視察という名の
「さぁ行くわよ」
「はい!」
2人揃って乗馬用のピシとしたキュロットとパンツを身に付けている。勿論男性用の乗馬服だ。
髪の長い私は頭の上の方で一纏めに団子にした。お陰で首元はスッキリとして気持ちがいい。その団子を帽子の中に押し込み毛先だけ出せば、ショートヘアの少年だ。しっかりと顔を見られなければ女だと気付かない程度には変装出来ている。
ミランダは栗色の短い髪を後ろで1つにしばり、こちらもまた少年のような様相。
手馴れた様子で完璧に変装した2人に、サラが困ったように額に手を当てた。
「本当にそれでお出かけになるのですか?」
「馬車は目立ちますし、横乗り鞍では遅いので」
悪気は一切ないミランダの言葉に溜息を1つ落とす。名ばかりではあるが、妻とその従者としては余り褒められないものだろう。
だが、女性が馬に跨っているところを見られれば、どれほど卑下されるか分かって欲しい。女の癖に、と蔑んだ目で見られた日には大暴れするだろう。
何か言いたげな様子だったが止める様子がない内に、と会話もそこそこに用意された馬に跨る。
「行ってきます」
手綱を引けば、馬が勢いよく駆け始めた。
―――
「馬も優秀だったわね」
「…間違いないですね」
町の隅にある簡易的な馬小屋に馬を預ける。
平坦な道を掛け走ったものの疲れた様子もない馬を軽く撫でれば、ブルと低い音で馬が鳴いた。
可愛らしい従順な2頭の馬には是非お土産を買ってきてあげようと意気込みながら、ついに街へ出れば感嘆の声が溢れ落ちた。
道の両端に店が連なり、どこも賑やかに客を呼び込んでいる。オレンジの石畳の道に合わせたような柔らかな赤みのある店はレストランや雑貨店など様々だ。
多くの人が行き交う様子は厳かな雰囲気のクロフォード家の領地とは全く違う。素直な感想が口をついて出た。
「すごい…」
「商売の盛んな領地とは聞きましたが、ここまでとは…」
「雰囲気も素敵ね…」
ツン、とミランダに裾を引っ張られ、はたと気付いて口を噤む。久しぶりの視察で忘れていた。
「ごめん」と小さく謝ると、ミランダは心底楽しそうな少年のような笑みを見せた。私もつい歯を見せて笑ってしまう。
「ここでは僕らは少年ですよ」
「そうだった」
「さて、どこから行きましょうか?」
「じゃあ雑貨店へ」
「承知です」
視察という名のショッピングが始まった。