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 レフの経験上、初めての街へ入る時は、少しめんどうなことになることが多い。

 だが、今回は違った。アマンダのおかげで、レフ達はいとも簡単に街へ入ることが出来た。


 普段であれば、まず問題になるのがロックスだ。

 動物と一緒に旅をしている人がそもそも珍しい上に、ロックスは狼だ。狼といえば恐怖の対象であり、街を守る衛兵からしてみれば、排除すべき対象だ。

 幸いロックスの見た目は犬とも捉えられるので、レフはいつも何とかそれで誤魔化している。

 ただ、ロックスはどうも犬呼ばわりされることを好まないらしく、毎度レフは怪しむ衛兵と不満なロックスの板挟みにあう。


 今回も例にもれず衛兵はロックスを見て片眉をあげていたが、アマンダがすかさず犬だと言い放った。

 あぁこれはロックスが嫌がるな、と思いきや、ロックスはそれに合わせて「ワン」と犬のように鳴いたのだ。

 そしてアマンダに対する信用のおかげなのか、衛兵はすんなり信じてくれた。

 「いやお前それでいいのかよ」という叫びを、レフが必死に押し殺したのは言うまでもない。


 次に問題になるのはレフ自身だ。

 商人であればまだしも、衛兵は旅人を警戒する節がある。

 初めての街に知り合いがいるわけもなく、当然保証人になってくれる人もいない。


 なので、これもまた衛兵との話し合いになるのが常だが、今回はアマンダが保証人になってくれた。そのため、この問題もあっさりと解決されてしまった。


 そして最後に、泊まる場所についてだ。

 宿が決まったら報告するようにと、大きな街では求められることが多い。

 レフは今回もそうするつもりでいたが、これもアマンダのおかげで問題にならなかった。


 というよりも、レフが気付いたころには解決していた。

 アマンダが衛兵と積み荷について話している間に、どうやらレフ達の泊まる場所として、自分の店の空き部屋を指定したらしい。

 レフがこのことを知ったのは門を潜った後、肉屋でアマンダを襲った熊を卸すのに手伝っていた時だった。


 なんかもう、この人に敵う気がしない。

 レフがそんなことを思いながら遠い目をしていると、荷馬車はゆっくりと減速し始めた。どうやらもうすぐ目的地に着くらしい。


 動きの停まる馬車の上から、レフは到着した建物を見た。

 赤レンガで出来た二階建ての建物。『薬屋』と書かれた簡素な看板の下に、二つの窓に挟まれた両開きの扉があった。そしてその前で、御者席を降りたアマンダが鍵を回している。


 どうやらここがアマンダの店らしい。レフは荷馬車を降り、扉を開けるアマンダの隣へと寄った。


「さぁ、長旅お疲れさま。そしてようこそ、この小さな店へ。あそこのカウンター奥の隣部屋に階段があるから、先に二階で待ってておくれ。あたしゃ荷下ろししてから行くから」


「あ、それなら手伝いますよ」


 様々な面倒ごとを解決してくれたアマンダに、この大量の荷物を一人で荷下ろしさせるわけにはいかない。そんな使命感を抱きながら、レフは荷馬車の木箱を一つ持ち上げた。


「そんなことせんでいいから、休みなさいな」


 アマンダの声を遮って、レフは店内へと足を踏み入れた。

 外観よりも広いな。そんなことを思いながら、レフは木箱を手にカウンター奥へと向かった。

 運びながら、なるほどとレフが気づく。商品数が少ないからだ。店内中央には商品棚等が一切なく、壁伝いに整然と薬草や薬等が陳列されているだけだった。しかも、その棚も奥と右側の壁にしかなく、左側の壁といえば椅子やソファーが置かれている。


 商品数が少ないんだなと考えながら、レフはカウンター奥の部屋へと入った。すると、店内の空き具合とは打って変わって、こちらには多くの薬草があった。

 レフは思わず立ち止まり、頭を傾けた。


「薬屋は初めてかい?」


 疑問を膨らませていたレフに、アマンダが声をかけた。


「言われてみれば、初めてかもしれません」


 普段は自然の中で暮らすレフに多少の薬草知識があるため、自ら薬を求めて店に入ることはまずない。

 そもそもほとんど街にすら居ないのだから、なおさらである。


「うちは薬草や出来合いの薬をそのまま売ることもあるけど、基本的には客に合ったものを調合して売ってるんだよ。だから陳列するものは多くなくてね」


「客が来るたびに、毎回新しく調合してるってことですか?」


「そうさな、常連なんかは前もって作ったりもするけど、基本的にはそうだ」


 これにレフは大きく驚いた。客に合わせて商品を用意する。

 当たり前のようにアマンダは言っているが、レフはそんなことをする商人を知らない。他にそうする商人いないとは言えないが、少なくともそれをアマンダ一人でやるのは、中々大変だろうと容易に想像がつく。


「それは、すごいですね」


「慣れだよ慣れ。それに、こっちの方が性に合ってるし、客もこの方が喜んでくれるしさ」


 客を考えての手間。ここでレフは門での出来事を思い出した。なるほど、恐らくあの衛兵は客の一人だ。ここの利用客であれば、あれだけアマンダに対する信頼が厚かったのも、納得がいく。


「だから椅子とか置いてあるんですね。調合の間待ってもらうために」


「そう、どうしても待たせちまうからね。後は、ほら、左側に日光が当たってるだろう? 日光は長期保存の大敵だからね、あっちには商品が置けないのさ」


 なるほど、とレフは深く納得した。

 改めて見ると確かに、棚のある奥と右側の壁に日光は当たっておらず、左側の椅子とソファーには当たっていた。

 現に、ロックスはソファーの上で気持ちよさそうに日向ぼっこしている。


「って、おいこらロックス何一人寛いでんだよ!」


「ハハハ、そこは気持ちいいだろう」


 時々、こいつの中の野生は消えたんじゃないかと、レフは思うのだった。


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