MISSIONE 2‐2 記憶の欠片
「秘成、行こう。時間がない。オオトリさんは、彼は……囮。俺が関係する事で巻き込まれた被害者。大人の語る倫理など分からない……俺は、それを侵せると証明する為に在るわけでもない。必ず助ける。約束したんだ……本当の名前を教えるって。」
秘成は自分で涙を拭い、俺に笑顔を向けた。
隙間が埋まる感覚。
奇妙な太陽モドキは、移動する俺達の頭上に付いて回る。
最近の出来事なのに、ナルの述べた深層心理の奥深くだからか、ピースの反応するアトラクタの箱は見つからない。
階層を下りる度に捜索するが、景色は変わらず……数えきれない程の箱と浮遊する文字列。
彼の過去に何があったのか……伝わってくるのは孤独だけ……
別の目的で潜入したナルが、触れてしまえるほどに脆い記憶。
日常での他人との接触のなさからなのか、普段の警戒心から解かれた夢だったからなのか……それは分からない。
記憶した知識は露呈するのに、人との係わりは一切見えないまま。
触れてはならない倫理を侵す記憶……この手元にあるピースは、何を意味するのか。
黒い一片。
太陽モドキにかざすと透けて見える景色。
「何か見える?」
動きの止まった俺に、秘成がピースを覗き込む。
あまりの近さに驚きと戸惑いが生じ、咄嗟によみがえる記憶。
考えないようにしていたのに。
「あぁ……秘成も、見てみろよ!霞む事もあるけど見えるぞ。」
秘成には聞こえない心音を誤魔化す様に挙動不審。
彼女は、そんな俺の様子に触れることなく、ピースを手に取って見つめる。
「……ねぇ、サキチ……今日は、潜入を中止しない?」
何を見たのか、沈んだような表情で俺と視線も合わせずに出した一言。
「どうして?」
「このピースは触れちゃ駄目、サキチ……お願い、戻ろうよ。怖いの!」
ピースを隠し、必死な秘成を傍観する。
きっと自分に関係する事。俺が知らない……『忘れ』てしまったシステムに関係する何か。
倫理を語る大人が侵すことをいとわず……それが何なのか考えるだけで、恐ろしいという感情が支配する。
この状況も怖い。
逃げ続けた結果に巻き込んだ人を、更に見捨てるのか?
「秘成、俺も怖いよ。だけど、逃げる事は赦されない。」
そう、オヤジも言っていた。これが『罰』なのかと……
「……あ、のね……サキチ。一度でいいから……私を……好きと言って……?」
え?
驚いて言葉を失う俺に、視線を向けて寂しそうな微笑み。
俺の思考回路はフル回転なのか、情報を整理しようと必死なのか、一瞬の間に色々な事が頭を過る。
「……秘成、俺は…………。」
言葉を出そうとする俺に反応したのか、その感情に共鳴したのか、ピースが光を放つ。
太陽モドキより強烈な光に目を閉じ、何度か瞬きをしながら状況の把握に努めた。
システムの異常?
マウントした夢に異変があったのなら、俺達は無事に戻れないかもしれない。
俺と秘成の慣れた目は、信じられないような光景を映し出す。
下りていた回廊と歩いていた階層を、外観するような位置に自分たちが居る。
それは、すべての階層を見る事が出来るような離れた場所。
太陽モドキは消え、闇に浮いているようで、足は地に着いたような不思議な感覚。
光度の弱くなった記憶のピースが俺達を照らす。
低照の光に包まれ、この状態での身動きの判断を惑う。
「見て!真ん中ぐらいの階層に、男の人が居る。」
秘成が指差す辺りに、ピースと同様の光を放つ『アトラクタの箱』と、その傍に立つ彼の姿。
この位置は、心の距離なのだろうか?
歩いて近づくことが可能なのかさえ分からない。
「秘成、俺が行く。お前は……」
「嫌!私も行く……それに、まだ……あなたから聞いてない。」
俺が言っていない言葉……
「秘成……君が好きなのは今の俺なのか?……ふっ。卑怯な俺……また、嫌いだと言われても仕方ないな。『前』を知らないんだ。だから君が欲しい言葉じゃないかもしれない……ごめん……忘れたことも理解できない“今の”俺が、秘成を好きなんだ。」
一線を引いた。理由も知らず無意識に……
秘成は複雑な表情で、言葉を選んでいるのか……見つからない……そんな感じだった。
うん、君の望んだ言葉じゃなかったんだね……
俺の中から消えてしまった記憶の欠片。
この手に在るのは彼の記憶の欠片……存在するなら、ナルが改変してしまった記憶は戻るだろう。
「行こう、ピナ……俺達はピース・ プレイヤーだろ?」
夢をコントロールする力は10代をピークに激減する特徴がある。
その能力『小片遊戯』が何故、俺達にあるのか。
記憶の復旧を行うピース・ プレイヤー。
そう俺はピスプレ……必ずピースを完成させて、記憶を復元してみせる!
きっと『アトラクタの箱』と共鳴する……存在するから。
記憶の欠片が…………




