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呪縛

「五時間目が終わった後の休み時間、僕らは4人一緒に図書室に向かっていた。



なんせその日は暑かったからね、もう外遊びはやめて図書室に行こうと決めた。



廊下には不思議と誰もいない。何やらいつもよりひんやりとした空気が流れたいた。



「あ~…手を洗うの忘れちゃってたよ。なんかすっげぇ手がザラザラするし~。」



安藤が手と手を擦り合わせる。そういえば蝶の羽を取ったのは彼だったなぁ。麟粉がついたんだろなぁ…なんて僕は思いながら図書室へと向かっていた。



図書室の前に着くと真っ先に安藤が手を伸ばした。とにかく彼は一番が大好きな落ち着きのない奴だったからね、最初に中に入りたかったんだろう。



安藤がドアを開いた。僕等はいつもの薄暗い図書室を想像した。





でも、そこは図書室じゃなかったんだ…。





紅い。最初に思ったことは4人全員がこれで一致すると思う。




まず目に入るのは天井から吊り下げられる手。それは4本あった。ぽたぽたと血が垂れている。



そして壁には足が6本、突き出していた。それらは全部ウネウネと動いている。



僕らは戸惑った。図書室だと思っていた空間が、こんな地獄のような真っ赤な空間だったから。後ろで雪奈がヒッっと悲鳴を上げたのが聞こえた。



よく見ると真ん中に女性の頭と胴体が半分潰れて横たわっている。頭からは何か汁が垂れていようだ。女の周りの真っ赤な床にさらに紅い部分、つまり血だまりを作っている。



白い服を着ているようだが、その服も半分は血で真っ赤に染まっていた。



と、突如、女性の首がグルンと回転して僕らを見つめた。



「ウワアアァァァアアッッ!!!!!」



僕らはすぐに逃げようと振り返ったけど、そこに出口はなかった。



女がこっちに来る。僕等はもう怖くて怖くてひたすら叫んでいた。なぜこんなに叫んでいるのに助けが来ないんだろう!!と思いながら…。



後ずさりをすると肩に何かが当たる。それは血まみれの足だった。指が常人には出来ない動きをしている。



「…嫌だ!!嫌だ!!助けてっ!!誰かぁぁぁアアアアアア!!!!」



やがて女は僕ら四人の前で止まり、舌のない口で喋り始めた。




「ネェワタシッテミニクイカシラ?ホントウハスッゴクキレイナノヨアナタタチガワタシヲバラバラニシテコロシサエシナケレバ…」



僕らはもう何もできずに馬鹿みたいに泣いていた。



「ナイテンジャネエヨガキガ…マアイイワマダコロサナイデアゲルユックリキョウフヲアジアワセテカラネワタシハイツデモコノアカイヘヤデマッテイルカラ…ワタシニアイタクナッタラドアヲアケナサイソウスレバスグニコロシテアゲルワ…ワタシガアナタタチニサレタヨウニネ…ウフフウフフ…」




最後に女は口からビチャッと赤い液体を僕らに吐き出して、気味の悪い笑みを浮かべる。もう耐えられない。僕等はそれが合図だったかのようにひたすら叫んだ。声の限り。叫んで、叫んで、それが永遠に続くのかと思った。







いつの間にやら気絶していたらしい。目を開けるとそこは薄暗い、いつも通りの図書室の床の上。僕らは4人並んで倒れていたようだった。



彼女にかけられたはずの血の染みはなくて、かわりに体中が、蝶の鱗粉だらけだったんだ。」





いったん賢二は話すのをやめ、ビールを一気飲みした。



僕は今の話の整理をしていた。



「これは…あ~本当に君の経験なのかい…?」



彼はフッと笑った。



「経験、か。多分世界で最も嫌な経験だろうね。呪い、と言っていいと思う。そして今も、おそらく継続中なんだ。」



「とすると…君はドアを開けたら…殺される??」



賢二は頷いた。



つい雄磨は笑ってしまった。



「そんな馬鹿なぁ!!第一君は生きているじゃないか!!小4の時の話だとしたら、10年近く前の話だろう??」



トンッと賢二はビールを机に置く。



「君には僕の苦労は分からないだろう。僕がそれ以来、中学、高校とほとんど友人がいないのも、ドアを開くことが出来ないからさ。」



そう言い悲しそうに笑った。僕は今までにこんな自嘲的な笑いは見たことがない。



「ところで雄磨は9年程前に起こった『A市児童虐殺事件』を知ってるかい?」



それは知っていた。非常に残酷な手口で印象的な事件。



「確か小学生の男児が玄関先で、体の一部を切断され、体中血を抜き取られていたとかいう…」



そうだ。と彼は頷く。



「あの事件の被害者の名前は『安藤 慶』つまり僕の、呪われた友人さ。蝶の呪いで殺されたんだ。まぁ聞いてくれたまえよ、話の続きを…」

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