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効率厨の俺が「理」を極めたら、戦争なしで世界を統一してしまった件 無限魔力×教育革命で三千万を救い、文明ごと塗り替える  作者: 慈架太子


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第2章 「氷の家と露天風呂、異世界を快適化する男」

夕闇が迫る森の奥、いつもの野営地に辿り着くと、ヴァイゼルは掌を軽くかざした。

「さて、今日は臨時ボーナスも出たことだし、少し文化的な生活をしようか」

無詠唱で練り上げられた無限の魔力が、周囲の水分を一気に凝縮させる。透き通るような美しい氷の建屋が二棟、瞬く間に組み上がった。内部には氷を削り出した土台があり、その上にはヴァイゼルが「新製品」と称する寝具が用意される。


「おい、ヴァイゼル……。氷の家は理解できんこともないが、氷のベッドなど修行か何かか? 私は戦士だが、凍死する趣味はないぞ」

アンジェリカが眉をひそめ、高圧的に詰め寄る。その170cmのしなやかな肢体は、連戦の疲れでわずかに強張っていた。


「まあ待ってよ。中身は『ウォーターマットレス』だ。水を魔力の被膜で包み込んであるから、濡れる心配はないし、中の水温は魔法で常に体温より少し高く保ってある。寝返りに合わせて形が変わる、前世の高級寝具の再現だよ」

アンジェリカが恐るおそる指先で触れると、それは未体験の弾力で彼女の指を押し返した。

「……む、温かい……。それに、この不思議な反発力……貴様、本当に魔法を便利使いしおって」


「極め付けはこっちだ」

ヴァイゼルがさらに魔力を練り上げると、二つの建屋の間に、湯気を立てる巨大な氷の浴槽――露天風呂が出現した。底には滑らかな小石が敷き詰められ、周囲には魔力で溶けないよう固定された氷の壁が、適度なプライバシーを守っている。


「アンジェリカ、先に使っていいよ。身体を洗うための温水も用意してある。騎士団時代、ゆっくり風呂に入る暇もなかったんだろ?」

「な……露天、風呂だと……!? 貴様、私を裸にしてどうするつもりだ! 不敬にも程があるぞ!」

アンジェリカは顔を真っ赤にして怒鳴ったが、立ち上る湯気と、微かに香るハーブの匂いに、その意志は急速に溶け出していた。


「誰も覗かないよ。俺はあっちで飯の準備をしてるから。……ほら、せっかくの『アクセル』や『マッスル』で酷使した筋肉を、魔法の湯で癒してきなよ」

「……ふん! 貴様がそこまで言うなら、入ってやらんこともない。感謝しろ、この無能め。私の入浴中に近づいたら、その時は本当に首を跳ねるからな!」


そう言い捨てて、アンジェリカは氷の衝立の向こうへと消えた。

しばらくすると、ザブンという派手なお湯の音と、「……はぁ……」という、普段の彼女からは想像もつかないような、甘く蕩けた溜息が聞こえてきた。


ヴァイゼルは、その音をBGMに、次元収納から最高級の肉と大量の野菜を取り出した。

(……あの高圧的な美人が、湯船でリラックスして無防備になってる。……想像するだけで、こっちの魔力制御が乱れそうだな)

元サラリーマンの理性で雑念を振り払いながら、ヴァイゼルは氷の鍋に魔力を注ぎ込んだ。今夜は、市場で買った大量のパンに合う、最高に濃厚なシチューを作るつもりだった。





湯気とともに森の中に漂うシチューの香りが、風呂上がりのアンジェリカを誘い出した。

彼女は氷の建屋から、支給した簡素な麻の寝着を纏って現れた。風呂上がりの熱気で上気した頬と、しっとりと濡れた黒髪が月光に映え、普段の苛烈な女騎士とは別人のような、艶やかな美しさを放っている。


「……待たせたな。貴様、不敬にも覗きなどしておらんだろうな?」

「するわけないだろ。それより、湯冷めする前に食べようか」

ヴァイゼルは掌をかざし、食卓の上に次々と「新製品」を成形していった。透き通るような氷の平皿、氷を薄く削り出したスプーンとフォーク。そして、市場で買ったばかりの冷えたエールをなみなみと注いだ、重厚な氷のジョッキだ。


「……また氷か。貴様はどれだけ冷たいものが好きなのだ。……む、だがこのジョッキ、エールの冷たさが損なわれん。……合格だ」

アンジェリカは高圧的に言い放ち、氷の椅子に腰を下ろした。


ヴァイゼルは、氷の鍋でとろとろに煮込まれたシチューを、彼女の皿にたっぷりと盛りつけた。グレーウルフの旨味と、市場で買い占めた新鮮な野菜の甘みが凝縮された濃厚な茶褐色のソース。そこに、香ばしく焼き上がったパンを添えて差し出す。


「さあ、召し上がれ。熱々のシチューと、キンキンに冷えたエールの組み合わせだ。前世じゃ最高の贅沢の一つだったんだよ」

「……ふん。毒味をしてやると言っただろう。いただきます、だ」


アンジェリカは氷のスプーンを手に取り、熱いシチューを一口運んだ。瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれる。

「……っ! なんだ……この濃厚さは。肉が……噛む必要がないほどに解ける。それに、このパンを浸して食べると……っ」

彼女は夢中でパンを千切り、シチューに浸して口に運ぶ。そのたびに、170cmのしなやかな肢体が、幸福感でわずかに震えた。


「ぷはぁっ……! このエール、喉越しが格別だ! 氷の器がこれほど酒を美味くするとはな。……ヴァイゼル、貴様、魔法の使い道こそ間違っているが……料理の腕だけは、宮廷料理人にも勝るかもしれん」

ジョッキを煽り、口元に白い泡をつけたまま、アンジェリカは満足げに鼻を鳴らした。


「それは光栄だね。……でも、そんなに急いで食べなくても、シチューもエールも無限にあるからさ。俺の次元収納を空にする勢いで食べてよ」

「……当たり前だ! 貴様が不必要に買い込んだ食材だ、私が責任を持って処分してやる。……ほら、次を盛れ! 騎士を待たせるとはどういうことか、分かっているな?」


高圧的な言葉とは裏腹に、彼女の表情はこれまでになく穏やかだった。氷のテーブルを挟んで、熱いシチューを囲む二人。

(……性格は相変わらずだけど、こうして美味しそうに食べてくれるなら、サラリーマン時代に培った『接待スキル』も報われるってもんだな)


ヴァイゼルは自分のジョッキを彼女のそれに軽く当て、澄んだ氷の音を響かせた。

夜の森に、二人の笑い声と食器が触れ合う音が、静かに溶けていった。





食後の静寂が訪れた野営地で、アンジェリカは氷のジョッキに残った最後のエールを飲み干した。

少し赤らんだ頬と、微かに揺れる瞳。普段の彼女を鎧のように覆っている「元騎士」としての強固な自尊心が、アルコールとヴァイゼルの料理によって、少しだけ綻びを見せていた。


「……ヴァイゼル。貴様、不思議に思わんのか。なぜ、名門であった我が家が、こうも容易く取り潰されたのかを」

焚き火の代わりに氷の建屋から漏れる淡い光が、彼女の横顔を照らす。アンジェリカは空になったジョッキをじっと見つめ、低く、重い声で話し始めた。


「私の父は、愚直なまでに王家に忠誠を誓う騎士だった。だが、その実直さが仇となったのだ。……黒幕は、現王太子側近の公爵、ルヴァンだ」

その名が出た瞬間、アンジェリカの手がわずかに震え、氷のジョッキがパキリと微かな音を立てた。


「あの男は、隣国との密貿易で私腹を肥やしていた。父は偶然その証拠を掴んでしまったのだ。告発しようとした矢先……父には身に覚えのない反逆罪が着せられ、一族は皆殺し、あるいは追放。私は騎士団を追われ、家は取り潰された。……あの日、燃える屋敷を背に逃げ延びた私の背後で、ルヴァンは冷笑していたよ」


アンジェリカは自嘲気味に笑い、長い指で目元を覆った。170cmの堂々たる身体が、今はひどく小さく見える。

「……貴様のような能天気な男には、想像もつかんだろう。信じていた正義が、金と権力によって紙屑のように破り捨てられる絶望が」


ヴァイゼルは、黙って彼女の話を聞いていた。35年のサラリーマン人生で、彼は嫌というほど見てきた。真面目な人間が割を食い、要領のいい悪党がのさばる理不尽を。上司のミスを押し付けられ、泥を被って去っていった同僚たちの姿を。


「……いや、よくわかるよ、アンジェリカ。どこにでもある話だ。俺のいた世界でも、同じようなクズはたくさんいた」

ヴァイゼルは新しいエールを彼女のジョッキに注ぎ、自分も一口飲んだ。

「でもさ、今度は君に『力』があるだろ? 俺が教えたアクセルにマッスル、それにバレット。……その公爵、次に会ったときには、腰を抜かして逃げ出す暇も与えないくらい、コテンパンにしてやればいい」


「……コテンパン……? 貴様、またわけのわからん言葉を……」

アンジェリカは毒気を抜かれたように顔を上げ、少しだけ笑った。その瞳には、先ほどまでの絶望ではなく、静かな、しかし激しい復讐の炎が宿っていた。


「……ふん。当然だ。貴様に叩き込まれたこの妙な術……試さずにはいられんからな。ルヴァンの喉元に、私の氷の弾丸を突きつけるその日まで、私は止まらんぞ」

彼女は再び高圧的な口調を取り戻したが、その指先は、そっとヴァイゼルの袖を掴んでいた。


「……そのためにも、ヴァイゼル。明日からも、その……『研修』とやらを続けろ。私の足手まといにならぬよう、貴様も精進しろ、この無能め」


「はいはい、承知いたしました、騎士様」

ヴァイゼルは苦笑しながら、彼女の震えが止まるまで、その隣で静かに夜風を浴びていた。





森の朝露が氷の建屋を濡らす頃、静寂を切り裂いて鉄錆の匂いが近づいてきた。

「見つけたぞ、反逆者の娘……そして、得体の知れない魔導師め」

街道を封鎖するように現れたのは、ルヴァン公爵直属の精鋭「蒼銀騎士団」の分遣隊十二名。かつてアンジェリカが憧れ、そして裏切られた、王家最強を謳われる騎士たちだ。


「……蒼銀の連中か。ルヴァンめ、私の首を確実に獲るために飼い犬を放ったか」

アンジェリカが氷の家から歩み出る。麻の寝着を脱ぎ捨て、昨日買い揃えた革の戦闘服に身を包んだ彼女は、170cmの長身を傲然と反らせ、高圧的な笑みを浮かべた。


「ヴァイゼル、手出しは無用だ。……これは、私の『研修』の成果を確認する場にすぎん」

「了解。バックアップは任せて。……ほら、いつもの『定義』、忘れないでね」

ヴァイゼルは気さくに手を振りながら、後方で氷の椅子を作り、優雅に腰を下ろした。


「狂ったか、アンジェリカ。魔導師を盾にもせず、独りで我らと――」

騎士団長代理が冷笑を浮かべ、突撃の号令をかけようとした瞬間、アンジェリカの姿が視界から消えた。


「――『身体強化:アクセル』」

神経を焼き切るほどの速度で魔力が爆走する。アンジェリカは一歩で十メートルを詰め、驚愕に目を見開く先頭の騎士の懐へ潜り込んだ。

「――『筋肉強化:マッスル』」

編み込まれた筋繊維が、大剣の重さを消失させる。


ドォォォォォンッ!

衝撃波とともに、重装甲に身を包んだ騎士が盾ごと吹き飛び、背後の大岩を粉砕した。

「なっ……なんだ、今の威力は!?」

「驚くのはまだ早いぞ、不届き者どもめ。――『アイスバレット』!」


アンジェリカが左手をかざすと、無数の氷の礫が放たれた。それはただの礫ではない。ヴァイゼル直伝の「熱交換」により、着弾した瞬間に相手の鎧ごと関節を凍てつかせ、動きを封じる。

「火、水、そして氷だと!? 貴様、いつの間に三属性を――」


「属性などという古い定義に縛られているから、私の足元にも及ばぬのだ!」

アンジェリカは猛然と地を蹴った。一閃。大剣の腹で騎士の兜を叩き割り、返す刀で二人の武器を断ち切る。その動きには、騎士団時代の泥臭い力押しはない。ヴァイゼルの「効率化」という概念を取り込んだ、洗練された暴力の芸術だった。


わずか数分の後。立っているのは、肩で息をしながらも凛として立つアンジェリカと、その後ろでのんびりとエールを飲むヴァイゼルだけだった。


「……ふん、案外脆いものだな。本物の騎士団とやらは、この程度か」

アンジェリカは剣を納め、転がる騎士たちを見下して鼻を鳴らした。その瞳には、かつての絶望ではなく、己の力で運命を切り拓く者の、強烈な自負が宿っている。


「お疲れ様。満点に近い出来だったよ、アンジェリカ。……さて、こいつらの装備、全部剥いで売っちゃおうか。それとも、ルヴァンへの『返礼品』にする?」


「……決まっている。この者たちの首ではなく、ルヴァンの不正を記した印を奪い取り、王都へ送り届けてやるのだ。……ヴァイゼル、次の『研修』だ。王都までの最短ルートを、その小賢しい計算で導き出せ!」


高圧的な口調は変わらないが、彼女の差し出した手は、確信を持ってヴァイゼルの肩に置かれた。




「おい、ヴァイゼル。貴様、また何を考えている。王都へ向かうと言ったはずだ。なぜグレーウルフの死骸を集めている」

アンジェリカが眉をひそめ、拘束された蒼銀騎士団の面々を横目に詰め寄った。戦闘を終えたばかりの彼女の170cmの肢体は、まだアクセルとマッスルの余韻で熱を帯び、美貌には苛烈な戦士の昂揚が残っている。


「いや、徒歩で王都まで行くのは非効率だろ? サラリーマンは出張の移動時間を無駄にしないんだ」

ヴァイゼルは掌をかざし、無限の魔力を周囲の氷とウルフの骨格に注ぎ込んだ。

「――『アイスゴーレム:コンストラクト』。定義は『輸送用魔動車両』、前世で言うところの『トラック』だね」


パキパキと音を立てて、氷がウルフの骨を芯に組み上がっていく。現れたのは、六つの氷の車輪を持ち、前面には狼の頭部を模した意匠が施された、巨大な氷のトラックだった。運転席は完全に密閉され、後部には広大な荷台が備わっている。


「な……貴様、魔法で……城のような動く箱を作ったというのか!?」

アンジェリカが驚愕に目を見開く。その横で、ヴァイゼルはさらに氷を練り上げ、荷台の上に頑強な氷の牢獄を連結した。

「よし、こいつらをここに詰め込もう。ルヴァンへの『生きた証拠』だからね。丁重に(凍らせない程度に)運ばないと」


呆然とする蒼銀騎士団を氷の牢へ押し込み、二人は運転席へ乗り込んだ。

「さあ、出発だ。王都までノンストップで行くよ。……アンジェリカ、君は助手席でエールでも飲んでなよ」

「……誰が助手席だ! 不敬な! 貴様、私を御者の隣に座らせる気か!」

怒鳴りつつも、アンジェリカは氷のシートの意外な座り心地の良さと、魔法で制御された快適な温度に、毒気を抜かれたように腰を下ろした。


アイスゴーレム・トラックは、魔力を燃料に、街道を音もなく爆走した。本来なら数日かかる道のりを、わずか半日で踏破し、夕暮れ時には王都の巨大な城門が見えてきた。


「な、何だあの氷の化物は! 止まれ、止まらぬか!」

衛兵たちの制止を無視し、トラックは王宮の正門を強行突破。中庭に氷の音を響かせて停車した。

「……ふん、相変わらず騒々しい男だ。だが、この速度……認めざるを得ん」

アンジェリカは大剣を背負い、トラックから飛び降りた。その170cmの威風堂々とした姿に、駆けつけた近衛騎士たちが圧倒される。


「私は元騎士アンジェリカ! 王家に仇なす反逆者ルヴァンの証拠を携え、王への謁見を申し出る!」

彼女の声が王宮に響き渡る。その背後で、ヴァイゼルはトラックの荷台から氷の牢を切り離し、中庭のど真ん中に安置した。


「……謁見だと? 反逆者の娘が、何を……」

現れたのは、王太子の側近にして宰相、ルヴァン公爵。冷徹な笑みを浮かべた男の視線が、アンジェリカを貫く。


「……久しぶりだな、ルヴァン。貴様が放った犬どもは、ここに連れてきたぞ」

アンジェリカが高圧的に言い放ち、氷の牢を剣で叩いた。中には、変わり果てた姿(といっても凍えているだけだが)の蒼銀騎士団が、恐怖に震えながら蹲っている。


「な……、蒼銀の連中が、なぜ……」

ルヴァンの顔が、初めて驚愕に歪んだ。


「そして、これが貴様の罪の証拠だ」

ヴァイゼルがトラックの運転席から、次元収納に隠していたルヴァンの不正取引の帳簿と、隣国との密約書を放り投げた。

「元サラリーマンの観察眼を舐めないでくれよ。君の『帳簿操作』、素人同然のザル会計だったから、修復するのに五分もかからなかったよ」


「貴様……、一体何者だ……っ!」

崩れ落ちるルヴァン。その横で、アンジェリカは王座の間へと続く階段を見上げ、ヴァイゼルの肩に、確信を持って手を置いた。


「……行くぞ、ヴァイゼル。我が家の誇りを取り戻しに。……私の、隣にな」




王宮の謁見の間。静寂が支配する空間に、アンジェリカの軍靴の音だけが鋭く響いた。170cmのしなやかで力強い肢体は、もはや「没落した騎士」のそれではない。隣を歩くヴァイゼルの無限の魔力と、彼女自身の磨き上げた技術が、女王アリシアの前に立つにふさわしい圧倒的な覇気を生んでいた。


「女王陛下。元近衛騎士、アンジェリカ・フォン・ローゼンバーグであります。我が家を陥れ、王国の富を私物化した大逆人ルヴァン、その動かぬ証拠と共に参上いたしました」


玉座の脇で顔を青白くさせている宰相ルヴァンが、震える声で叫ぶ。「でたらめだ! そのような証拠、捏造に決まって……!」


「……静かにしろ、ルヴァン。見苦しいぞ」

ヴァイゼルが、いつもの気さくな話し方とは一変した、底冷えのする声で遮った。彼は次元収納から、修復された秘密の帳簿と、ルヴァンが隣国へ送った親筆の密書を空中に投影した。

「俺のいた世界じゃ、証拠の隠滅ミスは即刻『解雇』の対象でね。魔法で論理的に復元されたこのデータは、君の言い逃れを許さない。……チェックメイトだ」


女王アリシアは鋭い眼光で証拠を見据え、やがて厳かに口を開いた。

「……ルヴァン、即刻その地位を剥奪し、地下牢へ繋げ。追って裁きを下す。アンジェリカよ、そなたの父の無実、そしてローゼンバーグ家の忠誠、しかと確認した」


その言葉が落ちた瞬間、アンジェリカの肩から、数年越しにのしかかっていた重圧が崩れ去った。

「ローゼンバーグ家の再興を認める。アンジェリカ、そなたを新たな当主とし、伯爵位を返上しよう。……そして、その隣に立つ稀代の魔導師よ」


女王の視線がヴァイゼルに向けられる。

「そなたのような逸材を放っておくわけにはいかぬ。宮廷魔導師長として、我が国を支える気はないか?」


ヴァイゼルは隣のアンジェリカを盗み見た。彼女は高圧的な態度を崩さぬまま、だがどこか不安そうに彼を見つめている。ヴァイゼルは肩をすくめ、女王に一礼した。

「光栄な申し出ですが、陛下。俺はサラリーマン時代、出世争いには飽き飽きしてまして。……今は、この気難しい女騎士様の『研修』が、何よりの重要プロジェクトなんです」


アンジェリカは顔を真っ赤にし、女王の前であることも忘れて怒鳴った。

「な……、貴様! 誰が気難しいと言った! 陛下、こやつは……こやつは不敬ですが、私の家には、どうしても必要な……その、無能ではない男なのです!」


数日後。再興されたローゼンバーグ家の屋敷の庭で、二人はまた氷のジョッキを傾けていた。

「……おい、ヴァイゼル。貴様、本当に宮廷の誘いを断るとはな。後悔しても知らんぞ」

「いいよ。自由な冒険者の方が、君の『アクセル』の速度にもついていけるしね」


アンジェリカはふいと顔を背け、小さく呟いた。

「……ふん。ならば、これからも私の隣で魔法を教えろ。……いつか、私が貴様を追い越すその日までだ」


夕陽に照らされた彼女の横顔は、これまでで一番美しく輝いていた。ヴァイゼルは新しい『アイスバレット』のイメージを練りながら、この愛すべき相棒との終わらない研修の日々に、静かに祝杯を挙げた。





王都での断罪を終え、アンジェリカは晴れてローゼンバーグ伯爵家の当主として、かつての領地へと足を踏み入れた。しかし、そこで二人を待ち受けていたのは、ルヴァンの苛烈な搾取によって荒廃しきった領地の惨状だった。


「……これが、我が一族が守り続けてきた土地だというのか」

アンジェリカは、ひび割れた街道と痩せこけた領民たちの姿を見て、悔しげに唇を噛んだ。170cmの堂々たる背中が、怒りと悲しみで微かに震えている。


「まあ、絶望するのは早いよ。サラリーマンの基本は、まず現状の『棚卸し』からだ」

ヴァイゼルは掌を地面にかざし、無限の魔力を領地の全土へと放射した。彼が放ったのは、ソナーのように地形と生命反応を読み取る広域探査魔法だ。


「よし、現状分析の結果が出たよ。アンジェリカ、執事のセバスにデータを共有してくれ」

ヴァイゼルは空中に、魔力で構成されたホログラムのような分析結果を投影した。


■ ローゼンバーグ領 現状分析レポート

推定人口: 約3,000人(ルヴァン統治前の40%まで減少)


貧困率: 85%(大半の領民が自給自足すら困難な飢餓状態)


魔物生息数: 推定1,500体以上(森林および廃村にグレーウルフ、オークが定着)


主要産業: 壊滅(耕作放棄地が全体の7割を占める)


「人口がこれほど減っているとは……。魔物が増えすぎたせいで、村同士の流通が途絶えているのが原因だな」

アンジェリカは、分析結果を食い入るように見つめた。高圧的な口調は変わらないが、その瞳には当主としての責任感が宿っている。


「課題は山積みだけど、解決策はシンプルだ。まずは『治安維持』と『インフラ整備』、そして『食糧増産』。……アンジェリカ、君の『アクセル』と『マッスル』の出番だよ」


「……ふん、合点承知だ。魔物どもを一人残らず根絶やしにし、領民が安心して畑に出られるようにしてやる。ヴァイゼル、貴様はその小賢しい魔法で、道と水路を最短で作り直せ!」


「了解。じゃあ、まずは魔物の巣窟になっている北の森を『アイスバレット』で一掃しつつ、氷のトラクターで開墾を始めようか」


アンジェリカは執事のセバスを呼び寄せると、威厳に満ちた声で命じた。

「セバス! 経営の実務は貴様に任せる。私はこの無能な魔法使いを使い倒し、三ヶ月以内にこの領地を王国一の穀倉地帯へと変えてみせる。不平不満は成果で黙らせろ!」


「御意に、当主様」

老執事は深く一礼し、奇跡のような速度で復興へと向かう二人の背中を、希望に満ちた目で見送った。


ヴァイゼルは、次元収納に詰め込まれた大量の種子と、かつて開発した『魔導堆肥』のレシピを脳内で整理しながら、新たな「大規模領地経営プロジェクト」の開始を宣言した。






「貴様ら、腰が高い! それではオークの突進を捌けぬぞ! ヴァイゼルに教わった呼吸法を思い出せ!」


領地の北部に位置する広大な訓練場で、アンジェリカの怒声が響き渡った。170cmのしなやかな肢体には魔力が満ち、彼女が木剣を振るうたびに風圧が訓練生たちを震わせる。ルヴァンの圧政に怯えていた若者たちは、今やアンジェリカの下で「自警団」として組織され、その瞳にはかつての騎士団のような誇りが宿り始めていた。


その頃、森と平原の境界線では、凄まじい光景が繰り広げられていた。

「さて、一気に在庫整理といこうか。――『アイスバレット・マルチロック』」

ヴァイゼルが指先を掲げると、背後に浮遊する数百の発氷弾が、レーザーのごとき精度で森を埋め尽くす魔物たちを射抜いた。無限の魔力に支えられた掃討作戦により、領地の脅威となっていた魔物の九割が、わずか数日で駆逐された。


仕留められた魔物の死骸は、即座に現場で解体された。

「『ウォーターカッター』で部位ごとに分けて……よし。魔石と希少素材はギルドへ回して軍資金にする。肉は全部、村の配給所に直送だ」

ヴァイゼルが構築した氷のアイスゴーレム・トラックが、山のようなオーク肉を積み込み、飢えた領民たちが待つ集落へと爆走していく。村々からは、かつての絶望が嘘のような歓喜の声が上がった。


「軍資金は確保した。次は生産基盤の構築だね」

ヴァイゼルは、氷で作った巨大な「アイスゴーレム・トラクター」の運転席に飛び乗った。六輪の氷の車輪と、後部に備えられた魔力駆動の回転鍬。彼がペダルを踏み込むと、長年放置され石のように硬くなった耕作放棄地が、バターのように滑らかに掘り起こされていく。


「アンジェリカ! 訓練は順調かい? こっちはあと二時間で南側の開墾が終わるよ!」

「ふん、誰に口をきいている! 私の自警団は既に、残された一割の魔物を追い詰めている。貴様こそ、その氷の玩具を壊して足を止めるなよ!」


遠くから怒鳴り返すアンジェリカ。だが、その瞳は自分の領地が劇的に色を取り戻していく様子に、確かな熱を帯びていた。ヴァイゼルが耕した土には、次元収納から取り出された魔導肥料が撒かれ、魔法で制御された水路からは清冽な水が流れ込む。


「(性格は相変わらず尖ってるけど、こうして領民のために汗を流す彼女は、王宮のどの貴族よりも気高いな)」


夕暮れ時、二人は開墾されたばかりの土の上に腰を下ろした。

「……ヴァイゼル。貴様、本当に無茶苦茶な男だ。一国の魔導師団が数年かける事業を、たった一人で数日で成し遂げるとはな」

「効率化と最適化、それが元サラリーマンの信条だからね」


アンジェリカは氷のジョッキをヴァイゼルに差し出し、少しだけ不器用な笑みを浮かべた。

「……感謝はせんぞ。だが、今夜の肉料理は、私が直々に味付けをしてやってもいい。貴様の舌に合うかは知らんがな」


「それは楽しみだ。じゃあ、明日は領都に続く街道の舗装工事の『研修』を始めようか」

「……貴様、少しは休めという言葉を知らんのか! この仕事中毒め!」


領地に響く二人の罵り合いは、もはや荒廃した地の悲鳴ではなく、復興を告げる力強い鼓動となっていた。





ローゼンバーグ領に、黄金の季節が訪れた。かつて死に体だった大地は、ヴァイゼルの魔導重機によって蘇り、見渡す限りの小麦が、豊かな穂を垂らして風に揺れている。


「……信じられん。ルヴァンの時代、この土地は呪われているとさえ言われていたのに。貴様、本当に魔法使いなのか? それとも、大地の神の使いか何かか」

アンジェリカが、収穫に励む領民たちの歓声を背に、珍しく素直な感嘆の声を漏らした。170cmの凛とした佇まいは相変わらずだが、美貌には、復興の喜びと、隣に立つ男への隠しきれない信頼が、柔らかな光となって宿っている。


「いや、ただの効率化オタクだよ。土壌の窒素濃度と水分量を魔法で最適化すれば、これくらいは当然さ」

ヴァイゼルは掌を黄金の海にかざし、無限の魔力を大地へと流し込んだ。収穫された小麦が、自動的に次元収納へと吸い込まれていく。


「……ふん、相変わらず小賢しい。だが、その小賢しさが、この領地を救ったのだな」

アンジェリカはふいと顔を背け、少しだけ赤らんだ頬を隠すように、麦の穂を指先で弄んだ。

「……感謝はせんぞ。だが、今夜の『魔力煮込み』には、私が直々に収穫した一番良い小麦で焼いたパンを、貴様の分も用意してやってもいい。感謝しろ、この無能め」


高圧的な口調の裏に隠された、不器用な好意。ヴァイゼルは三十五歳のサラリーマンらしい余裕で、その「デレ」を静かに受け止めた。

「それは楽しみだ。じゃあ、お礼に新しい魔法の成果を見せようか」


領地の復興が進むにつれ、ヴァイゼルは新たな「人材」を発見していた。領民の中に、微弱ながら土、風、光の適性を持つ者がいたのだ。彼は彼らの魔法を、一瞬でコピーし、自身の無限魔力で再構築コンストラクトした。


「――『ストーンバレット』。そして、――『ソイルバレット』」

ヴァイゼルが指先を弾くと、硬質の岩石弾と、栄養分を凝縮した土の弾丸が、同時に射出された。ストーンバレットは魔物の外殻を粉砕し、ソイルバレットは着弾した大地を瞬時に肥沃な土壌へと変える。


「次は、風だ。――『ウィンドバレット』」

真空の刃が、収穫後の麦わらを一瞬で刈り取り、束ねていく。

「な……貴様、戦闘用の魔法を、農作業の効率化に転用したというのか!?」


「そして、これが今回の目玉。光属性の応用だ。――『ヒールバレット』、――『ホーリーバレット』。そして、――『ピュリフィケーションバレット』」

ヴァイゼルが空中に放った光の弾丸は、収穫で疲れた領民たちの身体を癒し(ヒール)、小麦に混じった微量な毒素を浄化ピュリフィケーションし、さらに貯蔵庫を聖なる光で満たして(ホーリー)、害虫やカビから守る。


「……理解できん。火と水を同時に操るだけでも異常なのに、土、風、光まで……。貴様、本当に人間なのか?」

アンジェリカは驚愕に目を見開いた。彼女自身、ヴァイゼルから受けた身体強化の魔法で、自警団のトップとして領地の治安を完璧に維持している。だが、彼の魔法は、戦闘という概念を超え、領地の「生態系」そのものを支配し、最適化しようとしていた。


「属性なんて、ただの『定義』だよ。アンジェリカ、君の『アクセル』の速度も、このウィンドバレットと組み合わせれば、さらに音速を超えることができる。明日からの『研修』、楽しみにしててよ」


「……誰が貴様との研修など楽しみにするか! 不敬だぞ、この無能め!」

赤面して怒鳴るアンジェリカ。だが、その声には、かつての苛烈さは消え、ヴァイゼルへの、抗いがたい依存と好意が、はっきりと滲んでいた。


黄金の小麦が風に揺れるローゼンバーグ領。無限の魔力を持つ元サラリーマンと、磨き上げられた技を持つ元騎士。二人の終わらない「研修」は、この荒廃した地を、王国一の、いや、世界一の理想郷へと変えようとしていた。

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