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犠牲

「僕らが気付いた時には既に最後の授業が終わっていたから、その日は一目散に家路についた。



何しろ怖くて、僕は家の前でずっと座って誰か来るのを待っていたんだ。



暗くなってからやっと帰宅してきた親にドアを開けてもらって、僕は居間の椅子にドサッと座り込んだ。



本当に、怖かったんだ。頭の中をあの部屋が何度も何度もよぎるんだから。



紅い、血だらけの、ドアの向こうにある蝶の部屋…。



とにかくその日からドアは絶対に開けないようにしようって僕は誓った。



他の皆もそんな誓いをたてたと思うよ。…ただ、1人を除いてね。



それが安藤慶だった。



彼はもともと強がりだったし、あんまり子供が持つような恐怖感は持ち合わせていなかったんだ…。






次の日、学校が終わった後に僕らは安藤の家に遊びに行った。いや、遊びに、というと心に余裕があるような印象を君が持つかも知れないね。僕等はただ、一人が怖かったんだ。



だが家についても誰がドアを開ける??僕は道行く人に頼もうとした、その時だった。



安藤は笑いながら玄関のドアを開けてしまった。止める間なんて無かった。




ん……




あの時のことはあまり思い出したくないよ…。何しろ目の前で安藤が、殺されたんだからね。



「アァァアアァァァア!!!」



彼は開けた瞬間絶叫した。



ドアの先にはあの赤い空間があったよ。そしてあの蝶の女が笑いながら横たわっていた。



天井から吊り下がっていた手が宙を飛び、安藤の手をつかみ中に引き入れた。



彼は泣いて抵抗したけど無意味だった。



そのまま彼は手をもがれた。そう、丁度彼が蝶の羽をもいだように。



僕らは怖くて助けにいくとかの問題じゃなかった。



ただ玄関のドアの中の、紅い空間を見つめることしか出来なかった。



「助けッ…助けてぇッ!!嫌だよぉぉ!!死にたく…ないよぉ!!」



叫ぶ安藤に構いもせずに女は長いストローのようなものを取り出して、腕の傷口に差して血を吸出したんだ。



彼はあっという間に干からびたよ。




…ふぅ。…笑ってくれても構わないが、君が僕だったら同じようにしたと思うよ。



僕は逃げた。



それに続くように、日高と雪奈も。もう耐えきれなかったんだ。助けることだって絶対不可能だった。

最後に僕を見た安藤の目が今でも忘れられない。



そしてその夜、両親によって安藤は発見された。



彼の遺体には蝶の鱗粉が大量にくっついていたんだそうだ…。」







「僕の話を信じられるかい??」



彼は笑いながら聞いてきた。冷え切ったつまみを口に運ぶ。



「だが…あぁ…信じられるさ…」



彼は冷笑した。



「別に信じなくても結構さ。むしろ、信じろと言う方がどうかしているというものだ。君だってこの、理系の名門大学に入ったんだから、子供だましの非科学的な現象には全て理論的に説明がつくとか、そういう思考を持っていたって…いやむしろ持っているべきか。」



雄磨は唸った。



「しかしあの事件にはこんな背景があったなんてな。当時はポンプで血を抜いたとか、ドラキュラだとか、色んな憶測が飛び交っていたが…」



「さすがに『呪い説』は出なかったなぁ。だが鱗粉が付いていたというので、大量の蝶もしくは蛾が血を吸ったのでは、という説もあったんだ。なかなか、いい線いってたじゃないか。」



彼は旨そうに枝豆を口にした。こちらは湯気が上がっている。



「当時の僕としては真相解明だけはやめてくれと思っていたよ。呪いがバレれば僕は絶対殺人者として扱われる、なんて馬鹿な考えがあってね。」



これには雄磨も一緒に笑った。



「さて、続きを聞きたいかい??」



「勿論さ」



「いいだろう」



彼は少しだけビールを飲んだ。



「さて、少し手短にいこうか??安藤が死んでから、僕らは絶対にドアを開けてたまるものかと心に改めて決めた。だがね、この世界はドアばかりなのさ。気を抜けばつい開けてしまう。」



賢二は少しおどけてみせた。



「さて、雄磨は『A山山荘虐殺事件』は知ってるかい??この被害者は『西 雪奈』…そう、この事件も僕等の呪いな訳だ。これは僕ら3人が別々の中学に行き、その2年後の事件。確か中2の冬休みだったか…」



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