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油断

「その頃はまだ雪奈とも弓彦とも親交があって、時々メールなどをやりとりしていたんだ。



冬休みのある日、雪奈から明日から友人とスキーに行くと連絡が入った。ドアが開けられないはずなのによく友人が出来たなと僕は感心したよ。



彼女の行くスキー場はA山だという。君も知っていると思うがあの山はとにかく遭難者が多いことで有名でね。



まぁ僕は一応忠告をしたんだが、結果的にそれは無意味だったようだ。



彼女は友人と共に遭難した。



ところで、この事件を詳しく君は覚えているかい??…ハハ、まぁ君は猟奇殺人事件ヲタクではないんだ。無理はない。



この事件で雪奈の友人達は精神病院に送られたのさ。



そりゃあ友人が死んだんだからショックを受けるだろうが、それより彼女達が妙な事を口にしたからだ。




「雪奈は山荘の中、真っ赤な部屋で胴体しかない女に殺された」ってね。




医者の判断はこうだ。『精神的なショックが見せた幻覚』とね。



まぁ僕の推測では、――おそらく僕が正しいのは間違いないが――彼女はきっと友人達と遭難して、吹雪の中で山荘を発見し、歓喜のあまり呪いなど忘れてそのドアを開けた、とこうだ。



つまり彼女達は幻覚なんかじゃない、呪いの部屋を見てしまったのさ。




その精神病院に送られた友人達の話によると、ま、僕の推測通りだが…A山スキー場でも一番難関なコースを滑っていた時に遭難したらしい。



彼女達が山をさまよい歩き続けると、吹雪の向こうに山荘が見えてきた。



雪奈は真っ先に山荘に近づいて、助かったと叫んだそうだ。



そして、躊躇いもなくドアを開けてしまった。







彼女の死体はミンチになっていたらしい。つまり挽き肉さ。ハンバーグのような、肉の塊になっていた。



そんな残虐な行為をしたのが、胴体だけの女だということだ。



ドアを開けた瞬間6本の足が雪奈をさらい、彼女をメッタメタに踏み潰した。



彼女は頭を割られる前にこう叫んだらしい。



「やめてよ汚わらしい蝶のくせに!!!!」



その瞬間胴体しかない女は顔を歪めて怒り出した。足がさらに激しく彼女を踏み潰す。



彼女の友人達の1人があまりの恐怖の光景に、バーンッ!!と山荘のドアを閉めたが、その後も山荘全体がずっと揺れていたんだそうだ。揺れが収まり、再び山荘のドアを開けると、そこには…」







「そこにはミンチ状の肉の塊が残されていた…か。」



僕は小さく呟いた。



「その死体は麟粉まみれだったらしいけどね。…と、まぁこれが『A山山荘虐殺事件』の真相、って訳だ。」



いよいよ雄磨は話を信じられなくなっていた。



「だ…だがあの事件は山荘にいて、泥酔していた中年男が犯人ということで済んだんじゃあなかったかい??」



「うん。よっぽど彼は運が悪かったんだろう。なんせ彼は山荘に居ただけ・・・・だからね。」



「ん…どういうことだ??」



「説明しよう…あ、ビール頼むよ!!」



彼は大声で店員に注文した。



「つまり現場には雪奈とその友人3人、そして中年男が山荘の中にいた。友人3人は目撃者だがその証言がおかしい。男は酒に酔っていて彼女達が来たことさえ気付かなかったという。」



フッと彼は笑った。



「完璧じゃあないか。男以外に犯人はいないさ。実際男は酔い癖が悪くて、自分がやったかも知れない、などと言い出したんだからね。」



雄磨はブルッと身震いした。



「それで…弓彦とかいう君の友人は…??」



「奴はまだ生きてるんだなぁ!!何せこれが面白いんだが、雪奈が死んだと知った時、奴は発狂したんだよ。今もまだ病院さ。今話せるのは『ドアだ…蝶だ…』とこれだけらしい。笑えるだろう??」



苦笑いで、僕は応えた。

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