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数日後の暇

公爵邸へ来て数日が経ち、私は午後の穏やかな時間を過ごしていた。


ティーカップも相当高級な物らしく、口当たりも滑らかで愛飲している紅茶も一等美味なものに進化している。


つまりは非常に好ましいということだ。


やや乱暴にティーカップを机に置くと、食器同士がぶつかり、高い悲鳴が上がった。ミランダが驚いたように体を震わせた。


「……凄い快適だわ」

「急にどうしたんですか?」

「親からの厳しい教育もなければ、男も近寄って来ない

最高の環境すぎる…」

「良い事じゃないですか」


クロフォード家は伯爵という段位を持つ由緒正しき貴族だ。その影響か領民との線引きやら家のルールやら、守らなければならない家訓が死ぬ程ある。


由緒正しいと言えば聞こえがいいが、所詮古臭く頭の硬い家訓。どうしても私は馴染むことが出来なかった。


女はより良い条件のご子息の元へ嫁がなければならないのもその由緒正しい(古臭い)家訓の1つで、両親から耳にタコが出来る程言われ続けていた。


その英才教育のお陰か、3人の姉は淑女として教育を受け、それぞれ相応の名のある侯爵の家系に嫁いでいる。なんともおめでたい話だ。


私も同様にその道を辿るはずだったのだが―――。


今や嫁ぎ先で実家よりも穏やかな心で過ごしている事実に驚愕しているという訳だ。


あれ程想像しただけで吐きそうになる程嫌だった一緒の食事も、席は随分と離れており会話も必要最低限のお陰で、食欲が普段より落ちている程度のものだ。そこまでの不都合はない。


アシュレーが言った通り、私に配慮してくれているお陰で最早暇でさえある。


「こんなに暇して良いのかしら」

「今まで苦労してきた分が返ってきてるんですよ」


落ち着かない様子の私に、ミランダは声を上げて笑った。ム、と口をへの字に曲げれば、彼女は仰々しく謝罪の意で頭を下げる。


「何かしたいのよ」

「じゃあ旦那様のお手伝いとか…」

「却下」


検討する間もなく却下される事など承知の上だったらしい。ミランダは呑気に「ですよねぇ」と笑った。


「あ、」

「何?」

「久しぶりに領地の視察なんてどうでしょう?」

「…その案、良いわね」


2人揃って悪事を働かんばかりの悪い顔を浮かべる。すぐさま立ち上がり視察の為の準備に取り掛かることにする。

自由にしていいと言ったあの男なら確実に了承するだろう。


―――


「あの」


数日経って、挨拶以外の会話は初めてだ。

私が話しかけてくるとは思わなかったのであろうアシュレーは、ステーキを切る動作を止めて私を見た。


「なにかしら?」

「明日、貴方の領地を視察させていただこうかと思いまして…」


思案する間もなくアシュレーは相槌を1つうった。止めていた手を再度動かし始める。


「良いわよ」

「ありがとうございます」

「むしろそんな事で報告しなくても…ああ、馬車は用意しとくわ」

「いえ、馬2頭で十分です」

「あらそう?横乗り鞍はあったかしら」

「通常の鞍で問題ないです」


怪訝そうな表情で私とミランダを見る。先程よりも小さな声色で「2頭とも?」と問い掛けられ、頷く。


ドレスでは難しいだろうという言外の疑問は、ミランダが自信ありげに手綱を持つ仕草を見せて黙らせる。やはり流石優秀な従者である。


「…分かったわ」


どこか含みのある言葉に、再度「ありがとうございます」と含みのある笑みで返した。

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