〜約束〜
それから5日後に龍は退院した。
この5日間、ブラッドフットはずっといた。
お前ら暇なんだなと思う程ひっきりなしに煌や翼が見舞いに来るので落ち着かなかった。
しまいにはダルが怒って追い払ったくらいだ。
キバにもらった刀を腰に差して歩き始めた。
G-フィーストの敷地はだいぶ復興が進んで、緑の野原が広がっていた。
戦士達が鍛練している。
その中に煌と昴と翼がいるのに気づいた。
それぞれが二人を相手にする、三つ巴の少し変わった訓練をしている。
その近くで三人のパートナー達がそれを眺めていた。
麗音はいない。
_そういえばお見舞いにも来てくれなかったな…
「龍」
名前を呼ばれて振り向くと、仁が手招きしていた。
「仁…どうしたんだ?」
「麗音に逢ったか?」
仁はどこか機嫌が悪そうだった。
「いや。逢ってねーよ?退院したばっかだし、見舞いにも来てくれなかったじゃないか」
どうしたんだ?と首を傾げると、仁は説明してくれた。
「機嫌が悪いんだ」
つまりは俺の身勝手な行動とその挙句死にかけて一ヶ月も眠ったままだった事に怒っているそうだ。
仁の機嫌が悪そうなのはどうやら麗音の機嫌が悪いからのようだ。
機嫌が悪いと聞いて少し焦った。
「そうか。謝らないと」
早速捜してみる事にした。
「気をつけろよ?…殺されないように」
仁が付け加えた。
「おう」
特に深く考えずに応えた。
ブラッドフットは飛闇狼の長に呼ばれてると言われ、渋々仁について行った。
急いで謝ろうと敷地中走って捜し回って結局見つけた時には日が暮れかかっていた。
誰に訊いても知らないと答えるし、感覚で気配を探ろうにもどうやら消しているようで、ほとんど目で捜さなければならなかったから仕方ない。
麗音は敷地内で一番大きな木の枝に座っていた。
乱れた息を整えてから呼びかける。
「麗音」
呼びかけても返事を返してくれなかった。
「なあ麗音。ごめん…」
小刀が飛んできて頬を掠め、背後の木に突き刺さる。
血が頬を伝う気配がした。
「俺が悪かった。今度からはちゃんと_」
麗音の姿が消えた。そして気づいたらうつ伏せに組み敷かれてしまっていた。
真っ赤に染まったポニーテールの先が視界に入って揺れる。
「このバカっ!大バカっ‼︎なんであんな無茶したんだ⁉︎考えなしに突っ込んで、挙句死にかけて!」
耳元でガンガン怒鳴られる。
ガツンッ!
頭突きをくらった。
あまりの怒声音量と頭突きの効果で頭がクラクラする。
「一ヶ月も、寝やがってっ」
麗音の声が掠れた。
_……?
腕を背中で押さえつける手が震えている。
_…泣⁉︎
「おい‥麗音?」
ポタポタと雫が頬に落ちてきた。
顔は態勢的な問題と前髪で隠れているせいで見えないが、明らかに泣いている。
龍は焦った。
「ごめん!ホントごめん‼︎」
腕の締め上げがきつくなる。
「痛っ…ごめんって!ごめんなさい!もうしないから‼︎」
_泣かないでくれ!
必死で謝ってるうちに麗音の力が弱まった。
そっと腕を動かすと簡単に自由になった。
魔力を使って麗音をおろす。
起き上がって見ると麗音は女の子座りをして俯いていた。
_まいった…どうしたらいいんだ?
「麗音…」
龍は麗音の肩に手を置いた。
麗音が少し顔をあげる。
真っ赤な髪が揺れた。
「もうあんな無茶はしない。怪我はしょうがないとしても死ぬような事はしない。怒りに駆られて突っ走ったりもしないから」
深い金色の瞳が探るようにこちらを見て、揺れる。
「ホント、だな?」
「ああ。約束する」
なおもジッと見つめてくる。
「…血もあげるから。機嫌なおしてくれよ」
コクリと麗音は頷いた。さっきまでと打って変わって瞳が爛々として、犬歯が伸びてきている。
_“血”に反応した?
「いま?」
またコクリ。
龍は上着を脱いだ。
「ほらよ」
頭を傾けて首筋を晒す。
麗音は顔を近づけ、噛み付く前に呟いた。
「約束、破ったら殺す」
麗音の牙が刺さったのを感じた。
「ああ。約束は守るよ…破ったら俺の頸を食いちぎったってかまわない」
「カッコつけが…」
口を離さずにもごもご言う。
「別にカッコつけちゃいねぇよっ」
少し動くと頭を押さえられた。
「動くな。血ィ止まらんくなるぞ」
-☆-☆-☆-
それから一ヶ月後…
「復旧、殆ど完了しました」
珀はアースの前に立って口を開いた。
「ご苦労だな」
アースもそれに応える。
「とうとうこの地も狙われるようになりましたね」
「ああ。この頃はそういうのが多くて敵わん」
この頃は世界を丸ごと欲しがる輩が多いのだ。
「チームで依頼として参加する戦とここの襲撃とはだいぶ違いますから」
「そうだな。また戦を仕掛けてくる所があるかもしれん」
ドォンッ
破壊音が響いた。
「な、なに⁉︎」
驚いて窓の外を見る。
第三訓練所の森の木が地響きを立ててゆっくりと倒れた。
「安心しろ。ありゃあ麗音達だ」
アースがカラになった酒瓶を片付けた。
「またですか…」
大鎌を担いだまま梢の上まで跳躍した麗音を追って双刀を引っ提げた龍が飛びだす。
「あいつらもまだ発展途上だ。また戦が起きる時は今以上に強くなってるさ」
アースの呑気な言葉に珀は窓の外を見たまま頷いた。
見上げた空は珠に染まりはじめていた。
書き終わりました。
初めて書いた小説なので文章が拙すぎだと思います。
もし、ここまで読んでくれた方がいたら、とても感謝します。
ありがとうございました。