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迷想回廊 ピース・プレイヤー  作者: 邑 紫貴
起:小片遊戯
2/20

神経科学研究所


私立高校2年、雅世まさせ 佐起知さきち。17歳の俺は、中高一貫の全寮制に収容されている。

救いは男女共学で、節度は求められるが交際は自由。土曜日の授業はあるが、届けさえ出せば休日の外出も自由。

これで、彼女さえいれば文句はないのだが。

出逢いも限られ、休日は家業の手伝いの俺には絶望的でため息が出る。


俺の父は、雅世まさせ とおる

辺鄙へんぴな田舎で、記憶回復研究と銘打った会社『神経科学研究所』を営んでいる。

表向きは睡眠学習装置の製造と販売。裏では、夢に潜入して依頼者の失われた記憶を復旧するという仕事を請け負う。


オヤジは、夢への潜入を可能にしたシステム『瞑想回廊』の開発に成功した。

正に夢のような装置だが、記憶を回復させるため、夢に潜入してコントロールする能力が求められた。その力は10代をピークに激減する特徴がある。

つまりオヤジは開発に成功したが、ピスプレ……夢をコントロールする能力『小片遊戯ピース・プレイ』がない。

それで選ばれた俺も、最近では減退期のピース・プレイヤー



「サキチ。ピナちゃんは、ますます綺麗になったね。」

俺の席の前に立ち、窓の外を見ながら千弥ぜんやが呟く。

俺も視線を窓の外に向けた。


そこには、一つ年下の秘成ひなりが女友達と会話しながら、全開の笑顔を振りまいている。

そんな16歳の彼女をピナと呼ぶのも、どうなのかな……綺麗か、あれから3年も経つ。

周りには言っていないが、 オヤジは3年前に、年の変わらない彼女をピスプレ候補として連れてきた。

まだ夢の中への潜入経験が少ないピナは、不思議な雰囲気……俺は、彼女に踏み込めない一線を感じる。


「サキチ、何か思い出す事はないか?」

視線を教室の中に戻し、千弥に向ける。

「あぁ、千弥は俺の友達。中学から一緒。」

千弥は時々、俺を試す。


俺は記憶の回復を助ける側であって、失った物を求めて足掻くほどの物など心当たりがない。

記憶の片隅にもない物は、よみがえることがなく、どれほど夢の回廊を行き廻っても見つける事は出来ない。

少しでも記憶に残るなら、忘れた物でも心の深層に隠しても『アトラクタの箱』に要の欠片が存在する。

鍵となるピースを集め、誰かの記憶がよみがえる瞬間……俺の中も何かが埋まる。

満ちる様で、満たされず……繰り返す潜入は、俺にとって推理ゲーム。

オヤジや周りは、倫理だ何だと煩いが……


思い出すこと?

『ピナちゃんは、お前の好みだろ?』

ピナを初めて見た瞬間に感じた何かは、オヤジの一言が消した。


悔しいが好みだ。

年々、綺麗になっていく彼女に告白する野郎は増えるのに、焦りもなく……踏み込めもしない中途半端。

俺は好きな奴が出来たら、もっと積極的なのだと思っていた。

彼女と共に、潜入ゲームをする休日を過ごす優越感なのか、勘違いで満足なのか……自分を計り兼ねている。


千弥もピナの事を気にするのは、好意があるのかな?

前に尋ねたら、千弥の冷たい視線を受けた。意味が分からない。

今の千弥の視線は、憐れむように俺を見つめる。

「しょうがないな」と、ため息を吐きながら俺の頭に両手を当てて、髪をグシャグシャにした。

「お前、俺に言う事があるよね?」

グシャグシャの髪を直しながら睨んだ俺に、千弥は笑顔を返しながら。

「謝れ!」

だと?



オヤジの研究は、人の思考に触れ、書き換える事が可能だと実証した。

命の保障もない装置の使用を続け、裏での依頼も断らない。基準は分からないが、人は選んでいるようだ。

研究所と依頼者やプレイヤーの位置は、一定の距離を保つ。

それでも安全な状態が、優先事項……オヤジの古くからの友人が、依頼主の近辺を警護する。


裏の世界は分からないが、危険な香りがする龍二りゅうじさん。

側近のまことさんと七刀ななとさんが常に一緒に居て、更に強烈な危険臭が漂う。

オヤジ、どう見ても、研究や開発をしていた人間の友人には見えないぞ?

そうだな、それでも……昔からの信頼関係に、疑いがないのは羨ましい。それほど危険な仕事。


龍二さんは、二人以外の人を事務所に連れて来ない。

そこは、『神経科学研究所』のダミー事務所。

依頼用にも使用することがあるようだけど、PCはネットが繋がっていない。データはシミュレーション用の連想ゲームのみ。

依頼のない休日は、ピナと俺の遊びを兼ねた訓練。ちょっとしたゲームセンターのデート気分……


ピナは、告白してくる奴が多いのに、彼氏も作らず……こんなゲームに興味があるのか。

推理オタクな女子もいるんだな。


『何、サキチは私が彼氏を作らない理由を知りたいの?くすくすっ。それはね、あなたが…………』

前に訊いた時、ピナは何と答えたのか忘れてしまった。


思い出せるのはピナが最初からサキチ呼びだった事。

俺は、それに抵抗もなく……すんなりと受け入れた。きっと、俺好みの可愛い女の子だから許せたんだ。

思い出せるよ、とっても印象的な出会いだったから。

『はじめまして、サキチ。ずっと仲良くして欲しいな。』

そう言った後……君の目は、綺麗な瞳を歪ませるほどに涙があふれた。それは笑顔と同時に零れ、頬を伝った一筋。



俺は心奪われ………埋まらない…………


喪失



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