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社交界の課題「美容編」

「ソーニャ様、行きますよ…」

「ええ、一思いにやってちょうだい…」


手先が震えているミランダに大きく頷いて、強く目を瞑る。ミランダは勢いよく最後の布の1枚を追っ払った。


「今見てませんのでさあ早く!」


目を見開いて、湯船に飛び込んだ。何のことはない、ただの入浴である。


―――


「社交界、となればまずはお体の調子を整えなければですね」

「ええ、そうね…」


紙に書かれた文字を追う。


『社交界デビューへの道』。

我ながらあまりにもダサすぎるネーミングセンスだ。箇条書きで書き記した量が多すぎて嫌になる。


うさぎのぬいぐるみをツンとつつきながら、物憂げに目を伏せた。


ミランダが困ったように美容品を手に取る。用意した美容品はどれもこれも風呂場で行うスキンケアが並んでおり、つい眉を顰めた。


「…ご自身でされますか?」

「いや、今後のことを考えるとミランダ程度に恐れをなしている場合じゃないわ…」

「それは…そうですね」


深刻な表情で顔を見合わせる。


社交界。といえば、女性の基本的な嗜みとして華美なドレスを着る。

つまり端的に言えば肌の露出があるという訳だ。


何のことはない肌の露出。それが私にとってまず1つ目の課題である。


男の視線や体が肌に触れることに凄まじい程の嫌悪を抱くという単純明快かつ、高い試練の壁だ。


幼い頃は当たり前に出していた筈が、いつからか他人の見定めるような視線が刺さることに気付いた。そこからはもうトントン拍子に半袖も、首の露出さえも不快になり今ではどれほど暑い日だろうと長袖を手放せなくなったのだ。


最早ミランダにも見られることに抵抗があり、入浴も(貴族として、全ての世話を使用人にさせるべきだという頭の硬い両親にチクチクと小言を言われていたが)自分で行っていた。


告げ口をされてしまえば、どう火の粉が降りかかるかわからない。そのために、理解のあるミランダだけに身の回りの世話をお願いしていたのだ。


公の場に出ないのであればこのままで良いが、そうとも言えなくなってしまった。


三つ首を武装したドレス姿で現れれば、悪い意味で注目の的になるのは目に見えている。最低でも腕や肩の辺りは出せるように特訓しておくのが得策だろう。


そんな経緯で久しぶりにミランダを入浴時に中に招き入れたという訳だ。


緊張の面持ちでミランダが「まず髪を、」と手に取る。


「久しぶりなので失敗したらすみません」

「失敗することもあるの?!」

「泡が目に入るとか…」

「視界を奪われるのは恐ろしいわ…

むしろぶん殴られて気絶してる間に終わってくれた方がまだマシね」

「私も気絶されてる方が気負いしなくて済みますよ」


冗談の交じる声色の中に本音が透けて見え、訝しげにミランダを見つめる。

刺さる視線に彼女は首でも取れるんじゃないかという勢いで否定の意を示した。


「…冗談よね?」

「流石に」



結果としては、久しぶりの入浴は成功に終わったと言っても過言ではない。


互いに緊張の面持ちながらさしたる失敗もなかった。泡が目に入ることも、ギブアップを告げることもなく、就寝用ドレスに着替えるまで無事任務を遂行したのだ。


無事でないことを敢えて言うならば、普段使わない入浴時の美容品に、使い方が分からないと2人揃って首を傾け、なるようになれと手当たり次第に使ってみたくらいだろうか。


2人揃って自信に満ち溢れた表情で見つめ合い、どちらともなく固い握手をした。


「やり切ったわね」

「流石ですお嬢様!

近日中に必ずや美容品の効能を調べて完璧に仕上げますね」

「今後の課題なんて楽々とクリア出来そうね」

「お嬢様の腕でしたらすぐですよ」


達成感による高揚で自信を付けた私は、簡単だと宣った自分を恨むことになるとは思いもよらなかった。

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