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祭りが終わって、いつもの日々が戻って来た。昨日は祭りの最終日ということで、町の人達のはじけ方がとんでもなかった。今日は正常に町が動いているのだろうか……。
私の杞憂だったようで、いつも通りの光景が目の前に広がっている。ドワーフの人達の肝臓には何か魔法がかかっているんだろうか。そんなくだらない事を考えながら、ギルドに向かう。
ギルドに入ると、前と同じ部屋に案内される。来ていないのはロイドさんと、双子だけだった。
「おはようございます。テレスティナさんは大丈夫だったんですか?」
「おはよう〜。自分の限界を越えない様にしたのよ〜。さすがに町の人達と同じペースで飲むと危ないわ。」
「いいよな〜。わたしは子供だからって、さっさと寝ろって追い出されたんだけど。」
ローナの言葉に私は苦笑した、子供には刺激が強い光景だったもんな。ジョッキ持ちながら、上半身裸になったムキムキのおじさん達がポージングしながら飲んでたからな。目への暴力だった……。
そんな話をしている間に、全員が揃った。
「それじゃ、最初の約束の1ヶ月はだいぶ過ぎたけど、どんな感じかな?」
「わたしは兄貴が認めてくれるなら、ミイコとはこれからも組んで行きたいかな。」
「私も、ローナとはコンビネーションが組みやすいので、問題ないです。」
ローナの言葉に、ロイドさんがローナの付き添いでパーティーに入っていた事を思い出した。
「そうか、お互いやり易いと感じてるなら、いいんじゃないか。俺も、もう少しお前らと組むよ。お前らだけだと、野営の食事が心配になってくる。」
すごい言われようだが、私はローナほどひどくないと思うんだけどな。
「こっちに居てくれるのは嬉しいけど、兄貴の仲間達はいいのか?」
「ん?あぁ……俺が居ない間に仲間内で結婚してさ。引退して田舎で生活するらしい……。」
ーーーーーーその場に沈黙が落ちる。
「私も、もう少し一緒にいるわ。まだ海が渡れない様なのよねぇ。」
その場の気まずさをテレスティナさんが払拭してくれた。そういや、海が渡れなくなってヴィントに戻れなくなってたんだったな。
そして、今日のもうひとつの本題である双子を見る。
「俺は、この大陸に細工と金属の加工技術を学びに来たんだ。すでに、この町で弟子入りする先も決まってる。
実は、ミイコちゃんのピアスは俺が作ったものでさ、運命を感じるね〜。」
思わず自分のピアスを触る。これには、ビッグロックボアの時にお世話になった。これが無ければ、『水刃』でビッグロックボアに傷を付ける事が出来なかったはずだ。でも、運命は感じないけどね!!
「マーマンは、この大陸だと体が辛いと聞いたが大丈夫なのか?」
ロイドさんの言葉で、ガイツさんが話してくれた事を思い出した。二人は道中も平気な顔をしていたから忘れてたけど、そこの所どうなんだろう。
「マーマンがこの大陸と合わないこと、聞いた事あるのかぁ。細かいところは秘密だけど、これが俺らの体質の補助をしてくれてるんだよね。これを作る為に数年もかかってさ、ファイウェンから動けなくて大変だったんだよ……。」
帯に下げてある、おそらく珊瑚で作ってあるんだろう根付けを見せてくれる。彼らの普段着は初めて見たが、日本の着物とそっくりである。男性の着物姿は向こうでは時代劇ぐらいでしか見た事無いなぁ。
「俺って魔法士でしょ、一人じゃ非力だからハナダが一緒にこの大陸に来てくれたんだよね。それで、俺が弟子入りするから、ロイドさん達のパーティーにハナダを入れてもらおうと思ってさ。
ロイドさん達なら安心だしね。そんでもってアマネの為にも、たまに俺も一緒に依頼受けさせてもらえるといいんだけど。」
「気にすることは無いと常々いっているんだが、セイランは心配性なんだ。ファイウェンでちょっとタチの悪いパーティーにあたってな。こちらのギルドで、ロイドさん達は組んだばかりだと聞いたので、相談しようと思ったのだ。」
ロイドさんとローナもそうだけど、兄弟で仲がいいよな。決して、兄と仲が悪かったわけではないけど、ここまで相手を思いやっては無かった気がするよ。
双子が加わる事に関しては誰も反対はしなかった。セイランは3ヶ月に1度くらい参加することになる。そして今は近場に魔獣が居ないので、護衛をしながら遠出する事になりそうだ。
「そうだ、ミイコちゃん。そのピアス、カスタマイズさせてもらってもいいかな。ハナダがお世話になるし、テレスティナさんにも水属性補助のアクセサリーを作らせて貰いますよ。」
ありがたい申し出があった。このアクセサリーの効能を知ってるから、喜んで渡したいけど、いいのかな。
「うれしいわ〜。でもぉ、ミイコちゃんは買った訳だから私もお金を出すわよ。水属性って、この大陸だとファイウェン付近でしか使えないのよねぇ。」
テレスティナさんが、そう言ったので私もお金を出す様に言うが、試作品をどうやらお店の方が勝手に出していたそうなので、気にすることは無いとお金を受け取ってもらえなかった。
十分良い品だったんだけど、どうなるのか楽しみだ。2日程で出来上がるという事だったので、それを受け取ってから護衛依頼を受ける事になった。
そして、思い出した事があったので、ホウに確認をとる事にした。心の中でホウに語りかける。
『ホウ、聞こえる?例の結晶をアクセサリーにしてもらおうと思うんだけどどうかな?』
『すべて聞いてたよ。ピアスの制作者はセイランだったんだね。火の属性をどのくらい操れるか分からないけど、任せてみたら?今必要な物じゃないから、仕上がりはゆっくりでもいいよ。』
セイラン達が持っている根付けのような役目を、この結晶が持っているのだろうか? そういや、他の大陸で役に立つって言ってたな。
「セイラン、この結晶なんだけどアクセサリーにしてもらえないかな。」
「………これは、炎の力がすごいなぁ。今の俺じゃ生かしきれない。」
「ホウが、ゆっくりでいいって。」
「わかった……ミイコちゃんの為にも、十分に生かしきれるように一日も早くなるよ。」
セイランは職人の顔をしていた。道を極めようとしている人は見ていて気持ちのいいものだ。思わず笑顔が出る。
「俺にほれた?ミイコちゃんならいつでも歓迎だよ。」
見直したと思ったらこれだ、今度手加減のためにハリセンでも作るかな。
新しいパーティーの結成を祝してレッドベアで食事会をする事になった。昨日、あれだけ飲んでたのに今日も飲むとかすごいな。
いつもの料理を食べながら、私はこれまでの事を振り返った。初めは一人だったのに、いつの間にか命を預け合える仲間に出会えた。そして、今まで通りローナ達と一緒に冒険できる事が私はとても嬉しい。
これからも良い出会いがあると信じていきたいな。
余談だが、サオリさんが私たちのことを話したらしい。でも、セイランの私への馴れ馴れしさに、怖い顔をしていた。
2日後、仕上がって来たアクセサリーはすごい物だった。デザインは羽に真珠は変わらないのだが、そこに青い宝石が増えている。
そしてギルドカードにある、この町での水属性のゲージが、前のピアスでも50%になってすごいと思っていたのが、新しいピアスでは70%になっていた。
これってファイウェンでは火属性並に使えるんじゃないのか……。そして、水の『纏』も覚えた。
そして、テレスティナさんも、アクセサリーの性能に絶句していた。テレスティナさんが驚くなんてよほどだよな。やっぱり、このアクセサリーはすごいんだよね……作り手の中身は残念なのになぁ。
明日から、ハナダさんも加えて新しい場所へと向かう。とっても楽しみだ、寝れるかな。
例の精霊に愛されている作り手はセイランでした。アマネはセイラン大好きだからね〜。
どこかで、すっかりなりを潜めている雅姉さんの話を入れようかと考えているんだけど…どうしようかな。




