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エリス、『傭兵』を目指してます!?




 駆ける。

 少年が駆ける。

 その走りはこれ以上ないほどに…………遅い。


「あわわわわわわわわ!?」

「慌ててる姿もそそるわぁ♪」

「あっはっは、面白くなってきた!」


 必死に走る少年の後を、そのゆっくりな走りに合わせ、追いかける青年と女性。

 そんな三人の後方からは、砂煙を上げる奴らの群れ!


「あいつらに凌辱されるエリス……やばい、鼻血でるかも」

「ほらほら、急がないと色々やばいぜ、エリス」

「……、………、……、……………!?」 


 エリスと呼ばれた少年の背中を二人が押しながら急がせる。

 当の本人、喋る余裕は微塵も無い。

 二人に押され、自分の限界以上の速度で走らされているのだから仕方がない。

 そして、そんな無理をしていれば、


「あうっ!」


 転倒もするだろう、そんな少年の姿に、


「くっ、絵師は……絵師はいないのかっ!」

「いたらマジで笑えるっての。ほれカティナ、そっち持ってくれ」

「笑い事じゃない、可愛いんだよっ! ほら持ったよトウマ。さあ、絵師を呼んでっ!」


 一切切羽詰っていない二人 ” が、少年の両脇を抱え駆けだす―― “ 速い ” 。


「うぅぅぅ、痛いよぅ……」

「な、なんたる可愛さ……あ、鼻血出た。エリス、助けてー♪」

「ぶはははっ、すげえ垂れてるし! 顔真っ赤じゃねえかっ♪」


 トウマと呼ばれた青年は大笑い、カティナと呼ばれた女性は痛みに悶える少年に興奮。

 その彼女から血を浴びたエリス。顔の右半分から胸にかけて、真っ赤になっていた。


「ほら、もうすぐだ、もうすぐエリスは私の物にっ、なるっ!」

「おまえ、どんだけ飢えてんだよ、飽きないのっ、かっ!」


 ある地点に差し掛かり、二人がエリスを抱え――その場所を飛ぶように通過する。直後、大きな音が周囲に響く。


「まだまだ満ち足りて無いからね。あと十年はいける!」

「(鼻血塗れだけど)いい顔してんな。でもそれ『アウター』に成るの前提じゃね? 成らなかったら十年後は――」

「――みなまで言うな! 大丈夫、エリスならきっと!」

「ま、たしかに期待したくなるよな。お、エリス、もう平気か?」

「う、うん。まだちょっとヒリヒリするけど大丈夫だよ。それより……」


 そういって、彼らは、大きな音の中心へ向かう。

 そこには、


「やった…… “ うまくいった ” ! 成功だ!」

「うんうん、そうだねエリス(ぶはっ! いい笑顔、ありがとうございます♪)」


 大きな落とし穴。その中には、野生のイノシシが八頭。


 ここはノルジアの森。

 彼らの住むアデリア王国南西の小さな町ベネス近郊に広がる、多くの野生の動物や魔物がすむ場所。

 三人は、ある目的を果たすため、この森にやって来た。


「こんだけ捕獲できたし、当分もつだろ」

「そうだね。あとはボクの腕次第だ、がんばるよ!」

「この数なら結構なお金になりそうね♪」


“ お金が無い → 食べ物を買えない → 自分達で調達! ”   


 まあ、そういうわけである。

 そして、獲物を前にしたエリスこと――エリオット・ノルヴィーダが、その真価を世界に見せつける!


 …………


「毎度あり、また、来てくれよな」

「中二本、大三本追加よろしくね♪」

「エリス、もうすぐ在庫なくなるわよ」「三番テーブルの追加分、遅いわよ」

「もうすぐ出来るから待ってて!」


 そこは戦場。

 生と死の狭間で戦士達が咆え猛る粗野な舞台。


「すんません、品切れなんですよー」

「ありがとうございました~」

「よし、終わったわ」「無事、終わったわ」

「はあ、疲れたぁ」


 そして……戦いが終わった。


 ここは食事処。

 お腹を空かせた老若男女が歓喜する野外レストラン。

 ここで食事を終えた者は皆、口を揃えてこんな事を言う。


 彼は天才だ、と。


「美味い、美味いぞおおおおお。くそう、止まんねえ……止まんねえよ!」

「おいひ~♪」

「エリスの本気、さすがね」「そうね、何も言えないわ」

「い、いや、みんな、大げさすぎないかな」


 エリス達は拠点兼仕事場兼住居である町外れの野原で食事をしていた。

 彼ら彼女らの眼前に広がる料理の数々。

 その全てに賛辞を贈る四人。贈られた本人は困惑。


「いい加減自覚しなさい、エリス」「いい加減認めなさい、エリス」


 困惑するエリスを促す言葉が放たれる。


「あんたは料理の天才」「その道に進むべきなのよ」


 顔と声が全く同じである二人の少女の言葉を、


「……いやだ」


 はっきりと拒むエリス、その顔は険しい。カティナ悶える。


「セーネもレーネも応援してくれるって言ってたじゃないか。なんでそんなこと……」


 応援してくれていると思っていた二人の言葉に涙ぐむエリス。カティナ更に悶える。


「エリス、そんな簡単に泣くんじゃないわよ」


 桃色の長い髪、その右側を結んでいる――セーネ・イルファス。


「あんたがしたいようにすればいいのよ。でもね、もったいないじゃない?」


 セーネとは逆に、左側を結んでいる少女が――レーネ・イルファス。


 背丈、声、そして顔立ち、その全てがほぼ同一である彼女らは、見ての通りの双子、そして美少女。

 性格はかなりきつい、だがそこがいいという男が多数。

 ちなみに、エリスという愛称は彼女達が命名。

 そんな彼女達がエリスに対し、もったいない発言をしてしまう理由。


「あんたに『傭兵』はつらいでしょ?」


 そう、エリスは『傭兵』になりたいのだ。



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