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「よし、こんなもんだろう!」
レフは大きく背伸びをしてから、今まさに客から代金を受け取っているクライヴの様子を見た。最初のたどたどしさはもうすっかり鳴りを潜めており、店番が板についていた。
クライヴが客に包装した絵を渡して見送ってから、レフは彼とその横で寝そべっているロックスに近づき、頭を撫でた。
ロックスはレフに気付いていたようだったが、クライヴはびっくりして後ろを振り向き、ジトッとレフを見た。
だがそれでも大人しく頭を撫でられている辺り、すっかり自分に慣れてくれたんだなと、レフはしみじみと感動を噛みしめ、さらに頭を撫でた。
「店番、ありがとうな」
「ほんとだよ……疲れた」
「フフフ、でもすっかり慣れたもんじゃない。こんなにも絵を売ってくれたし、クライヴは将来良い商人になるかもね」
「……たまたまだよ」
「それでも助かったよ、ありがとう」
少し照れくさそうにクライヴは視線を逸らした。やっぱり店番を任せて良かったと、レフは目じりを下げる。
「じゃあ日も傾き始めたし、今日は終わりにしようか。俺はこれからサンド屋へ行くし」
「あぁ終わったぁ!」
クライヴが大きく背伸びをすると、それを真似してロックスも背伸びをした。
せっせと露店を片づけてから、いつの間にかロックスに腕を回していたクライヴに、レフは数枚の硬貨と、絵を包むための袋を彼に差し出した。
「はいクライヴ、今日のお礼と給金だ」
「へ?」
理解が出来ず、クライヴは目を瞬かせていた。レフはそんな様子に構わず言葉を続けた。
「お前、見た感じ鞄とか持ってないよね。だから余りもので悪いけど、この袋を使いなよ。紐も長いし、これなら肩に掛けて使えるだろ。これは急遽店番をしてくれたお礼。そしてこっちは、店番の給料ね」
「……え?」
説明を聞いても理解できず、クライヴは再び間抜けな返事をしてしまう。「ヴォフ」とロックスが一鳴きすると、正気を取り戻したかのように声をあげた。
「いや、なんで?」
「だから店番を」
「でもそれはただの手伝いで」
「そしてその手伝いをしてくれた報酬がこれ」
「いやでもそんなの聞いてない」
「言ってないからな」
「え、いやでも……」
「いいから受け取れって!」
何かと渋るクライヴにレフは袋とお金を押し付けた。人から何かをもらうことに慣れていないクライヴは、ただ呆然と手に持たされたそれらを見下ろしていた。
そんな様子に、レフはまたクライヴの頭を撫でずにはいられなかった。
「まぁ、そんな難しく考えなくていいからさ。店番してくれて、嬉しかったんだ。だから、俺のためにも、受け取って欲しいな」
そうレフがいうと、クライヴはようやくコクリと小さく頷く。
「いい子だ。明日も店番をお願いしてもいいか?」
「……うん」
「そうか! ありがとうな」
ワシワシとまた頭を撫でてから、レフはリュックを背負う。
「それじゃ、俺はサンド屋の新店舗へ行くから、今日はもう店じまいな。またね、クライヴ」
「う、うん。またね、レフ」
照れくさそうに小さく返事するクライヴに手を振り、レフは歩き出した。後ろでロックスに話しかける嬉しそうな声に、レフは上がる口角を抑えられすにいた。