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お土産

緩いウェーブのかかった髪が邪魔くさい。バレッタで軽く留めて、積荷から降ろされたお土産の山を仕分けるためにしゃがみ込んだ。


既に食べ物関係は力自慢の料理人たちによってキッチンへ運ばれているらしい。


少し高価そうなガラス細工のペンや、細工が施され手順通りに動かさなければ開かない箱など、見目の良いものや面白いものが雑多に積み上げられた山は、先程よりは随分こじんまりとしている。


山から1つ取り出しては使用人たちにあげるのか、私が貰うのか、それとも倉庫に放り込むのか、気が遠くなる作業に頭痛がしそうだ。


正直男性用の乗馬服の方がよほど動きやすく軽い。1日身軽でいた分、ドレスが余計に重たく感じる。

重いドレスのことまで気になり始め、つい溜息と「気が重いわ」という言葉が溢れ落ちた。


はた、と口元を隠して周りを見れば、メイドたちが何事かと同様に左右を見渡した。コソリ、と口元を窄めながら小さな声で問う。


「…あの人は居ない?」

「旦那様はまだコリンズさんとお話してるかと」

「なら良かった」

「…多分怒ってはないかと思いますよ」

「絶対怒ってるわよ!

だって目釣り上がってたもの」


アシュレーが居ないことを確認して息を吐く。隣で仕分けを手伝っていたメイドが私を見て呆れたように笑った。


先程のアシュレーの表情を思い出すと同時に、脳裏に浮かぶ父の姿に身震いした。かつて視察と称してミランダとクロフォード家の領内に遊びに行った時のことだ。


「領主の娘という自覚がない」と怒鳴りたて、鞭で叩かれ、その傷が無くなるまで家から出ることを禁じられた。

そんな些細な事でへこたれる訳もなく、今も自由にしてはいるが痛いものは痛い。

うっすらと残る無数の鞭の傷が傷んだ気がして軽く腕を摩る。


褒められたものではないことを自覚している手前、極寒のオーラを纏ったアシュレーを更に怒らせる訳にはいかないのだ。

怒らせればどんな仕打ちが待っているか、検討もつかない。


アシュレーが馬車に乗る為に外へ出ていなければ、すぐにドレスに着替えるつもりだったが間の悪いことだ。


もう既に彼は屋敷を発っているだろうか。

やはりタイミングが悪かった。


帰ってくる頃に怒りが少しでも落ち着いていることを願うしかない。あわよくばしばらく留守にしてくれればなお良い。


「忘れ物してるわよ」


勢いよく振り返れば、アシュレーが扉に凭れかかりこちらを見ている。


ド、と心音が上がった。

様子を見るように細めた瞳に射抜かれ、体が強ばる。


私の様子を見て盛大に溜息を吐いた彼が近寄ってくる。

目を瞑れば、近づいてくる足音がやけに鮮明に聞こえて後悔した。今更目を開ける勇気はない。


殴られる心の準備をして、ただひたすらに待つ。カツカツと高級そうな靴の音と共に、トス、と柔らかな音が響いた。


「コレ、アンタの買い物じゃないの?」

「…ぇ、」


隣には手のひらでは収まらないほどの大きさのうさぎのぬいぐるみが居た。ビーズで縫い込まれた目は丸こく、その瞳に一目惚れした私の―――。


「ぎゃーーーー!」

「うるっさいわよ!」


ついあげた悲鳴にアシュレーが耳を塞いで後ずさった。メイドたちも何事かと振り向いているが、今の私に取り繕う余裕なんてない。


見られてしまったのだ、密かな私の趣味を。

これが叫びずにいられるものか。


「なんっ、これ、どこっ…どこにあったんですか!」

「ミランダがアタシに渡してきたのよ

『お嬢様のお風呂のお支度して参りますので』って」


微妙に似ている声真似に顔を青くする。


確かにミランダを見ないと思ったが、まさか私のためにお風呂の用意をしに行き、私の誰にも言ったことのない秘密を暴露するなんて本末転倒ではなかろうか?


「可愛いぬいぐるみねぇ

アンタの趣味?」

「……」

「無言は肯定と受け取るわよ」

「…わ、悪いですか……

私は…可愛いぬいぐるみを集めるのが密かな趣味なんですよ!

いつか部屋の中をぬいぐるみで埋めて、その中で生活するのが夢なんです!」


なるようになれと勢いよく叫ぶ。


まて、言い過ぎた気がしなくもない。


アシュレーは呆けた顔を見せて、そのまま声を上げて笑った。

腹を抱えケラケラと笑う姿に、私は赤面することしか出来ない。ミランダ以外、誰にも言ったことのない秘密をメイドたちもいる中で言うなんて、とんでもない失態だ。


視界の端でメイドたちが気まずそうに、聞いていないと仕分けを再開している。


涙を浮かべたアシュレーは指で涙を拭きながら頷いた。


「最高に良い夢じゃない」


今度は私が呆ける番だ。

可愛げなんて1つもない私には、到底似合うことのない趣味を理解して貰えるなんて思っていなかった訳で。

くつくつと笑われているのに、不快感はなかった。


言いたくなかった言葉が溢れ落ちる。


「…私に可愛いものなんて似合わないのに…?」

「あら、誰が似合わないなんて決めたの?

誰に何言われようと好きを貫くなんて、カッコよくて最高よ」


自信に満ち溢れたようなしたり顔で言い切った彼に、つい絆されて笑んだ。


「ありがとうございます」


泣きそうになったのを隠すようにうさぎのぬいぐるみを抱きしめたことは秘密だ。




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