〜指示〜
〈…レアル…‥レアル‥〉
誰かが名前を呼んでいる。
〈……スノーストーム…〉
〈そうよ、レアル。さあ起きて〉
起きろって、俺は起きてるはずだ。でも何も見えない…
〈…真っ暗だ〉
〈クスッ!目を開けなさい。開ければちゃんと見えるわ〉
_…あ、そういうことか。
目を開けるとスノーストームとブラッドフットが覗き込んでいた。
全身が痛い。
「スノーストーム…」
レアルは目を瞬いた。
なかなか焦点が合わない。
「良かった、目を覚まして」
微笑んでくる。
「よう、レアル。またこっぴどくやられたな」
声の方に視線を動かすと麗音が見えた。
「麗音…」
「無茶するんじゃねーよ。あの突風に吹っ飛ばされて仁の傷が開いちまったんだぞ?」
「なにっ!」
それを聞いてレアルは身を起こそうとした。
「がっ!?」
激痛が奔る。
「寝てろ」
仁か視界に入ってきた。
「すまない、仁」
「大丈夫だ。レアル、コレを舐めておけ」
青い包みの飴を差し出してきた。
_こ、コレはまさか…
「ダルの特製回復薬だ」
_やっぱりか…っ!
だいぶ前に一度貰った事がある。その時は確か吹き出してしまった。
仁が“良く効くぞ”と押し付けてくる。
仕方なく受け取った。
仁を見ると早く食べろとでもいうように見返してくる。
覚悟を決めて口に放り込んだ。
…ごふぼっ
前より酷い味に進化してる!!?しかも硬いっ!?
慌てて口を押さえる。
「さっき龍にもやったが、平気そうだったぞ」
_ばかな、コレ食って平気なわけ…
「すごい勢いで噛み砕いて呑み込んだよな、あいつ」
_なるほど、歯が丈夫なんだな。っつーかそれどこじゃない呑めない!
堪えて五分後、やっと呑み込んだ。
吐いた息と共に全身の力が抜ける。
「レアル、大丈夫?」
スノーストームが鼻を近づけてくる。
「ああ…まあ、大丈夫だ」
腕を持ち上げてみる。…さすがダリオス特製といおうか、心持ち動かしやすくなった‥ような気がする。
「レアル」
ブラッドフットが近寄ってきた。
「龍は‥どうなっちゃったんだ?」
不安そうな面持ちで訊いてきた。
「アレがキバなのは確かだ。龍の身体だってことも」
ふと、床に落ちているものが目に入った。黒い竜が描かれた木の札。レアルが龍に渡した、キバを封じるための札だ。
やはり俺なんかの力じゃ無理だった。キバを抑えきれなかった…
ブラッドフットもその札に気が付いた。
「これ、龍の…?」
拾い上げて持ってきた。
「そうだ。俺が渡した」
レアルは手を伸ばし、その札を受け取った。
ちぎれた紐の残骸がつながっている。効力は全くなくなっていた。
封じた本人に引きちぎられたせいだ。
レアルはそれを懐にしまった。
部屋の中は重い殺気で満たされ、寒気さえ感じられる。
キバとイビデラムの殺気だ。その強大さのせいで相手に向けきれなかった殺気が拡がっているのだ。
…キバ。
レアルは立ち上がった。
すぐに倒れそうになり、スノーストームとブラッドフットに両脇から支えられる。
そのまま殺気のいっそう濃くなっている方に足を向けた。
「おいレアル!お前まだじっとしてろよっ」
麗音が引き止めてきた。
レアルは麗音の顔を見て、あることを思いついた。
なぜいままで思いつかなかったのか…
思わず麗音の肩を掴んで、怒鳴っていた。
「麗音、人体組成したあとの、あの魂を入れる器を持ってきてくれっ!」
「は‥ぁあ!?なんだよいきなり」
「頼む。俺はキバも龍も救いたいんだっ」
「いや、意味わかんねーよっ!何に使うんだ?」
「…龍の魂とキバの魂を分離させる」
「どうやって?」
ブラッドフットが身を乗り出した。
「エーテリーサの姫はそういう力をもってる。イリアに連絡して_」
「イリアならすごいスピードで飛び出してったぜ?」
煌と昴がそれぞれのパートナーを引き連れて歩いてきた。
どうやら二人とも敵を斃したようだ。
「なんか、姫が居なくなったとか」
「じゃあお前ら二人で捜してくれ。そして姫も見つけて連れてきてくれ」
「わかったけどよう、どこ捜ってんだ?飛び出した方向しかわかんないぞ?」
「…空を。紺色の竜だ。姫様は純白の」
「え、ドラゴン?」
「そうだ。あいつの正体だ。さあ、早く」
「お、おう…行こう、ソーン」
煌はソーンテイルに乗ると駆け出した。
その後をスモークストリームに乗った昴が続く。
「どうやってあれを止めるか知らねえが。気をつけろよ、レアル」
麗音はそう言うと仁に飛び乗り駆け去った。
「よし。ブラッドフットは龍を起こしてくれ。呼び続けてみてくれ」
「わかった」
「行こう…キバを止めに」