エリス、空を飛ぶ!?
ギルとレンの『エリゆか♪』加入から一ヵ月と少々。
エリスが多くの感動を生み、トウマとカティナが、ギルとレンと毎日手合わせし、ファングに対し、以前よりは抵抗できるようになり、ギルが町の女性を癒し、レンが町の男達を虜にし、双子がギルとレンを活かし、荒稼ぎしていた。
そんな、ある日。
「これって、二人の仕業?」
「いいえ、違うわ」「むしろ教えてほしいわ」
「すげえ数だなあ」
「流石にこれだけの数を、一度に見るのは初めてね」
「ふむ……ファング、これはやはり?」
「だろうな。ノーリスは少ねえって話だからな。思わず集まってきたんだろ」
「か、可愛いですねえ♪」
店の軒下に集まっているモノ達をみて、全員が素直に驚く。
「Zzz……」
その中心には、彼女がいた。
彼女こそ、近い将来ノーリス中に勇名を轟かせる傭兵団、伝説の創始メンバー最後の一名。
始まりは近い。
…………
とりあえず、彼女を店の中に引っ張り込んだ一同。
椅子に座らせ事情を、と思ったのだが……。
「はい~、おはようございまZz」
「寝るんじゃない」(頭をはたく)「目を開けなさい」(無理やり目を開ける)
「はうぅぅ、いたいでZzzzzz……」
双子の睡眠妨害は、まさに眼中に無い彼女。
凄まじく長い――直立すれば、くるぶしに届くほどの水色の髪の艶やかさが素晴らしい、のだが、ろくに手入れしていないのだろう、ボッサボサである、が、ろくに手入れしないで、この髪の艶やかさを保っていることに女性陣が驚く。
着ている物は布……ボロボロの。
はっきり言ってしまえば浮浪者である。
とりあえず湯浴み決定。
実行――――――終了。
「カティナやレンさんとは違った美人さんだね、ファング」
「なんでおまえは、いちいち女の寸評を俺にさせんだ? まあ、綺麗なんじゃねえか」
「(そう言いつつ、律儀に答えるんだよな、ファングは)なあ、ギルはどう思う?」
「ふむ。美しいのは間違いないな」
小奇麗になって出てきた彼女に男性陣がコメント。好意的な意見。
どことなく浮世離れした雰囲気を纏う彼女。
間違いなく美しいのだが……。
「Zzzzzzz……」
「また寝てるわよ」「どこでも寝られるのね」
「すごいのよ彼女。少し目を離したら湯船で寝てるからね」
目を閉じ、涎を口元から溢れさせ、立ち寝する彼女。
なんというか……実にもったいない。
「たいへん、ごめいわくを、おかけ、しまZzzz……」
「そう思うなら」(右頬、つまむ)「いい加減に」(左頬、つまむ)
「「 目 を 覚 ま し な さ い ! 」」(同時に思いっきり引っ張る)
双子による気付け攻撃の痛みで、ようやく会話可能に。
「おなかが、すいたんです……」
「まともに話したと思ったら」「いきなり食べ物要求とはね」
仕方がないので食事提供。
朝食前だったので彼女の分も用意。
営業時間外というのも好都合ではあった(『エリゆか♪』は昼と夜の営業)。
「とってもおいしいですぅ……」
彼女が恍惚とした表情で一心不乱に頬張る。目尻に涙。
10分後
「ごちそうさまでしたあ、とってもおいしかったですぅ……」
「てっきり、また寝るかと思ったわ」「さすがに、起きた……ん?」
「………………すぅすぅ」
「「 随 分 器 用 ね っ !」」(二人が同時にもみあげを引っ張る)
眠そうな表情のまま寝ていた彼女を、双子が間髪いれずに起こす。
会って間もない者に対し、情け容赦の無いセーネとレーネ。
目の前の双子がなかなかに危険な少女達である事に気付いた彼女、寝ないように何とか踏みとどまる事を決めた模様。
そんなわけで、ようやく色々と事情を聞けることに。
…………
「頭が痛くなるわね」「一応、証明したわね」
「しっぱい、しっぱい~」
「す、すごい……のかな?」
「ある意味、凄いんじゃねえか」
彼女の名前はウミ。
少し前までアルシア大陸にいた彼女。
二人の弟を探しにノーリス列島群にきたそうな。
ノーリス最西端のアデリアにいる事からも間違いないだろう。アルシア大陸はノーリス列島群の遥か西に存在するからだ。
エリスの作る朝食の匂いに釣られ『エリゆか♪』到着。そのまま、店の軒で気を失ったらしい。
話を聞いていて、彼女にはある特技がある事が判明。
「山盛りね」
「ああ、てんこ盛りだな」
「使い方はわかったわね」「ええ、便利といえば便利ね」
「ほめられると、てれちゃうよ~」
「「 褒めてないわよ! 」」
彼女が特技を披露した結果が、テーブルの上になぜか大量に盛られた砂。
彼女の特技、それは、
「名前負けしすぎよっ!」「金の気配が微塵もないのよっ!」
「ごめんなさ~い」
「自称『錬金術師』は結構見てきたけど、いろんな意味でずば抜けてるわね……」
“ 『錬金術』 ”
物質を組み替え、または組み合わせ、新たな物質、性質、現象を生む魔術。
彼女は試みた。
店の銀の食器を金に変えようとっ!
失敗。鉄の板に変わりました。
彼女は試みた。
鉄の板を元の銀の食器に戻そうとっ!
失敗。石塊に変わりました。
彼女は試みた。
石塊をせめて鉄塊にっ!
「……とってもさらさらね」「……きめ細かいのが、評価できるわね」
「せ、せいこう?」
「「 大失敗よっっっっ! 」」
そんなわけで、テーブルの上に、こんもりと砂が盛られたわけだ。
そう、彼女はへっぽこ錬金術師なのだ。
「ねえねえ、ウミさん?」
「なぁに?」
エリスがどうしても気になる、アレの事を聞く。
「なんで、ウミさんの周りに――動物達――があんなに集まってたの?」
そう、軒で寝ていたウミの周りには、おそらく町内外全ての動物達が集まっていた。
「えっとねえ、わたし――『竜』なの♪」
全員、いや、ファング、ギル、レン以外の五人が驚く。
「ど、どうみても人……『器』が違うって事、ファング?」
「半分正解だな。力ある『竜』ってのは人型に――変身――する奴が多い。『竜』は基本『人族』が好きだから『器』の形を、自分で『人型』に変えんだよ。もっとも。こいつはそれだけじゃねえ。そうだろ、ウミ」
「うん。わたし――『神族』でもあるの~」
「ど、どういうこと?」
「パパが『竜族』で~、ママが『神族』なの~」
ウミは『混血者』。そういった者は少なくない。
「『竜』ってのは『魔素』の塊みてえなもんだからな。近くに寄ると心身共に休まる。特に動物ってのは『竜』の『魔素』が好きだ。ノーリスでは『竜』は滅多に『下界』に降りてこねえんだろ? そりゃ、群がるわな」
『竜』
世界最強の生物。強靭な肉体と、高い知性を併せ持つ。
その多くが、他の種族に寛容であり、特に人族を好む。
また、他の種族に害をもたらす者達の『天敵』となるのが、彼ら『竜族』。
「ねえ、ウミさん、『竜』になってよ~♪」
「うん、いいよ~♪」
「まちなさい、外でなりなさい!」「店でなったら、エリス共々、見世物にするわよ!」
双子の言葉に、エリスとウミが怯える。
そんなわけで外に。
「がお~ん♪」という、なんとも気の抜ける掛け声と共に、ウミの身体が光を放ち、ものの数秒で『竜』に変わる。足元には、ボロボロになった服を見て、見繕った双子、軽くイラついていた。
「おおおお、かっこいいよ、ウミさん!」
「色からいって『青竜』なのかな?」
「よくわかんねえな。ニホンには『竜』がいないからな」
「へえ、飛竜なのね。なかなか便利そうじゃない」「服が台無しになる事を除けばね」
淡い青の竜鱗が特徴的な姿。
大きさは中型。背丈は『エリゆか♪』よりも大きい。
突然現れた『竜』に町の人と動物達が集まる。
双子が住民を追い払い、ウミが動物達に話をつける。
眼をキラキラさせ昂ぶっているエリスに、
「空とぶ~?」
ウミが提案、即実行。
中型の飛竜ならば十人程度は乗れるので全員騎乗した。
…………
そんなわけで、現在地、ベネス上空。
長くなりそうなので昼間の営業は臨時休業。
「風が気持ちいいね、カティナ」
「ホントだねエリス(エリスを膝の上に乗せて飛竜騎乗……最高♪)」
「へえ、意外ね」「高い所、ダメなのね」
「ん、んなことねえ、お、押すなああああっ!?」
「はわ~、飛竜って凄いんですね~」
「いい経験が出来てよかったな、レン」
ベネスの町並みを見下ろしながら、ゆったりと空を進む一同、そこに、
「ねえ、ウミさん。雲の上ってどうなってるの?」
なんてことを、エリスが言い出したものだから、
「いってみる~?」
ウミが応えてしまう、急上昇する。
「あわわわわわわっ!?」
「エリス、伏せるね?(あわわわ、エリスの顔がこんな近くに!? は、鼻血でそう)」
「寒っ!?」
「レン、頼む」
「うん……」
一同に、風圧と寒さが襲う。
レンの炎で寒さ改善。『真器』同様、敵以外を燃やす事は無い。
ほどなく到着。
眼前に広がる光景に、全員が息を呑む。
青と白と光と影。其処にはそれ以外、存在しない。
その簡素ながらも純粋な美しさに、皆の心が奮えていた。
「くうきがおいしいよね~♪」
ウミの言葉で、我に返る一同。
「な、中々やるわね、ウミ」「我を忘れるなんて何年振りかしら」
「ほえ?」
突然双子に褒められ戸惑うウミ。
「あれ~?」
そんな彼女が何かに気付く。
「どうしたの、ウミさん?」
「ええとね~――ソラ――のにおいがしたの~」
「はい?」
「空の匂い?」
「びゅうううううん♪」
突然急降下するウミ。あっという間に、地上へ到着。
「……私の眼がおかしいのかな」
「安心しなさいカティナ」「私達も自分の眼を疑ってるところよ」
そこはアデリア王国のみならず、
「強そうな奴がわんさかだな」
「ですねえ。『授名者』もいますね」
ノーリス列島群に知らぬ者などいないであろう、ある傭兵団、その本拠。
「ソラはっけん~♪」
「お久しぶりです、ウミ――姉さん」
三年前の戦いに於いて、『世界』の『常識』を覆した彼らが在る場所。
「まさか、彼女の弟が『大魔』だったとはな」
「世の中、広いんだか狭いんだかわかんねえな、おい」
『暁光』傭兵団、その傘下の傭兵団『黒の忌鋏』。
そう、ここは彼らの本拠地である。