第2章
若い僕の煩悩は日夜、葛藤し続けた。君の透き通るような白い肌。鎖骨の周辺の艶かしい造形美・・。手が届きそうで、永遠に届きそうにないように思える君の存在・・。
だが、僕は、その責苦を自分に目標を課して勉強に打ち込むことで、昇華していった。
僕は心底、この出会いを1%の奇跡だと信じるようになっていた。
だから、君のためにできることは、何でもしてやりたかった。
君の笑顔をいつも見ていたかった。
だけど、君は「あなた好みの女にしようたって、そうはいかないわよ」と、僕の僅かな経済的な援助も、すげなく断るのだった。
好きな女性が、朝から晩まで身を粉にして働き、睡魔と闘いながらレポ−トを書いている姿を間近に見ていると、ただ単に、君が女性として素晴らしいから・・という理由を超越して、僕は厳粛な気持ちで、君に敬意を覚えていた。
僕は、『カルネアデスの船板』を思い出した。
これは、もし船が難破し漂流した時、2人でつかまった船板が1人分の重量にしか耐えれないとわかった場合、自分の命を守るために相手を殺しても罪に問われない・・・という法律上の解釈をいう。
もし、そんな状況下ならば?・・・と、僕は考えた。
そして、迷わず、君を残すために自死の道を選択するだろう・・と確信したんだ。
どんな自己犠牲を払っても、必ず君を守ってやりたい。
それは、それまでの僕の中には存在し得なかった異質な感情だった。
そう、あきれるほどに、僕は君に恋をしてしまっていたのだった。




