表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

「さぁ、もうすぐ街に着くよ」


「本当ですか!」


 突然の大声に起こされたロックスを尻目に、レフは興奮気味に荷馬車から身を乗り出した。

 丘から見える城壁の街に、大きく目を輝かせる。


「ロックス! ロックス!」


 二度寝しようとするロックスが抗議の声をあげつつ、気怠そうにレフに近寄った。

 不満そうな声ながら、なんだかんだ一緒に見てくれるロックスが面白くて、レフはつい小さく笑ってしまう。そしてロックスは再び抗議の声をあげた。


「ごめんごめん」


 レフが頭を撫でてやると、ロックスは不貞腐れながらも手に自分の頭を押し付けていた。

 あがる口角を何とか抑えようと努めながら、レフは街並みへと視線を戻す。


「おー、街全体が赤いですね!」


「中心街の建物はほとんど赤レンガで出来てるからね」


 興味津々なレフに、アマンダが微笑みながら答えた。


「奥に塔もありますね! あっちは灰色?」


「良い眼をしてるねあんた。あっちは旧市街だ、何にもないつまらん場所さ。この街の楽しい所はやっぱ中心街だよ」


 目をキラキラさせながら、レフは絵を描きたい衝動に駆られていた。

 もういっそのこと、今荷馬車を飛び降りてしまおうか。およそ一カ月ぶりの街なんだし……いいよね?


「ヴォフ」


 欲求が顔にまで出ていたのか、ロックスが注意するような鋭い視線をレフに送っていた。くっ、敏いやつめ。

 とはいえ、ロックスの言い分が正しいのは、レフも分かっている。今から描いていたのでは、開門時間を逃してしまう。

 レフが肩をすくめて諦めると、ロックスは満足そうに視線を緩めた。


「フフ、本当に仲が良いねぇ、あんたら」


 今のやり取りを見ていたのか、御者席のアマンダが微笑ましそうに声をかける。


「さっきも言ったけど、ここまで動物と意思疎通が取れているのは初めて見たよ。まるで言葉で会話できてるようだ。一体どうしたらそこまで通じ合えるんだい?」


 レフは少し考えるようにロックスへと視線を落とす。すると、レフを見上げていたロックスと目が合い、「フッ」とレフの口から笑みがこぼれた。


「もうずっと一緒なんで、あんまり考えたことなかったですね。きっとロックスが賢いからですよ」


 その答えに少し誇らしそうなロックスを、レフは再びワシワシと撫でた。「それに」とレフが言葉を続けようとしたところで、もうすぐ城門前の馬車列に合流することに気がつく。


 ここら辺で降りよう。レフは自分の大きなリュックを手に持った。

 ここまでは、アマンダの好意で荷馬車に乗せてもらっていた。だが本来なら徒歩のロックスとレフは、馬車列の横にある人の列を利用するのが筋だろう。


「アマンダさん、俺たちはここで降ります」


「おや、どうしてだい? このまま乗ってなさいな、こっちの方がすっと入れるさ」


 まるでこうなるだろうと予見していたかのように、アマンダはすぐに返事をした。


「あんたら、別に街に誰か知り合いがいるわけでもないんだろ? なら、あたしが保証人になるから、このまま乗ってなさいな」


 目を瞬かせ、レフが慌てて口を開く。


「いやいや、そこまでお世話になるわけには」


「なぁに言ってんだい、道中で熊から助けてくれたのは、どこのどいつだい? そんな人らに対して、こんくらいで恩を返せたと思えるほど、あたしゃ薄情じゃないよ」


 少し強い口調ながら、優しい声色でアマンダがレフの言葉を遮った。


 さて、どうしたものか。


 そんな悩やんでいるレフをよそに、ロックスはアマンダの所へ移動してちょこんと座った。これにはアマンダも驚いたようで、「あら」と声を漏らしていた。

 レフはといえば、そんなロックスにため息を吐いた。これは、諦めるしかなさそうだな。


「分かりました、そうします。もうロックスはすっかりその気のようですし。ほんと、調子いいんだから、こいつは」


 うんうんと頷きながらも、戸惑いを隠せず「これはどうすればいいんだい」とアマンダがレフに訊く。「撫でてやって下さい」と促すと、アマンダは少し躊躇いながら手を伸ばした。


 そしてロックスはその手を受け入れ、アマンダは「あらあら」と声を漏らし、レフはリュックを置いて席に座りなおした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ