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ボクが団長!? ―黒き魔剣と傭兵王(未定)―  作者: 如月コウ
初めての【敵】との闘い!?
6/30

エリス、勝利の雄叫び!?



 少年がその身に、闘気らしきなにかを漲らせていた。

 当然だ。

 これから、彼にとって大切な戦いが始まるのだから!


 そんなわけで、


「みんな、おはよう! 朝だよ、始まるよ~♪」

「うんうん、始まるねえ(ああ、始めたい……色々、始めたいなぁ♪)」

「うい~、元気だなあ、エリス、ふわああ……」

「エリスちゃん、ごめんねえ、朝御飯作ってもらっちゃって」


 エリス、目の輝きがなんとも凄まじい事になっていた。

 そんな凄まじく気合の入ったエリスが、そのテンションのまま、真価を発揮する。

 案の定、


「おかしいねえ、みんなの顔が見えないねえ……なんで、だろうねえ……ぐすっ」


 ジェシカの見送りが、妙に感動的なものになってしまった。

 今回、ドルガ村に訪れた目的は、山賊退治。

 ここ一、二ヵ月、ドルガ村近辺に現れるようになったらしい。

 アデリア王国は近隣の国に比べ治安の良い方なのだが、ドルガ村のような辺境の町村では、中心部に比べるとどうしても荒れてしまう。

 とはいえ、おそらくはどこかの国から流れてきた奴ら。はっきり言ってカティナやトウマからすれば雑魚である。

 だからこそ、エリスに経験を積ませるのには最適なのである。


「山賊め、どこにいる! ボクが来たからにはもう逃げられないぞっ!」


 山賊の根城に関してはおおよその検討はついている、というか、セーネとレーネが被害状況、頻度、襲撃場所と周辺の地理を照らし合わせ割り出したのだ。

 寸分の狂い無く彼らを目的地へ導く、その知性。

 さすがはイルファス姉妹といったところ。


 …………


 ほどなく到着。

 最近現れはじめた事を裏付けるようなお粗末な住処。大きさからいって、せいぜい二十人前後の山賊団だろう。

 油断しなければ、何一つ問題のない人数である。


「ね、ね? 突撃するのかな、ボクがんばるよ? がんばるよ! がんばるよーー♪」

「エ、エリス、少し落ち着いて、ね?」


(カティナがエリスを宥める、斬新だな)


 山賊の住処を目にしたエリスの昂ぶりが凄まじく、さらに目の輝きが増す。

 いつもならエリスの姿を見て興奮するカティナ。そんな彼女が、慌てふためきなだめなくてはならないほど興奮している。


「騒ぐと参加させないぞ♪」


 トウマの言葉を聞いたエリス、あっという間に大人しくなる。

 落ち着いたところで、作戦立案開始♪


「今回はエリスがいるから安全策で行く。まず見張りの三人を潰す、静かにな。その後、小屋の周辺で周りの木に燃え移らないように集めた木の枝やら葉っぱを燃やす。で、煙を見た中の奴らが慌てて出てきたところを」

「とっちめるんだね!」

「そのとおり。動揺してる山賊程度なら、今のエリスの実力なら倒せるはず。俺とカティナもサポートに入る。安心してていいからな、エリス」


 というわけで、作戦開始。

 音を出すことなく、瞬く間に見張りを昏倒させ、縛りあげるカティナとトウマ。

 エリスの尊敬の眼差しに、カティナ照れ悶える。

 トウマがてきぱきと次の用意。

 ちょうど死角になるところで火を点ける、前に、周りの木を二人が静かに斬る。改めて着火。生木を燃やしたため、凄まじい煙が生まれる。

 その場を離れ、入り口から死角になる場所へ移動、待機する。

 しばし待ち、小屋の中から現れる山賊達。

 すかさず戦闘開始♪

 予想通り、二十人前後。エリスが相手にするには多すぎるので、


「トウマ、右よろしく」

「あいよ」


 二人が『本気』で人数を減らす。所要時間2分。


「て、てめえら、なにもんだ!」


 残ったのは首領と思われる服装が立派な男と、手下二人。

 他は全員失神。てきぱきと二人が縛っていく。

 エリスは、ただの一人も倒していない。

 そんなエリスが、首領の言葉に威風堂々と答える!


「このエリオット・ノルヴィーダ、悪党に名乗る名など無いっ!」

「どうしよっ!? エリス、超可愛いんですけど! ぶはっ♪」(鼻血を噴き出す)

「なんともエリスらしいな♪」

「きまんねえ奴だ」


「どうだ!」と言わんばかりの、いい表情を見せるエリス。自分のミスに気付く様子は無い。

 そんなエリスに襲い掛かる山賊達、その表情はとても険しい。


「わかってんな、エリス」


 ファングに返事するように動きだすエリス。


「ちぃ、ちょこまかと、このガキ!」


 その動きは細かく、すばしっこい。

 ファングの教えを守りながら、エリスは闘いに臨んでいた。


 …………


 教えその一 体格を活かせ!


「身体が小せえのは悪いことばかりじゃねえってことだ」

「どういうこと?」

「おまえは小さい。武器にもよるが、大抵は上から下への振り下ろしか、下から上の振り上げでおまえを狙うはず。線の、それも縦の攻撃が多くなるってことだ。その見極めさえ出来れば、かなり優位に戦える。的が小さいから点での攻撃、突きなんかは当てにくい。他にあるとすれば横薙ぎだが、あまり無いと思っていい。おまえくらい小さい相手を想定してる奴は少ない。してくるならそれはそれでいい、簡単に体勢を崩せる」

「そうなの?」

「ああ、重心が崩れやすい、やや前のめりに武器を振るわけだからな。避けて膝蹴りゃ、それで簡単に転ぶ。そんなわけでおまえに必要なのは、細かい動きを可能とする敏捷性だ。それさえあれば――」


 …………


「潜りこむように、懐に飛び込んで、打つべし!」

「なんだ、このチビ、速いぎゃ!」


 山賊の振り下ろしを軽やかに避け、そのまま懐に飛び込み、『ヴァルディア』の峰で、思い切り打ち込むエリス。

 その攻撃は、あのエリスとは思えないほどに鋭い。

 その鋭さもまた、ファングの教えである。


 …………


 教えその二 ねじれ!


「これ以上は、むり、だよ……」

「のんきに喋る元気があるなら問題ねえ、もっと押せトウマ」

「うぎゃあああああああああああ!」


 というわけで、身体を柔らかくするため、適度に柔軟。


「身体を柔らかくするってのは、筋肉を柔らかくするって事だ。筋肉が柔らかくなることで、身体の可動限界が伸びる。限界が伸びた分だけ、溜めを作れるようになり、威力のある攻撃が可能になる。その一連の動作が、捻るってことだ。剣は腰で振れってのは結局そこから来ている。特にオマエみたいに非力な奴こそきっちり捻れなきゃいけねえんだ。とにかく、限界まで捻ってきっちり振り抜く、そうすりゃ――」


 …………


「捻って振るべし! そして、離れるべし!」

「このガキ……よくもやってくれやがったな!」


 激昂する首領の周りには、痛みでうずくまる手下達。

 エリスが的確に、膝の少し上の太ももに打撃を加えたからだ。

 筋肉が薄いためダメージが大きい、かつ、エリスの体格だとちょうどいい高さのため、力を込めやすい。

 これもまた、ファングの教え。

 そして、距離を取る。

 エリスからは決して攻めない。

 じっと敵を見据える――隙を伺う。


 教えその三 空間を見ろ!


「空間を見る?」

「ああ。相手の目を見るとか、肩の動き見るとか、そんなことどうでもいいんだよ。敵の周囲を全部見て、動いたらこっちも動けばいい。つうわけで練習な。準備はいいか」

「いいよん♪」

「こっちもいけるぞ」


 トウマとカティナの手には、中身がスカスカの木の棒。

 二人がエリスの前に立つ。


「これからこいつらにおまえを攻撃してもらう。いつ攻撃するかはわからない。おまえは攻撃をかわすだけだ。三回避けたら終了。始めろ」


 そんなわけで二人の攻撃、当然、手加減してある攻撃をひたすら避けるという練習を、エリスは毎日かかさずやってきた。

 手加減してあるといっても、そこそこの腕前の武芸者並みの、そこそこ鋭い攻撃。

 それを毎日、身体を殴られながら避けてきたエリスに、


「避けて打つべし、さらに打つべし! 危ないから離れるべし」

「なんであたらねえんだ、このクソガキがあああ!」


 流れの山賊程度の攻撃が当たるわけもなく。


「細かく動いて、懸命に剣を振るエリス、可愛いなあ♪」

「口調は変だけど、案外様になってきてるよな」

「体勢崩すべし! 打つべし打つべし打つべし打つべし打つべし打つべし!」

「のわ、いでえ、ぎゃああああああ!?」


 エリス、初めての勝利!


「やった! やったよ、みんな!」

「うんうん、がんばったねエリス(やっぱり普段のエリスも可愛いな~)」

「ああ、上達したよな、すごいぞエリス(喜ぶときはいつもの口調だな)」

「エリス、こんなもんで満足すんじゃねえぞ。俺の持ち主は強くなきゃいけねえんだ、わかったか?」

「うん! もっともっと強くなってみんなを守るんだ♪」


 エリスの満面の笑顔につられるように、カティナとトウマも笑う。 


「健気ですねえ。純粋な人間はとても好ましい」


 カティナとトウマが、その気配を、意識を、瞬時に切り替える。

 二人は周囲に気を配っていた。

 もしかしたら山賊の生き残りや出払っている手下がいるかも知れない。

 それを考えれば当然の行動である。


「この少年――【私】にくれませんか」


 しかし【そいつ】は、二人の気配探知という名の網をかいくぐり、一切気付かれずに、エリスの至近まで接近していた。


「おっとこわいこわい、ふふふ」


 二人の動きを察知した【そいつ】が飛び退く。


「まさかこの俺が察知できないとはな。てめえ――今度は何を手に入れた?」


 ファングの口ぶりに、三人が違和感を覚えた。


「ふふ、少し前に『いい物』を頂いたのです。効果はご覧の通り。『この距離まで気付かれずに接近した』。なかなかいい感じですよ。ふふふ」

「このクズが。やっぱり――あん時、ぶっ殺しとくんだったな――」


 その会話はまるで――知己の交わす会話。

 そして、間違いなく面識がある、この二人。

 見た目は柔和な青年、年齢は三十前後だろうか。その穏やかな雰囲気とは裏腹な目の【昏さ】に、二人が警戒を強める。


(おまえら、油断するなよ)


 そんなことを、ファングが三人に伝える。


(油断、できるわけないよね)

(だな。エリスは後ろ下がってな)

(うん。ねえファング、あの人の事、知ってるの?)

(ああ。俺が『真器』になる前に一度な。あと――)


 ファングから伝えられる事実、それは、


(あいつは人じゃねえ。神、それも――【悪神】だ)


 人の天敵――【悪神】が目の前にいるという現実。


(嘘でしょ!?)

(こいつ、【悪神】なのかっ!)

(ひ、人に見えるよ!?)

(『器』なんざ問題じゃねえ。問題はその『魂』だ。神は大抵、人型。理由はしらねえ、神に聞け)


「ふふ、相談は終わりましたか?」


【そいつ】の言葉に、驚く一同。


(会話してるのばれてるじゃん!)

(え、なに、この会話、筒抜け?)

(ちがう。『真器使い』が会話を『心話』でこなすのは常識だからだ。【悪神】の中でこいつほど『真器』に詳しい奴はいねえからな)


「はっ、随分余裕だな、ゲーダ」

「それはもう。未熟な『授名者』二人に、『アウター』ですらない『真器使い』。簡単すぎますよね、ふふふ♪」

「……おいおい、なめた口聞くじゃねえか。この俺に勝てると思ってんのか?」

「ええ、思っていますよ。昔の貴方ならばともかく、その少年の元では『顕現』しても、普段のせいぜい三、四割程度でしょう。今の私ならば勝てますよ♪」


(ちっ、見透かされてるか)

(ちょっと待って! ファング、あれで半分いってないの!?)

(嘘だろ……マジで自信無くすんだけど)


 その事実に、月一でボッコボコにされてる二人がへこむ。


(ま、おまえらが思ってるほど、世界は甘くねえって事だ。んなことよりも今はこっちだ。あいつの言った通り『顕現』しても確実に勝てる相手じゃねえ。だから――奥の手でいく)

(奥の手?)

(ああ。トウマ――『俺』を使え)

(な、なんですとっ!?)

(いい機会だからな。『魔剣 ヴァルディア』の本当の姿って奴を見せてやる。あと勘違いすんなよ? これはあくまでも『代行』だ。トウマに持たせて『顕現』しても結果は変わらねえからな)


 カティナが反応する。『顕現』が強化されるんじゃないかと思っていたようだ。


「まあ、そうくるでしょうねえ」


 トウマが『ヴァルディア』を携える、すると、


「クックック、中々いいぜトウマ。いい感じに――」


『ヴァルディア』から黒い霧のような何かが現れ、トウマの、剣を握っていない左腕を覆っていく。


「――滾ってきたぜええええええ!」


 その左腕は、まるで『竜』の腕を模したような刺々しい形状、色は黒。


「数ある『力』の中でも『黒』を冠した『力』は少ねえ、何故なら!」

「その数少ない『力』の一つであり、最上位に位置する『黒の魔剣 ヴァルディア』に並ぶ程の、濃い『黒』などそうそういない。薄く見えるんですよ、貴方の前では」

「正解だ。さすがは『蒐集家しゅうしゅうか』ゲーダ。褒美だ、受け取りな」


(トウマ。左手をあいつに向けろ)


 言葉通り、トウマがゲーダに左手を向けると、


「これはまずいですね。『銀盾ぎんじゅんエステリト』」

「な、なん、だああああああああああ!?」


 左腕から『黒』が溢れ、暴れ、踊る。

 それは塊を成し、ゲーダを包み込むように襲いかかり、咀嚼し始める!


「こ、怖いよっ!?」

「あわわわわわ……」

「えげつねえな、おい」

「いいか、トウマを中心に戦う。トウマには俺がエンチャントをかける」


“ エンチャント ”

 補助魔術。『真器』の場合は効果が高いものが多い。


「いつもより動きが速くなる、その事を念頭に戦え。いいな、トウマ、カティナ」

「さすがは『黒の魔剣』」


 ファングの言葉は、現実を指し示す。


「闇属性に強い『エステリト』が、闇属性相手にここまで破壊されたのは初めてですよ」


 目の前の【悪神】との戦いは、これからが本番なのだと。

 その戦いが始まるのを、彼は見ていた。

 そして、迷っていた――今すぐ行くべきか、機を見て行くべきか、と。

 結局、彼は後者を選ぶ。

 選んでしまう己の弱さを、彼は苦々しく思っていた。



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