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夫婦ルール

涙を拭いて、ようやく私は「失礼致しました」と居住まいを正した。

涙が出る程笑った今、今更取り繕っても仕方ないような気がするが、気を許した訳ではないことを暗に伝えるためだ。


それを空気で感じとったのか、アシュレーも同様に背筋を伸ばした。


「これからここで生活する訳だから、ある程度身の回りの事は整えておいたわ」


アシュレーの言葉に眉を顰めた。


「…助かります」

「明日から男の使用人も居るけど、アンタの対応はしないよう言ってあるから」

「…え、あ…ありがとうございます」

「寝室は別、基本的に食事の時以外は自由にしてていいわよ」

「…ありがとうございます」

「たまに来客もあるけど、その時は必要最低限の対応だけして貰えれば良いわ」

「はい…ありがとうございます」

「突然ありがとうございますしか言えなくなったの?!この子は!」


困ったようにミランダに目線を向けたアシュレーは、微笑ましいと笑っている彼女を見て呆れたように額に手を当てた。


「他に何か要望があるかしら?」


思った以上、否―――これ程までに良い条件に裏があるようにさえ感じるが、もう1つどうしても譲れない条件があった。


「…あの、」

「何?」


おずおずと手を上げる。口を引き結んだアシュレーの視線がいたたまれず、目を逸らす。


「私の身の回りの世話はミランダだけで大丈夫です」

「…彼女だけじゃ大変でしょ」


探るような視線に、ミランダが拳を突き上げた。少し緊張が解けたようで、いつもの彼女らしい仕草に緩んだ頬からくつくつと笑い声が溢れる。


「前から私一人なので大丈夫です!」

「…アンタたちが良いならそれで構わないけど」

「勿論です!ね!

お嬢さ…じゃなくて奥様!」

「訂正しないでちょうだい…」


窺うようなミランダに、アシュレーも「構わないわよ」と手を振った。一息ついた彼が私を見る。何の意図があるのか読み取れない視線。


「……、なんですか」

「いや、別に」


指摘した途端に視線を逸らした彼が立ち上がる。一体なんだというのか。


「まあ、今日は移動で疲れたでしょ

ゆっくりしなさい」


淡々と夕食の時間を告げたアシュレーは、振り返ることも無く応接間から出ていった。


「何か、裏がありそうよね」

「そうですか?

とてもお優しい方だと思いましたが…」

「こんな好条件、あの男に得なんてあるかしら」


メイド長―――サラと呼ばれた彼女がアシュレーのティーカップを片付けながら私を見る。


雇い主に疑いの目を向けた手前、その視線は流石にバツが悪い。慌てて取り繕おうと口を開いたが、サラは目を細めた。


「旦那様は素の自分を受け入れてくれる人にはお優しいんです」

「…そうなんですか」

「だから素直に好意と受け取って大丈夫ですよ」

「…はい」


サラの柔らかい笑みにぎこちなく笑うしかなかった。

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