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(一)


『報告


 この度は急な留守を頼んで申し訳ない。父上をはじめとする屋敷の皆々には、常と同じで変わりないか? 何かあればすぐ知らせを寄越してくれ。直ちに戻る用意はある。ただ、何もないようであれば、もう少しだけ俺に時間を……自由を与えてほしい。


 件の婚儀が正式に決まり、しばらくは京を離れられないと思うと、どうしても独りの時間、或いは自由が惜しくなった。残された時間に遠出とまではいかなくとも、少し羽を伸ばしたいという思いに駆られた矢先、ちょうど小備前(こびぜん)が高野詣に行くと耳に挟んでな。これまでの孝行も兼ねて、共に行くことにした。戻るまでの間、いつものことではあるがお前と弾正(だんじょう)には面倒をかけることになる。何卒よろしく頼む。


 ちなみに此度の遠出だが、お前は完全なる物見遊山と思っているかもしれないが、俺なりの算段もあってのことだ。婚儀の前に、機先を制してやろうと思ってな。相手のことを少々探ってやるつもりだった。<畠山の今かぐや>などとお高くもったいをつけているが、実際のところどれほどのものか。「彼を知り己を知れば百戦(あや)うからず」と孫子にもある通り、相手の情報を多く得ておいた方が何かと有利だろう。


 ちょうど小備前と俺が滞在している慈尊院の門前の宿からそう遠くないところに、畠山の国境の館があるのだ。お前も弾正から聞いただろうが、畠山からの最終返答があった場所だ。おそらく当主の頼政(よりまさ)殿と姫が滞在している。故に、遠乗りもかねて足を伸ばしてきた。山深いがなにぶん田舎の出城だ。近づけば庭先からでもご自慢の<今かぐや>の御姿が垣間見えるだろうと踏んでいたのだが……これが想定外に難しかった。というのも、館はともかくそこに至るまでが堅牢な要塞だったのだ。さすが、かつては楠木公が構えた山城と畏れ入った。機会があれば、お前にもぜひ見てほしい。ともかく、立地的に他所者が近づきにくい上、この日に一族の召集がかかったのか、続々と郎党を従えた武将格の男たちが集まり、あわせて厳重な警備まで敷かれる有様だった。当主と婚礼前の姫が滞在中とはいえ、ここまで大袈裟にするかと、逆にちょっと引いたくらいだ。結局、実物を事前に目視することは叶わなかったが、代わりに確信もできた。御簾の奥深くに隠すほどに、噂だけが一人歩きする典型パターンだろうとな。畠山の誇りにかけてその装いは華美ではあろうが、おそらく外見中身ともに十人並みの姫だろうよ。なにやら期待していたお前には申し訳ないがな。


 ともかく、そのまま宿に戻るのも手持ち無沙汰で、黒帝(こくてい)も走り足りないと鼻息を荒くするものだから、少し遠回りして帰ることにした。そこで、思いがけず面白いものに遭遇した。人生で初めて見る、とんでもない女だった。お前が好きそうな(ひな)のじゃじゃ馬ゆえに少し記しておこう。






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