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危険信号  作者: 佐藤柊
21/24

第21話 母の怨念と救世主

 翌日の夜も携帯は鳴った。

無視しても切れては鳴る携帯に

(また家の周りで叫ぶのでは...)

と、不安で緊張の糸が張り詰めたまま、地に足がつかない状態だった。

 

 母親に対する恐怖心があるものの、近所に母親の事が知られたくないという警戒心と世間体から、私は意を決して電話に出た。


 私は黙って相手の出方を伺った。

またすすり泣く声が聞こえる。


「...憎い...憎い...そっちの親が憎い...!」


完全にヤバい状態だ。

母親は怨念に取り憑かれている。

私達は逃げるしかないかもしれない...


 その夜は幸い、母親は家まで来なかった。

いや、私を呼ぶ声が聞こえなかっただけで来ていたのかもしれない。


 私の母親は、"親が子を想ってすることは全て許される" と思っている。

わがままでは済まされない大人気ない非常識な行動でさえ、"子を想うあまり" で片付けてしまう。


 しかし、全て私の為ではない。

母親の一番大事なのは自分の気持ちだ。


 そんな思い余った母親が、今度何をしでかすか、考えただけで恐ろしかった。


 生活の中で常に母親の気配を感じた。

ハッとする度に窓に目をやり、庭に目を凝らし、外出の際は後ろをいつも振り返り、常に母親がいないことを確認せずにいられなかった。


 そして夜になると泣きながら電話をかけてくる状態は続く。


「憎い....親子なのに...う...う...私の娘を...そっちの親....怨む...う..う...」


 もうどうしていいかわからない。

ただ『母親が夫の会社へ行きませんように』と、『家に来ませんように』と願うしかなかった。


 第三者から見たら解決法はあったかも知れない。だが実際にその状況にあり、親子だとか、嫁だとか、義理だとか、ぐちゃぐちゃに絡み合っていたらどうだろう。

親と縁が切れるならむしろそうしたい。

しかし、それを私が口にした時の母親の姿を考えると身の毛がよだつ。


 そう考える私は親不孝だろうか。


親の気が狂う様が容易に想像出来てしまうのだ。


 母親の口にする "私の娘"

この言葉を聞くたびに、私は捕らえられていような気がしてしまう。

自分の人生を歩もうとすると、まるで重い足枷が掛けられているように引き戻されるようだ。


 私はいつになったら自由になれるのだろう。


 そんな先の見えない日々を過ごしていた頃、思いがけない人に再会した。

「お姉ちゃん!」

「おー!久しぶり!元気にしてた?変わりない?」


 "お姉ちゃん" は、私の従姉である。13才年上でサバサバしていてハッキリものを言う体育会系。

裏表を上手に使いながら、裏の本音を自分で暴露して笑う性格の明るい人である。

 母親の実家を継いだ伯父夫婦の長女で、上の兄姉がいなかった私は幼い頃から "お姉ちゃん" と呼んで慕っていた。

 伯父とは私の母親の一番上の兄で、現在、母親は自分の実家で暮らす兄と疎遠になっている。

それは五人兄弟の一番上の兄嫁、つまりお姉ちゃんの母親と私の母親が、周りを巻き込む大喧嘩をして揉めに揉めた結果であった。


 原因は亡くなった祖母であった。

祖母は生前、母に電話を掛けてきては愚痴をこぼし泣いていたという。

母は自分の親を守るために嫁姑問題に首を突っ込んだ。

しかし、祖母は既に認知症が始まっていて、母に話す被害妄想的な内容と事実とは、大分食い違っていた。

 母は祖母の話を最後まで信じた。


 早い話が、祖母の面倒を実際に見ている家族に、嫁に行った小姑が親の扱われ方に怒った、という構図だ。

 

 当時、お姉ちゃんと私は敵対する親を持つ者同士だったが、お姉ちゃんは

「親同士の事は従姉妹同士には関係ない」

というスタンスをとってくれた。

お陰で私は、結婚して既に実家を出ていたお姉ちゃんの家に、よく遊びに行っては泊まっていた。


 しかし、その後の仕事や生活の変化で徐々に距離が出来てしまっていた。

ずっと連絡が途絶えていたお姉ちゃんとの思いもよらぬ再会だったのだ。


 私は、母を知るお姉ちゃんに気を許した。

過去の最悪が今、私を当事者にして降りかかっていると。

すると、


「何ですぐ私に言ってこなかったの!いい、わかった!お姉ちゃん入ってやるから!!」


あぁ、何の導きだろう。

救世主、降臨...。


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