お土産と
仕分けを手伝ってくれているアシュレーに、疑問ばかりが思い浮かび、それを口に出すか迷う。
迷っている内に手を止めていたらしく、彼は眉を顰めて私を咎めた。
「手、動かしなさいよ」
「あ…すみません」
「…何かあったんじゃないの?」
「なんで分かったんですか」
「じゃないとアタシのことまじまじと見てる理由ないでしょ」
じとりと睨めつける彼に苦い顔を見せた。数日でよく理解出来たものだ。
口をもごつかせながら、1番気になっていた事を口に出す。
「…その、怒ってなかったんですか?」
「…」
目を細めて私を見るのだから居心地が悪い。それを振り払うように、台地に近くなったかつての山を仕分けする。
「怒ってたわよ」
「…やっぱり公爵家に嫁いだ者として、威厳を――「違うわ」」
厶、と口をへの字にしたアシュレーが私を睨む。
何故分からないと言いたげな表情だが、それはこちらのセリフだ。
意図が伝わらず、眉間に手を当てた彼は諦めたように息を吐いた。
「陽が沈む前に帰ってこなかった事を怒ってたのよ」
え、と溢した言葉にアシュレーが首を振る。
「アンタたちはそんなつもりなかったでしょうけど、待ってる側は何かあったんじゃないかって不安になるんだから」
「…すみません」
「分からなかったんだから、謝ることもないわ
ただ夜道は危ないのよ」
「……、すみません」
今まで言われたことのない言葉に、謝ることしか出来ない。
そんなことを言われたのは初めてだ。
かつて威厳も品位もないと言われた乗馬服のことなど忘れたように、ただ心配している彼にただ申し訳ないと思った。
怒りという名の心配の感情を真摯にぶつけられ、戸惑うことしか出来ない。
戸惑う私を見て肩を震わせる。
「ブサイク」
「…ブサイクって…」
鼻で笑ったアシュレーは柔らかく笑った。指先を自身の頬につけてまじまじと見つめてくる彼を訝しげに見つめる。
「ゴメンって言われるより、ありがとうって言う時の顔の方が好きよ」
「…ありがとうございます…」
「良いじゃない」
屈託なく笑う彼に毒気が抜かれる。何というか、いい意味で裏切られたのだ。
こんな人今まで居なかった。正直、段々とこの場から逃げ出したい衝動に駆られている。
一体何なのだ。
大方作業もほとんど終わっている。さっさと終わらせて部屋に戻ってしまおうと、ガラスペンを手に取った。
キラキラと光を反射するそれを半ば無理やりアシュレーに押し付ける。
「…あげます」
「あら、いい物くれるじゃない?」
「お土産です
お返しはコリンズさんの揚げパンで大丈夫です」
「随分と仲良くなったわね」
思い出したように柔らかく上がった口角が、笑みを溢すように震えた。コリンズと話している間に私たちの話も出たのだろう。
気のいい店主を思い出して、冗談交じりに「仲良くなったかも知れません」と肩を竦めてみせる。彼も同様に大袈裟に肩を竦めた。
数個ほどしか残っていないお土産の山に視線を移して、アシュレーが立ち上がる。
「そろそろ仕分けも終わりそうね
夕食は…」
「入らなそうです」
「みたいね」
「手伝っていただいて、ありがとうございます」
「こちらこそ」
用事は終わったと、振り返ることもなく部屋から出ていく彼の背中に問いかけた。いくつかの疑問の1つだ。
「用事は大丈夫ですか?」
「用事?」
足を止めて振り返る。嫌な気はしない。
「馬車、用意してたじゃないですか」
「ああ、アレ…
用事は終わったわ」
「出掛けないんですね」
「出掛けて欲しそうね」
「…そういう訳では、ないです」
あらそう、と踵を返した彼が部屋から出て行った。