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〜脱出〜

龍が巻き起こした風によってレアルに巻きついた根もばらばらに吹き飛んだ。

 しかし、こんな無茶な魔力の使い方があるだろうか?紅の魔力が龍を包み、逆巻く。

 龍が雄叫びをあげた。

 紅が深くなる。

_まだ上がるのかっ…‼

 レアルは驚きとともに微かなキバの魔力も感じた。

 バンッッ

 強烈な爆発音が響いた。

 魔力と爆煙が引いていく。

 煙が晴れたその中心に龍がいる。

 魔方陣は消えていた。

 龍がうなだれていた顔を起こした。

 レアルにはその瞳が紅く見えた。

_まさかな。纏った魔力の紅のせい…だろう。


-☆-☆-☆-


 龍は地面に足がついたので魔力の放出をやめた。

 前よりはましだが、やはりこれは疲れる。

 自分の魔力の残滓を感じながら龍は顔を上げた。

 左手首に巻いてある赤い布をとる。刻印に触れ、刀を出現させた。

 途端、いきなり刀がお互いに引き合い、合わさってしまった。つまり二風の刀が一風になってしまったのだ。

 一瞬驚いたが、あることを思い出した。対の刀が見つかれば“逆鱗”は一風になると。近くに対の刀があるのだ。

 それに、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 龍は一風になった刀をレアルを捕えている光の円に突き立てた。魔力を刀に集める。

 バリバリという大きな音とともに円が割れ、身構えていたレアルが音も無く地面に着地した。

 スノーストームのも同じように破り、ブラッドフットに近づく。

「___龍……」

 心配そうに見てくる。

「…大丈夫だ。いま助けてやるから」

 刀をガッと光に突き刺し魔力を注ぐ。

 円盤が割れた。

 ドサ。

 何故身構えていなかったのか、ブラッドフットは着地に失敗。

「もうちょっと上手く降りろよ」

 龍は手を伸ばしてブラッドフットを立ち上がらせた。

 その後急いで翼の方へ向かう。

「龍…お前__」

 ガギィンッッ

 鎖を断ち切る。

 ドッ

 倒れかけた翼を支えてゆっくりと座らせた。

「なんか言ったか?」

「いや…ありがとう。イリアも助けてやってくれ」

 翼の隣に繋がれた男を見る。

_イリア…キバの弟の…

「当たり前だ」

 龍は立ち上がるとイリアの方へ向き直った。

「龍、俺はこの二人の武器を探してくる。ここにいてくれ」

 イリアの鎖を切ろうとしていた龍にレアルが言った。

「スノーストームは二人の看護を。できるだけ治してやってくれ」

「わかったわ」

「無理するなよ」

「ええ」

「すぐ戻る」

 スノーストームに指示を出すとレアルは走り去った。

 それを見送った後、龍はイリアの鎖を切った。こちらは翼と違って意識が無い。

「龍、ブラッドフット、二人をこっちに運んできて」

 スノーストームの指示で二人を部屋のわりとキレイなところを選んで寝かせる。

 スノーストームは二人のそばに立つと、深呼吸をした。全身を白の魔力が覆う。スノーストームの魔力は淡く青み掛かって見える。

 龍達が見ているとスノーストームは両手を前に出しながら何かを呟いた。

 スウゥ__

 空中に半球形の膜が現れ、翼とイリアを覆っていく。

「スノーストームはね、治癒の魔法ができるんだよ」

 横に並んだブラッドフットが教えてくれた。

「治癒と言っても応急処置程度なの。傷が治るわけじゃない。ただ出血を止めてまた戦えるようにするだけ…あまり使いたくはないのよ」

「なんで?便利なのに」

「便利じゃないわ。傷が癒えないまま、また殺し合いをさせることになるんだから。この魔法を受けた者は、自分の怪我の状態もわからずに戦って…酷い時はそのまま死んでしまうこともあるわ」

〈怖い〉

〈怖いな〉

「それなら、気をつけるよ」

「翼!」

 翼が目を開けた。手をついて起き上がろうとしている。

「無理しちゃダメよ」

「大丈夫。イリアは…」

「…翼」

 イリアが目を覚ました。

「イリア、大丈夫か?」

「……あァ。身体中痛いけどな」

 龍は麗音に言われたことを思い出し、慌てて報告をした。

「お。二人とも目、覚ましたか。さすがに早いな」

 レアルが帰って来た。

「レアル。武器は見つかったの?」

 スノーストームが白い魔力のドームを消した。

「おう、あったぞ。イリアお前の刀これか?」

 レアルはイリアの方に刀を二風差し出す。

「レアルか?…そう。その刀は俺のだ。久しぶりだな」

「何年ぶりだ?」

「たぶん__」

 龍はイリアがレアルから受け取った刀の片方を見ていた。

あの刀……

「“覇竜ハリュウ”…?」

 思い浮かんだ言葉を口にする。

レアルと話していたイリアが話しを中断してサッとこちらを向いた。

「…なぜこの刀の銘を?」

「それは__」

「また、か?」

 レアルが真剣な表情で訊いてくる。

 龍は頷いた。

「封印、効いてないのか?って龍!それ引っ張るのやめろ」

 言われて初めて気がついた。龍は無意識にレアルにもらった封印の札を手で引っ張っていた。慌てて手を放す。

「レアル、こいつは何者なんだ?」

 イリアがレアルに訊いた。

「こいつは…」

 龍は自分の心臓の音をやけに大きく感じていた。そっと左手の刻印に触れ、刀を出す。

 イリアに近づきその刀を差し出した。

「これ…まさか」

「キバの刀。その刀と対を成す“逆鱗”だ」

「なんでお前がこの刀を持って…いや、お前今、それ」

 イリアの手は刀に伸ばされて途中で止められている。

「イリア、あんたの兄貴、キバは俺の中にいる」

 龍は一気に言った。

「……」

 イリアは目を見開いて凍りついたまま一ミリも動かなかった。数秒後、くるっとレアルの方を向いた。

「龍の言っていることは本当だ。キバはあいつの中に住んでいる」

「馬鹿なっ!そんな、レアル、変な冗談に乗るなよ!」

「冗談じゃない」

 龍はイリアに一歩近づいた。

 イリアは一歩下がる。

「じゃ、じゃあお前の中に俺の兄貴がいるという証拠は!?」

「証拠?……」

_証拠って言われてもなあ。

「…わかった。イリア、その刀を俺に突き刺せ」

「龍っ!!?」

 それを聞いてブラッドフットが驚いた声を出す。

「お前何を!?」

 翼も驚いている。

「それで証明されるはずだ。それがキバの刀で、俺の中にキバがいることが」

_“逆鱗”の時もそんなんだったしな。

「されるはず、って違ったらどうするのよ?」

「その時は…迷惑かける」

「め、迷惑かけるって…」

 ブラッドフットの不安げな声には答えず、龍はイリアに向かって両手を広げた。

「さあ、イリア」

 皆がイリアの方を向いた。

「………もし、本当にお前の中に兄貴がいるのなら…」

 シュラ…

 イリアが“覇竜”を鞘から引き出した。

「いくぞ」

 突きの体制に構える。

 龍は目を閉じた。さすがに目を開けたままは無理そうだ。前はいきなりだったが今回は何が起こるか分かっている。目を開けてたら、身体が勝手に防衛動作をとってしまうだろう。

 イリアが突きを繰り出したのがわかる。組織の訓練のおかげで目を閉じていても相手の動きはある程度わかるのだ。

 グザッッ

「ぐっ……」

 腹に刀が刺さった。

_やっぱり痛い。

 音が鳴るほど奥歯を噛みしめる。が、衝撃についていけず後ろに倒れた。

「つっ!…ハァッ…ハァッ」

 目を開け、腹に突き刺さった刀に手を伸ばす。

 その刀は黄金に光っていた。

 龍の手が近づくほどその光は強さを増していく。

「これは?」

 レアルの声とカチャカチャという小さい音。

 “逆鱗”が小刻みに震えている。共鳴しているのだ。

 トン

 龍の指が“覇竜”にとどいた。

 一気に光が広がり、龍を包む。

歓喜が全身を駆け巡るような感覚を感じる。

 驚いたのはこの刀、実は二対の刀がそれぞれ対に、つまり四対で成り立っているということ。

 対の刀全てが揃った。

 刀が粒子になって消えた。

「…龍?」

 ブラッドフットが心配そうに近寄ってくる。

「龍、大丈夫?」

「あァ…大丈夫」

 龍はゆっくり身を起こした。

「契約、成立だ」

 以前キバが言ったのと同じ言葉を口にし、口角を上げる。

 刻印が右の手首にも現れている。模様も変わっていた。

 皆の方を向くと、皆がこちらを見ていた。

「な…なんだよ?」

 そのなんともいえない表情に戸惑う。

「龍…瞳が」

_翼の声が震えている?

「どうしたんだよ?」

「兄貴の瞳みたいだ…」

 イリアがつぶやいた。

「戦ってる時の兄貴の…」

「ああ。キバそっくりだ。元々似てるが」

 レアルも言う。

「どういうことだよ?俺の瞳がどうしたんだ?」

「…真っ赤なんだよ。透き通った真紅」

「紅い?」

 龍の問いに全員頷く。

「ほら。鏡を」

 スノーストームが手鏡を差し出してきた。

 その中の自分の顔を見て、龍は鏡を落としかけた。そのくらい驚いた。

 自分の瞳の色は皆が言うとおり真紅に変わっていたのだ。

 以前見たキバの瞳と同じ色。まるで流れ出たばかりの血のような紅だ。

「何が…?」

「それはこっちのセリフだ、龍」

 龍の呟きにレアルが答える。

「その前に龍、あなた刀が刺さったところはなんともないの?」

 スノーストームが訊いてくる。

「…なんともない。服も破けてない」

「そう。よかったわ」

「で、刀はどうなっちゃったんだ?」

 消えたけど。翼が気づいたように言う。

 龍は両手を持ち上げると、そのまま振り下ろした。

 刀が現れる。

 手首の模様が変わったからか、刀のデザインも少し変わっていた。

「発現方法が…変わった?」

 ブラッドフットが訊いてくる。

「あァ。なぜかはわからないけどな」

「お前、刀が刺さっても平気ってことは、兄貴は本当にお前の中にいるのか…」

 イリアがハッとしたように言い出した。いままで呆然としていたのだ。

「だから、そうだって。それより早く行こう。麗音達が襲われてる」


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