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3

 馬車貸しに行くアマンダと別れ、レフとロックスは街へと繰り出していた。


 二階や三階建ての店が多く立ち並ぶ大通りを、レフは小躍りしながら歩く。

 ロックスに止められてなければ、レフは危険な夜を駆け抜けていたぐらいには、街が好きだ。旅人丸出しでキョロキョロしているレフを、ロックスは呆れたように見ていた。

 だが当のロックスも尻尾を少し揺らしている。存外似た者同士だったりする。


 ふいにロックスが鼻をスクっと立て、レフの前へと歩き出た。ズンズン進んでいく相棒に、レフはやれやれと肩をすくめる。ロックスがこうして先行する時は、大体理由は決まっている。

 丁度お昼時だし、まぁいいか。レフは一層動きの増した尻尾の後を追った。



 ロックスの鼻案内に導かれた先で、レフがワッと目を輝かせた。

 目の前に広がるのは、活気あふれる市場だ。大きな広場にいくつもの屋台が所狭しと並び、その間を多くの人が行き交っている。


 そうだ、こういうのを求めていた。レフはロックスの尻尾よりも機敏な動きで、辺りを見渡す。


 描きたい。

 いや、これは描かなければならない。

 レフにはもう、衝動を抑えることが出来なかった。


 邪魔にならないように、というよりも邪魔が入らないように、道の脇へと移動する。そしてリュックをその場に置き、絵描き道具を引っ張り出した。


 その様子にロックスが気づくと、レフの服を引っ張り市場へ行こうと促した。

 しかし、今まで我慢してきた分、レフの意思は固かった。そもそもレフは呆れ顔のロックスに気づいてすらいない。既に自分の世界へと旅立っていた。

 こうなったレフはどうあがいても動かないことを、ロックスが一番良く知っている。

 しかし、だからといって目前にまで迫っていた匂いを、諦めることが出来ないのもロックスだ。

 彼はレフのリュックの中を漁り、小さな麻袋を見つけ出す。そしてそれを咥えたまま、人混みの中へと入って行った。


「よし!」


 レフが満足気に顔をあげた頃には、既に日が隠れ始めていた。人通りもまばらで、今まさに店じまいをしている屋台ばかりだった。


「あぁ……やってしまった」


 また夢中になって時間を忘れた。やっと気が付いたのかと、レフのお腹がぐぅっと抗議した。

 己の空腹感もそうだが、ロックスに悪いことをしたなと、足元で寛いでいるロックスを撫でる。

 手に甘えてくるロックスに目を細めていると、ふとレフが気づく。空腹のはずのロックスが、ご飯を強請ってこない。

 これはもしやと思い、慌ててリュックから財布として使っている小さな麻袋を取り出し、確認する。


 人里を離れて旅することの多いレフ達にとって、お金を使う機会は少ない。だが、街中では当然必要となるため、所持金ぐらいは把握している。


 足りない。お金が、足りない。


 レフは財布をリュックに戻し、眉間にしわを寄せた。

 スリではないな。スリであれば、この財布ごとなくなっている。


 では何が起きたのか。答えは簡単だ。レフはなぜか腹を空かせていない犯人へと視線を落とした。


「ローックスー?」


 ふいっとそらされた視線を、レフは両手で頬を掴んで強引に引き戻した。


「勝手に何かを買ったなぁ?」


 普通に考えれば、動物が買い物をするというのはあり得ない話だ。

 しかしながら、ことこのロックスに関して、その普通は当てはまらない。なぜならば、レフは以前、目撃したことがあるのだ。こっそりと財布を盗み、そして器用に前足と鼻先で欲しいものを指し、無事買い物を果たすロックスの姿を。


 レフとかなり意思疎通が取れているとはいえ、ロックスは人の言語を話せるわけではない。当然、金勘定が出来るわけでもない。

 にも拘わらず、財布を丸ごと渡すという何とも肝を冷やす方法で、買い物が出来てしまうのが、このロックスだ。


 もちろん、レフは当時このことを注意した。だが、その効果はあまりなかったようだ。

 レフが顔を覗き込むと、ロックスはとぼけるように視線をそらしていた。


 もういっそのこと金勘定を覚えさせた方がいいのだろうか。レフはため息を吐くしかなかった。

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