今回は遅めに来たせいで他の商人が居なかったろう?恐らくいつもなら分散している群れが、集中して襲ってきたんだろう。」
ビルさんは、そこまで話してからお茶を飲んで一息つく。
「今回は、ミイコちゃんも居てくれて助かった。わしらだけだと無傷で、キラーアントの群れから逃げ出せたとは思えない。
本当なら、行きにキラーアントの群れに遭う事も想定外だったんだよ。」
なるほど、行きに薬草を吊らないのは遭わないはずだったからなのか。メリダさんが言葉を濁したのもこうなるかもしれないと感じてたからか。
それにしても、今回はヒヤヒヤした。とりあえず『炎弾』はフランを出る前から分かっていたから、まだ練習不足でも使えるから問題はなかったんだよ。
でも…『爆』に関しては今回のレベルアップの際に覚えたんだよな。ホウに説明だけでも聞いといてたから良かったけど、シュミレーションしてなかったらきつかったな。
『爆』は魔法に付属でつけれる詠唱になるってホウが言ってたから、使うならこれかなと思ってはいたんだよ。フランに戻ったら、他に使えないか色々試してみないと。
「ーーーーー残りの日程は行きと似た様な感じになると思う。よろしく頼む。」
ビルさんの話は続いていたが、上の空で聞いていなかった。さすがに疲れたので、その場を辞して休む事にした。
「わしもミイコちゃんに聞きたい事があったんじゃがのう、フランについたら話を聞かせてもらえんじゃろうか。ミイコちゃんの魔法を見ていると、久々に研究心に火がついたんでのう。ゆっくり休むのじゃよ。」
立ち上がった私にガイツさんがそう言った。でも私はとっさに頭が働かなくて、とりあえず微笑んで答えをうやむやにする。
翌朝(すでに深夜を大分すぎていたので朝までさほど時間がなかったが)、ビルさん達は歳を取っているとはいえ高位の冒険者だけあって、昨日の疲れを微塵も感じさせない足取りで、フランへの道を歩き出した。
ここから先はビルさんの話通り、行きと変わりないまま10日後にはフランへ到着した。
フランは出た頃と違って、祝福の時の様に道々に花を飾っている。冒険者ギルド前の広場は、机と椅子が出ておりビアガーデンの様になっていた。
実際、ここで各商会が酒樽を出して秤売りをするそうで、購入した人達は広場で屋台の食事をつまみに飲むそうだ。
祭りは当日もいいけれど、始まるまでの準備期間も見てて楽しいんだよな。
そう思いながら冒険者ギルドに入ったら、サオリさんはカフェで既に出ていた屋台の串を片手に一杯やってました。
「ただ今戻りました、何やってるんですか……。」
「敵情視察よ、うちのギルドも屋台をだすからね。」
サオリさんはそう言って、串をこちらに向かって突き出す。
酒祭りも菓子祭りも、本職に混じってギルドなどの素人達もお店をだすらしい。
サオリさんの食べるのを待って、私はギルドカードの更新を行った。ローナ達も同じ様に更新している。
ヨシザキ ミイコ
19歳 女
ヒューマン
出身地不明
武闘魔法士 Lv9
火Lv4 刃 纏 盾 弾(100%)
水Lv3 刃 纏 盾 (70%)
風Lv2 刃 纏 (50%)
土Lv1 刃 (50%)
付属Lv1 爆
光 治癒 「促進」
投擲Lv17
身体強化Lv9
収納魔法Lv2
「何があったの?レベル2つも上がっているじゃない。」
サオリさんが驚きの声を上げたので、声を抑える様に言ってキラーアントのことを話した。
「そんなことがあったのね、無事に帰ってきてよかったわ。それにしても、ミイコちゃんはつくづくトラブルに遭うわね。」
サオリさんがあきれた様な声で、私に言った。それについては私も否定できない。
「祭りの間だけでもゆっくりしたらどうかしら。ね、私たちで一緒に回りましょ。」
サオリさんがローナも呼んで、明日からの私たちの予定をかってに決めてしまったのだった。
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