エリス、初めての任務!?
「~~~♪」
「エリス、ご機嫌だね」
「そりゃそうだろ、長い間、待ってたんだからな」
三人は山道を進む、目的地であるドルガ村を目指して。
目的は、山賊討伐。つまりは傭兵団としての任務。ちなみに双子は留守番兼休暇。
しかも今回はなんとっ!
「ボク、がんばるよ! ようやくファングの許可も出たんだ、悪党を懲らしめてやるっ!」
「エリスの記念すべき傭兵デビュー、はあ、絵師がいないのが残念……」
「ま、華々しい活躍、期待してるかね」
そう、エリス、初めての任務!
『エリゆか♪』結成から四ヶ月、ようやくエリスが傭兵として活動する。
ファングがエリスの傭兵活動を禁止していたのだ、で、ようやく許可が降りた。
曰く――
「自分の事も護れねえ奴が誰か助けるなんざ、十年はやいんだよ!」
ファングの言葉に納得したエリスが、『エリゆか♪』開始から四ヶ月ものあいだ鍛えに鍛え、ようやくファングに認めてもらったのだ。
「でも、あんまり無理しちゃダメだからね、エリス」
「カティナのいう通りだぜ。エリスはまだまだ弱いんだ。くれぐれも無茶すんなよ」
もっとも今のエリスは、自分の身をなんとか護れるようになっただけ。
「ま、雑魚から下っ端警備兵になったってとこだ。いざとなりゃ、俺が代わりに闘るから死ぬ事はねえが、その前にサクッと殺されたら意味がねえ。身の程わきまえろよ?」
「むう、わかってるよう……」
若干、拗ね気味のエリスがプンスカ歩いている最中、三人は話していた――心の中で。
(おまえ達、気付いてるか?)
(ええ、跡つけられてるわね。でも、この人って――)
(ああ――レベリアスさんだろ?)
どんな『真器』でも使用可能な『心話』という力を用いて、エリスにはナイショの話をする。
エリスでは気付けないが、三人には気付ける絶妙な距離で、一行を追跡しているひとりの人物。
実は全員が知っている人物、店常連のレベリアスさん。
『エリゆか♪』がオープンした頃から頻繁にくるようになり、面識があるのだ。
(あれってわざと気付かせてるの?)
(だろうな。自分は敵じゃねえ、ってアピールしてんだろ)
(なんだってそんなことしてんだ?)
(あれは『俺』の監視だ、『ヴァルディア』のな)
(なんでわかるの?)
(『真器』ってのは、『世界』で上位に位置する『力』だからな。悪用されるわけにはいかねえってことだろ。まして俺は悪名高い『狂剣』。いつ暴走してもおかしくねえって思われてんだよ、クックック)
やや自虐的な物言いのファングに、二人はなんともいえない思いになっていた。
(ま、放置してりゃいい。こっちから手出さなきゃ、あっちも干渉してこねえだろ)
二人はファングの言葉に納得。しかし、同時に疑問も生まれる。
一体『彼』は何者なのか、と。
…………
無事に目的地であるドルガ村に到着した一行。
そこで待ち構えていたのは、
「カティナちゃん、よく来てくれたね~♪」
「お久しぶりです~、ジェシカさん♪」
恰幅のいい女性、ドルガ村村長の奥さんであるジェシカ(四十八歳 ♀)が、カティナと親しげに挨拶を交わす。
実はこの依頼、カティナを通して受けたもの。
エリスと出会う前、フリーの傭兵だった頃の彼女が、ドルガ村で依頼をこなした事があり、それ以来ちょくちょく依頼を受けては足を運び、仲良くなっていたのだ。
さて、このドルガ村、ある名物がある。
カティナは、それも目当てで依頼を受けていた。
その名物とは、
「カティナちゃん、今年の新物、飲んでいくでしょ?」
「飲む飲む~、やっぱり現地で飲むのが一番だよねえ♪」
ずばり、お酒♪
アデリア王国で最も有名なお酒、ドルガのにごりワインを生産しているのが、ドルガ村。
その質の高さは、ノーリス最大の商業国家である『アヴァラム商国』が認めるものであり、ノーリス全体で見ても、一、二を争うほどの品質の高さ。
各国の業者やお酒好きが足しげく通うことで有名。
ちなみにセーネやレーネもドルガ村のワインは認めており、今回の任務は、それの仕入れも兼ねている。
…………
「っっっっっ!?」
「顔をしかめるエリス、ごくっ……」
「ホント何でもいけるよな、カティナは」
そんなわけで村長宅に宿泊する事となった一行。
村のワイン作りの責任者でもある村長宅では、当然ながら食卓にはワイン。
カティナもトウマも問題は無い。
「きゅうううううう……」
だが、エリスはどうやら酒にかなり弱かったらしく、一口飲んで即就寝。
普段セーネとレーネが、絶対に飲ませなかった理由がこれだったようだ。
「トウマ……」
「はいはい、ほら運んでくれ、って速ええな、おい」
トウマの言葉を聞くや否や、あっという間にエリスを連れていくカティナ。
かなり興奮していたが、カティナはあれで意外と初心な女性、決して手は出さない。
言い換えれば、カティナは毎日挑戦してるといえる。
(まあ、そういう意味では、微笑ましいっちゃ微笑ましいわな)
「トウマ……」
「あいよ、適当になんか持ってくか」
そんな事を言いながら、ワインとパンを入れた籠とたいまつを右手に。左手に『ヴァルディア』を持ち、外に出るトウマ。
「これ、どうですか」
雑木林に向け、トウマが声をかける。
そこから彼が――レベリアスが現れる。
白と赤を基調とした服装、それを纏う身体から漂う、戦士としての風格。
所作の一つ取っても、彼が只者では無いということがわかる。
そして、自然と哀愁溢れる表情に、彼の歩んできた道のりの険しさを伺わせる。
「何か用か『狂剣』」
「それはこっちの台詞だ。おまえ、どうしてえんだ?」
ファングの問いかけに、彼が口を噤む。
「気付いてんだろ、エリスが『特別』だってことに。俺を監視するのと同時に、あいつを護る為にここまでついてきた。違うか?」
「……そうだ。彼は、狙われる可能性がある。『狂剣』、おまえまでいれば尚更だ」
「何の話だ? エリスが狙われるってどういう――」
「彼はいまだ『アウター』ですらない。にもかかわらず――『真器』と『会話』が出来る。その特異な『力』、【奴ら】に知れれば、狙われる事になる」
「そうだ。だから聞いてんだよ。【おまえ】はどうしたいってな」
トウマは二人の会話を静かに聞いていた。
この二人は自分の知らない何かを知っている、それが何か知りたいため、口を挟まず聞いていた。
「答えろ――『咎』。『世界』で数人しかいない『隠者』の一人」
彼は『授名者』、予想はしていた。
しかし、その『名』は予想外だった。
「人の【裏切り者】であるおまえが何をするつもりだ。答えろ」
三年前、ある壮絶な戦いがあった。
傭兵団『暁光』、その傘下である『黒の忌鋏』と、死に絶えたはずの『神族』、その中の【悪神】と呼ばれる【人の天敵】との戦い。
その【悪神】側の大幹部の一人。
それこそが『咎』のギル。今、トウマ達の前にいる男である。
「今の俺は単なる『端役』。比較的自由に動ける。だからこそ――」
「エリスを護る事で、贖罪したい、ってか? それはあまりにも都合よすぎやしねえか。まあ、俺が言える事でもねえかもしれねえけどな。おまえ、これまでどんだけの【悲劇を演出してきた】? あいつ一人を救うだけで、それら全部を帳消しできるわけねえだろうが」
「……おまえに言われるでもない。そんな事は承知している。罪を、罰を――『咎』を放棄するつもりは毛頭無い。俺は贖罪のため彼を護りたいのではない。彼が――」
ギルは二人に理由を語る。
それは、二人を完全に納得させうる理由であった。