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ここは神ノ樹通り裏路地12番街骨董店

ここは神ノ樹通り裏路地12番街骨董店*星を見に行こう*

作者: 夢咲みやと
掲載日:2026/05/20

ここは日本に有る、どこかの裏路地の骨董店。

そこには魔女が住んでおり、強い願いの有る者には扉を開いてくれると言う。

願いを叶えてもらうには、一つだけ大事なものを差し出さねばならないがーーーー。


これは人に寄り添いながらも人とは違う、ある一人の魔女の物語。


*不定期に書くつもりです。出来る時に細々と。現代日本が舞台のファンタジーです。

**毎回、暗い話だけと言う訳では無いと思います。

*星を見に見に行こうか*



ここは神ノ樹通り裏路地。

普段は決して見つける事は出来ないが、店主が認めた者だけには扉が開かれるという。


 その日、小学3年生の苅沢時春(かりさわときはる)はその骨董店を探していた。どうしてもどうしても、どうしても叶えたい願いが有るからだ。どれだけお金がかかるのかは分からないが、お年玉も貯金箱の中身も全部持ってきた。貯めに貯めた金額は6万円。10歳の子供にしては大金だ。




 昨日、時春は学校帰りの昇降口で、女子が話しているのを聞いた「神ノ樹坂の魔女は願いを叶えてくれるんだって!」時春は、心臓がどきんと跳ねた。


 正に自分には今叶えたい事が有ったからだ。「私も聞いた事有るー!でも、そのお店見つけた人居ないんでしょ?私もこの間、さっちんとはーちゃんと探しに行ったけど見つからなかったよ」やっぱり嘘なのかなーと女子はランドセルをカタカタ言わせながら昇降口から出て行った。




 もしかしたら見つかるかもしれない。だって自分はこんなにも切実なのだから。

 路地から路地へ。もう探せる場所は全部探してしまった。夏の熱気が肌をじりじりと焼く。それでも夢春は諦められなくて、リュックのペットボトルの水を飲みながら、辺りを見回した。


 すると、先ほどまでは何も無かった壁に、古めかしい木のドアが現れていた。ステンドグラスのような窓が付いた、外国の建物のようなデザインのそれは、ビルの間ではあまりにも異質だった。ドアからは何も音がしなくて、人が居るような気配すら無い。


 それでも、ひょっとしたら。


 時春はごくりと喉を鳴らすと、吸い込まれるようにドアノブを開けていた。


 からららーん。


 古いドアベルの音が響き渡る。店内は薄暗く、一歩中に入ると薄っすら香の匂いがした。嫌な臭いでは無く、むしろ懐かしささえ感じる。


「いらっしゃい、何か御用かな?」


 声がした方を振り向くと、ランプの下で本を開いたままの女の子が控えめに笑んでいた。

 魔女と言うからには、もっと年寄りを想像していたのだが、どう見ても高校生くらいにしか見えない。髪はお団子にしておくれ毛を出していて着物のような合わせの有るワンピースを着ている。その上からエプロンを付けていて、どうやら店の店員だという事は分かる。


「ふむ」


 女の子は店の中央にあるソファを勧めると、冷たい麦茶を出してくれた。

 時春はちびちびと麦茶を飲みながらも店の中が気になって、ちらちらと視線を走らせると、沢山の古書、アンティークの時計、何かの測り、天球儀、ステンドグラスのついたランプなど、多種多様な商品が見受けられた。


 女の子はまた店の奥の椅子に戻ると、テーブルに肘をついて言う。


「神ノ樹坂裏通り骨董店へようこそ。私はここの店主だよ。……この店は誰にでも開かれる訳じゃないんだ、君には何か切実な何かが有るんじゃないかい?」


 まつ毛の長い色素の薄い目が、興味深げにじっと時春と見つめる。


「約束……」


「ん?」


「約束したんだ、李夜(りよ)ちゃんと」


「ふむ、じゃあ、一からちゃんと話して貰おうかな」




 最近まで自分は田舎の祖母の近く病院に入院していたが、同室に女の子が居た。その子は病院から出た事が無く、時春に外の話をしきりに聞きたがった。海の熱気、夏の匂い、露の重い肌の感触。そんなに毎日話していれば、仲良くならない訳が無い。

 

 そして図鑑と新聞を見て知ったのだ。この秋に流星群が有るのを。彼女と「今度、星を一緒に見ようね」と約束したのだ。その日は正に今日なのだ。


 だけれど、その前に時春は退院していった。


「話だけ聞いてると、病院に行けば一緒に見れるのでは?と思うが、そういう事じゃないんだろうね」


「流星群まで時間が無いから、もう一度会って改めて約束したいのに病院に連れて行ってってお父さんとお母さんにも言ったけど、忙しいって連れて行ってもらえないんだ。

 だから、これで連れて行ってもらう事は出来ない?物事には何事も対価と言う物が発生するってお父さんが言ってた」


 時春は全財産をテーブルに乗せた。難しい言葉を知っているねぇと魔女は呟いたが、それを一瞥しただけで手すら出さなかった。


「魔女としての私には、お金なんてどうでもいいんだ」


「それは叶えられないって事……?もう時間も無いのに」


 時春の目にはすぐに銀色の幕が張られて、たちまち雫がぽとりぽとりと膝に落ち始めた。あの日は流星群の日が分からなかったから細かい約束は出来なかったが、一生懸命調べて日付が分かったので、お見舞いがてらきちんと相談したかったのに。今日じゃなければだめなのに。




「出来ないとは言って無いよ。ただ、お金をもらう依頼じゃないってだけ」


「え?」


 八方ふさがりだと思って目の前が真っ暗になっていた時春は、意味が分からずに顔を上げた。まだ涙を止める事が出来なくて、頬を伝っているままだ。


「魔女への報酬は何だと思う?答えはね、感情を一口貰うんだ」


 魔女はガタンと席を立つと、静かに歩いてきた。時春は反射的にバッと胸を押さえる。


「それはお父さんとお母さんを好き、とか、嬉しい、とか、そういうのが無くなるって事?」


「ああ、そういう風に取るのか」


 魔女は袖で口元を隠し、ふふっと可笑しそうに笑う。そして、時春の胸に指を当てて、軽く押す。


「今回は”悲しい”の感情だよ」


「悲しい……それじゃ僕が損をする事は無くない?等価交換ってそういう物じゃないんでしょ?」


「君は早熟だなあ」


 眉を八の字にしたかと思うと、今度は怪しく笑う。


「でも、私が何の感情を食べたいか、というのは、その時の私の気分次第だよ」


 時春が困っている間にも、言葉は続く。


「さ、どうするのかな。それで良い?悪い?」


「い……良い!!」


「よし、契約成立だ」


 魔女は店主の席の後ろの棚にある紅茶の缶からビー玉くらいの鈍色の球を出す。そして悪戯っぽく笑うと、その小さな玉を押し当てた。


「じゃあ、ソファに姿勢を正して座って、ちなみに痛くは無いよ」


 途端にごう!っという突風の中に放り込まれ、風がやんで目を開けたら、そこはかつて入院していた病院の前に居た。


「李夜ちゃん!」


 病室の場所は分かってる。時春は気が急いて走り出した。看護師さんの廊下を走ったら危ないという声で速度を落としたが、足は依然速いままだ。3階の突き当りまで来ると、時春は一つ呼吸をしてからノックをした。


「はーい」


 病室の奥からのんびりした声が聞こえて来た。懐かしくて懐かしくて、ドアを勢いよく開けた。李夜はベッドに座って窓から外を眺めていた。李夜は驚きながらも「来てくれないかと思った」と笑った。


 時春はベッドを起こしてから李夜をそれに寄りかからせると、退院してからの話を始めた。親が病院に連れて来てくれなかったから中々来れなかった事、流星群が今夜な事。


「夜なのに病院に居て大丈夫なの?パパとママに怒られちゃわない?」


 李夜は心配そうに言う。


「今夜は特別なんだ。約束を守りに来たんだから、怒られても平気だよ」


 二人は顔を見合わせて笑う。


 流星群は夜の7時。まだ時間は有る。二人は会えなかった間の事を、ずっと話していた。もっとも、李夜の生活は代り映えしないので時春が主に話していたのだが。


 茜色に包まれた空はやがて紺から藍のグラデーションになる。今か今かと7時を待っていたら、チラチラと星が散り始めた。やがてそれはシャワーのように降り注ぎ、空を埋め尽くしていた。


 茜は空を見ながら感動している。


「有難うね、約束守ってくれて」


「どういたしまして。約束は守らなきゃね」


 それを聞いて、ばっと時春の方を振り向くと、噛みしめるように言った。


 ”バイバイ、ありがと”


 それを聞いて呆けていると、病院の前に来た時のように風に包まれたかと思うと、店の中に戻っていた。

魔女はソファに寄りかかりながら、足を組んで座っていた。


「友達には、会えたかい?」


 魔女は否定の返事など想定してないだろうに、そう言った。


「うん……有難う」


 それを聞くと、満足そうに頷いてからからテーブルに置いたお金と一緒に時春を店から追い出した。だが、慌てて振り向くと、もうそこにドアはなかった。

 狐につままれたようとは、この事か。


 しきりに首を捻りながら家路を急ぎ、着いたのは夜の八時。母は玄関の外で待っていた。相当にお冠だ。


「こんな時間までまでどこに行ってたの!お父さんも探してて、色んなお友達の家にも電話かけたのよ!」


「約束してたから、李夜ちゃんと流星群を見てたんだ。遅くなってごめんなさい」


 時春がしおらしく謝ると、母は怪訝な顔で言った。


「時春には言わなかったけど……李夜ちゃんは先週亡くなってるわよ?お見舞いに行こうと思って、李夜ちゃんのお母さんとたまに連絡を取ってたけど、時春が退院してから良くなることは無くて。先週亡くなったって聞いたわ。どういう事?」


 母の言葉が頭を上滑りしていく。


 ”バイバイ、ありがと”


 その声は確かに李夜だったのに。

 胸にぽっかりと穴が開いて心がスースーと音を立てて動けない程なのに、何故か涙は出なかった。




「あの子の”悲しい”はこんな色か。レモンとラムネが混ざり合った、奇麗な色だね」


 魔女はランプの光に透かして色々な角度で見た後、泡沫のビー玉の様だったそれを、ポイと口の中に放り込む。


「すっぱくて苦い……?叶わない初恋の味ってやつかな」


 口の中でコロコロと転がして溶かすと、今回の依頼を手帳に書き終えパタンと閉じる。




 ここは神ノ樹坂裏通り骨董店。店主の目に叶う依頼が有るならば探してみてください。古いドアがあなたの前に開かれるかも知れません。


***普段はTRUEENDもどきは書いておりません!!期待した方申し訳ありません。今はファンタジー物を書いております。https://ncode.syosetu.com/n3381ma/


オチは有りがちですね。実はマンガでネーム切ってたんですが挫折。心の目で見てください。

沢山文字数書いたつもりだったのに、少ないのは何故なんだぜ。もともと5ページくらいの短編マンガだったので。マンガで考えるのと文字で起こすのとでは全然違いますね。

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