第24話 終息へ
私は驚いた。
「え?その後すぐ私の実家へ行ったの?」
夫は
「うん」
と頷き、話を続けた。
来た道を引き返すように、再び父を乗せた従姉のお姉ちゃん夫婦の車と、夫の運転する車は、連なりながら暗い夜の道路に車を走らせ、45分かけて私の実家へ向かった。
この行動予定は、私も夫も聞いていなかった。が、お姉ちゃんがこっそり夫に耳打ちしたそうだ。
「『わかった』と言ってから時間をおいてはいけない。考えが変わる前に畳み掛けないと」
私の実家に到着したお姉ちゃんは、父を先頭にしその後に続いて玄関を抜け、ズカズカと躊躇なく居間へ上がり込んでいった。
そして驚いている母親をよそに、さっさと母親と向き合って座り込んだ。
「おばちゃん、話まとまったから!」
「まとまったってなに!?一方的に私を抜きにしてコソコソと!勝手に何がまとまったっていうの!」
身構え、威嚇してきた母親を、お姉ちゃんはサラッと流した。
そして、"父から母親へ" 協議の結果を報告させた。
母親は、父が話している間は一応黙って聞いていたものの、怒りの目線は夫に向けられていた。
父が話し終わると、母親が当然のようにその妥協案に抵抗した。それをお姉ちゃんやお兄さんが補足したり、説明したり、なだめたりと言葉を尽くしていた。
しかし、母親は納得出来ず、力を込めて更に声を発しようとした、その瞬間、
「いいから黙って言うことを聞け!!」
父が母親を一喝した。
父の声に目を丸くした母親は口をつぐんだ。
この光景に夫は驚いた。
お姉ちゃんが父にこだわっていたのはこれなのか。母親を黙らせるには、父親の一家の主としての責任と覚悟を煽り、父親自身の意思と言葉が必要なのだと。
「ここで今までのことは水に流すんだ。あっちも、こっちもだ」
父がハッキリと母親に告げた。
妥協案、それは、
あっち(私達)も、こっち(私の母親と父親)もだ。
今までの積もり積もったあらゆる感情を、一旦全て水に流してリセットし、新たに親子関係を構築していこうというものだ。
母親は、まだ言いたいことがあるだろうが、私としても今後親子関係を続けていくことに抵抗があった。しかし、夫は何よりも自分の家族に危害を加えられる訳にはいかないと、家族を守るには
"当たり障りなく実家と付き合う"
それしかないと考えての『妥協』である。
「まあ、そうは言っても色々と相手に伝えたいこともあるんだろうから、お互い手紙でも書いて渡して、相手の思いを黙って受け止める。そうしたら?後は何も言わない!ね!」
お姉ちゃんは "手紙" という手段を使って、母親のガス抜きを図った。
こうすることで
『今後この事を蒸し返すことなく関係修復へ向けてやり直すことにする』
という決着に、母親の同意を取り付けた。
そうして、この数ヶ月の悪夢は、終息へと向かっていくことになった。
数日後、言うまでもなく母親は、便箋に何枚もの自分の気持ちだけをしたためた手紙を送ってきたが、私はサラッと読んで溜め息をつき、封筒へ閉まった。
夫は私のその様子を見て笑っていた。
母親は私から手紙が来るものだと思い込んでいたものが、夫からでさそかしガッカリしたことだろう。
今回の出来事は、従姉のお姉ちゃん夫婦がいなければ解決を見ることはなかった。私達がお姉ちゃん夫婦へ感謝の思いを口にすると、
「どんだけ修羅場くぐってきたと思ってんのよ」
そう言ってお姉ちゃんは笑った。
数ヶ月後、夫は居づらくなった会社を退職し、車で片道一時間の自動車販売の会社へ転職した。
新天地での仕事はかなりハードになってしまったが、私の両親は夫の環境の変化に責任など感じてはいない。
夫の仕事と私達の生活が一変してしまったことには、これっぽっちの罪悪感も持ち合わせていない。
今更、私の両親の性格など変わりはしない。
その後は、私は家族を守るために母親のプライドや面子を気遣いながら、母親の傲慢に耐えてきた。
しかし、火種を抱えながらの我慢には限界がある。
あれから25年。
子供が大人になり一人立ちした現在、私が母親に絶縁を言い渡し、4年が経った。
風の噂で、未だに "別れさせたい" と夫の悪口を吹聴していると聞こえてきた。
そういうところが嫌いなんだよ。




