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〜求血の感覚〜

 龍達が影から出ると、遠くに麗音達が見えた。

「あっ‼」

 ちょうど麗音達が斬られたところだった。

〈ブラッドフット影飛んであそこへ!〉

〈わかった〉

 ブラッドフットは即座に影に飛び込んだ。

〈ブラッドフット、お前は仁を。俺は麗音のところへ行く〉

〈りょーかい〉

 ブラッドフットは光の輪をくぐる。

 龍は闇から出た瞬間にブラッドフットの背から飛び降りた。

 まさに黒マントの剣が麗音に振り下ろされたところだ。

 ガギギッ

 その剣の前に飛び出し手にした刀で止める。

 第二撃を刀の上で滑らせて流し、体制の崩れた敵を逆袈裟斬りに斬り上げた。

 ザシュンッっという音とともに血が飛沫を上げた。

 蒼天に映える赤い血。血の赤。

 龍は目の前に血だらけで斃れた黒マントを見下ろした。赤がやけに目に映る。敵は敵でも人間だ。斬った時の感覚がまだ手に残っている。

「うっ…」

 いきなり胃の辺りからせり上がるものを感じた。抑えようとしたが耐えられず地面に膝をつく。その場に吐いた。なかなか止まらない。

「あなたはさっき私の城にいましたね。どうやって抜け出したのでしょうか」

 まあいいですが、とイビデラムはどうでも良さそうにくくった。

「大丈夫ですか?まさか人を斬ったのは初めて…のようですね。その様子ですと」

 こちらを蔑むような目で見てくる。

「こんなのがよく戦に出てますねぇ」

 龍は身体の震えが止まらない。

 震えを無視するように刀を拾い、立ち上がる。

_最悪だ…口の中が気持ち悪い。

〈ブラッドフット、仁を連れて先にダリオスのところへ〉

 ブラッドフットは心配そうな顔から一瞬“えーっ”という顔をしたが、すぐに仁を担いで影に入った。

 龍はウエストポーチからダガーを取り出すと空中に投げた。柄に巻きつけた魔力が龍が放出した魔力に反応する。

「麗音、ちょっと移動するぞ。耐えられるか?」

「…馬鹿か。あたしをだれだと思ってやがる」

 切れ切れの息でそんなことを言う。

_馬鹿か、じゃねえよ。

 龍は麗音をそっと抱き上げると隠れる場所を探して走り出した。

「なるべく揺れないようにするから」

「馬鹿か。お前にそんな芸当できるわけないだろ…」

_に、二回言われた!?

 吐いた後特有の脱力感で結構キツい。

 予想した通り黒マントが追ってきた。空中の、魔力で操るダガーで刃を防ぐ。

 一番手近な森に駆け込んだ。

 麗音の出血は止まる気配もない。

_変だ。いつもならすぐ止まって傷も残らないのに。

 鬱蒼と茂った森の中をより暗いほうへ向かって走る。と、いきなり横から剣が突き出された。

 慌てて避ける。ほとんど反射神経任せだった。

 黒マントがわらわらと茂みから飛び出してくる。

「くそっ…隠れてやがったのか!」

 運悪く敵の真っ只中に飛び込んでしまったようだ。

 空中のダガーを敵に向けて構える。麗音を抱えているので、両手が使えないのだ。

 襲いかかってくる黒マントの刃を避け、急所にダガーを突き立てる。

 血がまた噴き出しなにかの模様のように広がる。手にさっきの感触が蘇る。

「龍…痛い」

 おもわず力が入ってしまったらしく、麗音に怒られた。

「わ、わるいっ…」

「馬鹿が…力み過ぎなんだよ。ダガー飛ばすしか能が無いのか?」

 歯を食いしばったまま言う。出血は止まっていない。

_だからって、馬鹿って。これで三回目だぞ?

「だって麗音を降ろすわけにもいかないだろ?」

「ったく、あたしを降ろしてさっさと片づけてこい…ずっと抱かれてるよりましだ…っ」

 叱咤されてしまった。

_…そんなに嫌か?

「じゃあ少し我慢しててくれ。すぐ済む」

 そっと麗音を降ろすと刀を出現させた。と、袖を引っ張られた。

「龍…力むなよ。今は、感情を捨てろ」

 助言らしきことを言ってきた。

 頭がその言葉の意味を理解してくれなかったがとりあえず頷いて応える。

 今度は先手を打って敵の群れに飛び込んだ。二刀が紅を纏いさらに赤く染まる。

 麗音の謎の助言の理由がよくわかった。

 人を斬る。

 また吐き気が襲ってくる。

 ありったけの気を総動員して耐えた。決して慣れるものではない。

 喉まで上がってきたのを無理に呑み込む。喉が痛い。

 それでも最後の奴にたどり着いた。

 喉元から血を噴き出し、敵は地にくずおれた。

 急いで麗音のもとに戻る。

「わるい麗音、少し遅くなった」

 飛行していたダガーがポシェットの定位置に帰ってきて自然に納まる。

 麗音からの返事は無い。目を閉じて荒い呼吸を繰り返しているだけだ。髪の毛が紅く染まり、わずかに開いた口から尖った犬歯がすこし見えている。

「おい麗音!目を開けろっ!」

 前、仁から聞いたことがあるのだ。“麗音が彼女の意思に関係なくヴァンパイア化したら死にかけている証拠だ”。危険信号なのだと。

_どうしよう?ダリオスのところに連れて行く?いや、麗音はそれまで持たないだろう。ダリオスに来てもらう?もっと時間が掛かる。魔力で止血…はもうやってる。

「麗音、起きてくれっ」

_どうしたらいい…?

 その言葉が龍の思考を支配していた。

「りょう…」

 微かに呼ぶ声が聞こえた。

「麗音‼」

 麗音は何か言っているが、聞こえない。

「なんだ?」

 龍は麗音の顔ほうに頭を近づけた。と、いきなり首の後ろを押さえられた。ぐいっと顔を引き寄せられる。

「うおっ!?ちょっ!なにを!!?」

 驚いて離れようとしたが、無意味な抵抗だった。がっしりと首を押さえられて体を起すことができない。

_これが女の…というか死にかけてる奴の筋力かよ!?そして顔近いっっ

「…血が……欲し…い」

 血っ!?

 麗音が囁いた言葉に龍は思わず動きを止めた。

 口から覗いた犬歯が異様にめだってみえる。焦点を結んでいない目がこちらに向けられている。

「黙って…聞け。あたしはさっき、イビデラムが放った魔法に当ってる…麗華姉達はそれでやられた…」

 苦しそうに息を吐く。

「ヴァンパイアは血を吸うことで強くなるんだ。だから…」

_…だから血が欲しいか。

 龍は気になることを聞いた。

「血、吸われた方は?」

「血の…契約により結果的にはヴァン‥パイアと同じ…命と肉体‥を手にするが…大抵それにたどり着く前に…激痛で悶え‥死ぬ」

_怖っ‼

 起こしてくれという麗音の要望に従い、彼女の上半身を起こす。

「だけどあたしは‥ハーフ。契約は成立‥しない…はずだ。龍…」

_いや、しないはずだって、そこ断定じゃないのかよ?

 麗音がゆっくりと手を伸ばしてくる。その指先は弱々しく震えていた。龍はそんな麗音を見ていることができなかった。

「あ゛ーったく、お前らしくない!いつもの強引さはどうしたんだよ」

 襟を横に引いた。

 惹きつけられるように麗音が顔を近づけてくる。

 龍は身体が引きそうになるのを必死で我慢した。

_いくら麗音がハーフでも吸われたらどうなるか聞かなければよかった…

「…怖いか?」

顔のすぐ近くで一旦動きを止め、 上目遣いに訊いてきた。

「い、いや」

 半ば強がりで答える。

_ほんとは怖いけど!

 麗音は安心したように首筋に顔を近づけていく。

 犬歯が肌に当たるのを感じた。それが刺さった痛みは無かった。

_少しくすぐったい…

 何分かそのままじっとしていた。

 麗音が口をつけているところがやけに熱くなってきた。その熱は次第に全身にまわる。そして熱は睡魔を連れてきた。

 麗音が首筋から顔を上げた時には座っているのもやっとだった。

 あんな乱暴な魔力の使い方をしたせいもあるだろう。

 眠気に耐えきれず、龍は引き込まれるように眠ってしまった。


-☆-☆-☆-


 がばっ

 自分が寝ていたことに驚いて龍は飛び起きた。

「やっと起きたか」

 声のほうを見て、一瞬心臓が止まった。

 なんと麗音は着替中。むこう向きに座って着替えている。上は下着姿だ。

_しかもその下着も脱ごうとしてる!?

「おい、後ろ向いてろ」

「はいっっ」

 即後ろを向く。眼福とか言ってる場合じゃない。こいつでそんなことしたら殺されかねない。

_でも煌ならやりそう。そして殺されそう…

「ってかなんでいきなり着替えしてんだよ?」

「ぁあ?こんな汗と血でべとべとの服なんか着てられっか!」

 そんなの決まってんだろ的な口調で言い返してくる。思ったより女子っぽい理由だった。

_…こんな場所、こんな状況でだけど。てか、失礼か。

「それにしても」

 麗音の手が、龍の首筋に触れた。いつのまにか着替え終わって真後ろに来ていたらしい。

「お前の血は美味いな」

 背後から耳の近くで囁いてくる。

「もう少しもらおうか」

 背筋がぞわぞわとした。

「………」

「ふっ…あははは。冗談だ…美味いのはホントだけど」

_冗談に聞こえないよ。

 それに麗音は冗談を言うキャラじゃない。冗談だろっ!ということをする、またはさせるキャラだ。

 麗音はまだクスクスと笑っている。

_なにがそんなに面白かったんだよ?

「お前の反応がっ!」

_…反応か。

 また、声に出してさえいないのに答えてる。

「で、このあとどうする?」

 訊いてみた。

「どうするか?そうだな、一回戻ろう。仁達と合流しないと」

「よし、急ごう」

 龍は歩き出した。

「ちょっと待て」

 麗音に呼び止められ、そちらを向く。麗音はなにも無い空間に向かって右手を前につきだす。

「アルマビャングラディウス、ルシュ・エヴィルエンジェル」

 なにやら龍の知らない言葉を呟いた。よくわからないけど麗音の伸ばした指の先を見る。

 しばらくして、そこに光の粒子が現れた。それは漂いながら集束し、貌をとる。

 さっきイビデラムのところに置いてきてしまった、麗音の大鎌デスサイズだった。

「この大鎌はあたしのお気に入りだ。銘はルシュ・エヴィルエンジェル。日本語で“光の堕天使”だ」

 麗音はいつものようにその大鎌をなにも無い空間にしまいこんだ。

_堕天使って、悪魔だよな。…麗音っぽいっちゃ麗音っぽいか。

「さあ、行こうか」

と言って歩き出す。

 龍も麗音のあとについて歩き出した。


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