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 フランへ帰還した翌日、お祭り騒ぎはまだ続いている。

 昨日聞いた話では、一週間続くらしい。約100年ぶりの祝福ということで、盛大にお祝いするそうだ。まして祝福を受けた山が近くにあるため、各地から人が集まって来るから忙しくなる、と赤熊亭のおかみさんが話してくれた。


 今日はレベルが上がったので、ギルドへカードの更新に向かう。新たな火の魔法も覚えていた。訓練場でさっそく試さないと!


「酒くさい………」


 ギルドの中は酒の臭いで充満している。顔の赤い職員も何名かいるが、手元のコップの中身はもしかしたら酒かもしれない。大丈夫なのかな……。


 カウンターにいるサオリさんは、昨日のお酒が残っているのか青白い。


「……大丈夫ですか?顔青いですよ。」


「ミイコちゃん…………頭が痛い。…………寝たい………」


 そう言って、カウンターに突っ伏す。どうやら朝まで飲んで、そのまま仕事してるようだ。二日酔いって言うより寝不足か。

 酒の臭いに酔ってきたので、早々に更新して訓練場へ移ることにした。




ヨシザキ ミイコ  


18歳  女  


ヒューマン 


出身地不明


武闘魔法士 Lv4

火Lv2 刃 纏(100%)

水Lv1 刃  (20%)

風Lv1 刃  (50%)

土Lv1    (50%)


投擲Lv12

身体強化Lv4

収納魔法Lv1



 カードが黄色に変わっていた。ビッグロックボアは討伐対象ではなかったが、特例で依頼対応にしてくれたそうだ。お金はみんなが揃ってから払うとのことで、昼にまた来るよう話があった。

 用事が済んだと行こうとして、呼び止められる。


「うぅ…………忘れるとこだった。」


 話の内容は、明日、祭祀を執り行うので魔法士は参加するようにと、朝の鐘の時間に門に集合とのことだった。

 サオリさんに、あまりにも辛そうなので早退を勧めて、私は訓練場に向かう。


 

 その日は、一日訓練場で試行錯誤をしながら『火纏かてん』を形にした。昼に依頼の報酬を貰いに行くと、ガイツさんとメリダさんが居たので、見てもらって改良していく。攻防一体で使えそうで、なかなか良い感じに仕上がったと思う。


 ビッグロックボアの報酬は、結構な金額になった。思ってもみなかった臨時収入で、何を買おうか悩んでしまう。投擲のナイフを作るかなぁ……。

 また、今回は事故のような突然の討伐になったので、お見舞いとしてビッグロックボアの肉をステーキ1枚分ほど貰えた。高級食材だそうで、思わずよだれがでそうになった。

 さっそくレッドベアのおじさんの所へ持ち込むと、もう少し熟成した方が良いとのことで、食べれるのは明日の夕食になった、う〜ん待ち遠しい。



 翌朝もいつも通り鍛錬をするために裏庭へ向かう。


「おはようございます。あっローナ」


「おはよう。今日から師匠と一緒に鍛錬することになったんだ。朝弱いから眠いよ……」


「ははは、すぐ慣れるさ。わしも自分の技術を伝えられる弟子が出来て嬉しいよ。ミイコちゃんありがとうな。」


 ローナは本格的にビルさんの弟子になったようだ。紹介した経緯があれなだけに、お礼をいわれると複雑…。

 急がないと朝の鐘に間に合わなくなるので、基礎を一通りやって辞去する。


「祭祀って何するんだろうね。門ってことは外にでるのかな?」


「フレイ(ガイツのドラゴン)が、山の頂上近くに祠があると言ってたから、そこに行くんじゃないかな。各地の名の知られている山には同じ様に祠があるんだってさ。」


 ホウは私が知らない間に、フレイやクレオから色々な話を聞いていたらしい。アマネにはまだ積極的に関わりたくないそうだが、私を助けてくれたから少しは見直したそうだ。

 ホウと話している間に門に着いたはいいが、ガイツさんしかいない。


「おはようございます。えっと、今日は何人集まるんですか?」


「おはよう。わしとミイコちゃんだけじゃよ。魔法士は数が少ないうえ、大陸各地にちらばっておるからの。同じ町にヴルカの魔法士が2名もいるのは珍しいほどなんじゃ。それじゃ行くかのぅ。」


 そんなに魔法士が珍しい職業だとは思わなかった。ガイツさんについて歩くと、やはりホウが話してた通り山に向かうようだ。


「魔獣に遭いませんね。」


「祝福のあった山の近辺は、ひと月程魔獣が居なくなるんじゃよ。わしもこの大陸では小さい頃じゃったから覚えていないのじゃが、ヴィントで一度経験したことがあってのう。不思議な光景じゃろ?」


 ガイツさんの言葉にうなずいて、山をひたすら登って行く。フランの近くの山は上に行くに従って、山肌があらわになってくる。ごつごつした岩が多くなるため、いつもならハードボアが出ると分かり辛いため気が抜けないのだが、今日はガイツさんの言葉通り生き物の気配が感じられない。しかし、気味の悪い静けさでは無く、不思議と心が安らぐ静けさでとても気持ちがいい。


 祠は、表面に細かい細工がされた卵型の金属製のものだった。祠に着くと、ホウが先頭に立ち、歌う様に聞き取れない言葉を紡ぐ。祠の中に赤い光が渦巻き、2つの結晶となった。ホウとフレイは結晶を口にくわえて、私とガイツさんに渡す。


「それは、火属性の補助をしてくれる結晶だよ。これから先、他の大陸に行く時に役に立つから大事にしてね。それに、おまけで僕らの固有魔法である光の治癒魔法『促進』を覚えたよ。これは体の自然治癒力の促進を行う魔法になるんだ。」


 おまけの方がお得な気がする。なぜならガイツさんが、感激で泣いているからだ。


「おぉ………、ありがたいことじゃ。わしには辿り着けないかと思っておった……。」


 落ち着いたガイツさんに聞くと、『治癒』が固有魔法にあるのは大昔の記録に残っているため、知ってはいたそうだ。いつかはそこへ辿り着くのを夢見ていたと話してくれた。

 この世界は薬で病気や怪我を治すのが基本になっている。私もお世話になった。ガイツさんは長い人生で何かしら思う事があったのだろう。


 『治癒』を覚える為には祝福が必要だとすると、私たちの存在がないと辿り着けないことになる。そう考えると、涙を流してまで喜んでくれることを成し遂げたんだと思うと、この世界に来て初めて良かったと思える事だった。


 そして町に戻り、お待ちかねの夕食になった。


「ミイコ、例の物出来上がったぞ。なかなか面白れえじゃないか。メニューに入れるか考えてみるか。」


「ありがとうございます。ファイウェンに行ってから、この味が好きになりまして、いつでも食べられる様になると嬉しいです。」


 私の目の前に出て来たのは、生姜焼きもどきだ。フェアウェイで魚の煮込みに生姜が使われていたので、聞いてみたら普通にヴルカ料理で使われているものだったらしい。レッドベアの親父さんにミッソラを渡して、こんな感じの料理を食べたいと話したら作ってくれたのだ。高級食材でつくる生姜焼きっていうのもおつだろう。


 これは肉がいいからなのか、親父さんの腕がいいからなのか、自分が作るのとは違ってパサパサしてない。柔らかさだけではない歯ごたえと、しっかりと味がついているお肉。これでご飯があればなぁ……。


 そして、これだけ良いお肉なら、とんかつにしたら美味しかったんだろうなと思う。パン粉はある。でも、油が無かった。油を見つけたら、ビッグロックボアが駄目でもハードボアあたりで作ってもらおうか。


「何食べてんの? ミイコはよく食べるなぁ。それにしても、残念なくらい身になってないのが悲しいな。」


「ビッグロックボアのミッソラ焼き。ローナと違って脳みそに栄養がいってるんだよ。」


「ふふ、ミイコちゃんは今のままがいいわぁ。かわいいもの。」


 夕飯を食べにやってきたローナと不毛な争いをしていると、テレスティナさんがやってきた。

思わず、テレスティナさんの胸元に視線を移す私たち。


「テレスティナさんの半分でいいから欲しいなぁ」


 思わずもれた声に、ローナが私を見て肩をたたく。腹が立つ……。ローナも筋肉質だけどスタイルはいいんだよな。


「そうだ、忘れてたぁ。祭りが終わったら今後の予定を話し合いましょう。どうやら、セイランくんとハナダくんも私たちと話をしたいそうなのよ〜。」


 やっぱり、パーティーを一緒に組みたいって話かな。バランス的には悪くはないけど、どうなるかな。まず、今のパーティーを続けるかもこれから決めるんだもんな。


 とりあえず、祭りの間は薬草採取などして過ごす事になりそうだった。

久しぶりにテレスティナが話している気がする。

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