僕と雅とようかいの夢
子ども頃の夢って、こんな感じだったよね?と思い出しながら書いてみました。
「起っきろおー、学校遅れるよ」
誰かが、僕のベッドに乗っかってきた。
「え!誰?今日は日曜日だよ」
そして僕は、誰かにベッドから引きずり落とされる。
「痛たた。なにするの」見上げると、女の子が立っていた。
「お姉ちゃんだよ。お姉ちゃんの、み・や・び!それと今日は月曜日だよ」
「お姉ちゃん?月曜日?僕に、お姉ちゃんはいなかったはずなんだけど…あれ?いたっけかな?」
よく分からなくなったから、僕はお姉ちゃんがいることにした。
僕を起こしに(引きずり落としに)来たのは、お姉ちゃんの雅だった。
七時にセットしてあるはずの目覚まし時計は、鳴ること無く、七時を過ぎている。《壊れたのかな?》
「何、言ってんの!ほら、早く起きないと学校に遅れるよ」そう言うと、お姉ちゃんは部屋から出て行った。
「起きるも何も、もうベッドの外だよ」
僕は寝ぼけ眼を擦りながら、着替えを済ませ部屋を出る。
僕の名前は阿宮正明小学一年生になったばかりなんだ。
「早くご飯食べないと置いて行くよ」
「待ってよ。お姉ちゃん置いて行かないで」
僕は出来るだけ急いで朝ごはんを食べていたはずなのに、いつの間にか玄関に立っている。
「あれ?朝ご飯食べていたよね…僕」
「まーくん、早く行くよ」
外で雅お姉ちゃんが手招きしていた。
僕は「行ってきます」と同時に元気良く玄関を飛び出すと、お父さんの車を探した。
「あれ?お父さんの車が無い」いつもは車で学校に行ってたと思ったけど勘違いしたみたいだ。
「まーくん、学校こっちだよ」雅お姉ちゃんが手まねきをしてる。
しばらく歩くと、道路の真ん中に、大きなタイヤが横たわっているのに気付いた。
昨日は無かったはずの、僕の背丈よりも大きなタイヤだった。
「おっきいねぇ。どっから来たのかな?」
「きっと、セメント工場のタイヤローダーのタイヤが外れて、ここまで転がって来たのかもね」と、雅お姉ちゃんが言った。
「早く行かないと、学校遅れるよ」
雅お姉ちゃんは、大きなタイヤより学校に遅れる事が気になるみたいだ。
僕は、雅お姉ちゃんに手を引かれて学校へと急ぐことにした。
それでも、大きなタイヤが気になって振り返ると、寝っ転がっていたタイヤが、むっくりと起き上がって、こっちへ転がって来るのが見えた。
「お姉ちゃん、大変タイヤが!」僕は、びっくりしてお姉ちゃんの手をぎゅっと握る。
「大丈夫だよ。ここは登り坂だから、こっちには来られないよ」雅お姉ちゃんは、そう言うとタイヤに構わず学校へと急いだ。
それでも、気になった僕は、また振り向くと転がるタイヤの真ん中に、今度は大きな顔が現れた。
「お姉ちゃん、タイヤに顔が」慌てた僕は、雅お姉ちゃんの手を思い切り引っぱった。
「あのタイヤは物の怪の類いだ。まーくん早く、走って逃げるよ」
僕達は出来るだけ早く走った。
僕は一生懸命走るけど、足が縺れて前に進んで行けない。
「このカーブの先に右への脇道があるから、そこに隠れるよう」
脇道に入ると、大きな木の後ろに隠れた。
大きなタイヤは、僕達に気づかなかったのか?そのまま、登り坂を転がって上まで行くとドスンと倒れて、動かなくなってしまった。
「私達を見失ったから、動かなくなったみたいだね」
木の後ろに隠れたまま、様子を伺う雅お姉ちゃんが「でも、この道は使えないね。きっとまた見つかったら追いかけて来るよ」
「じゃあ今日は、学校に行けないね」ポツリと僕は呟く。
「ちょっと遠回りだけど、この道を下って行けば学校に行けるよ」雅お姉ちゃんは、僕の手を握ると脇道を、下り始めた。
僕達は、田んぼのあぜ道を歩いていた。
「あれ?いつの間にか田んぼだ」下り始めたばかりだったのに、辺りは一面、田んぼになっていた。
田んぼの水たまりには、おたまじゃくしやめだかが、泳いでいる。
「ねぇ、あの大きなタイヤは何だったのかな?」すると、雅お姉ちゃんが「あれは火は纏っていないけど火車だと思う。付喪神と言う妖怪の類いだよ」と教えてくれた。
「妖怪っておばけだよね。怖いね」妖怪…僕はブルブル震えた。
しばらく歩くと、大きな足跡が道の真ん中に現れた。
「わぁー、すごい大きな足跡だ。ねぇ見て見て、僕の足三個分より大っきいね。誰の足跡かな?」
雅お姉ちゃんが、前の方を指差して「きっと、前から来るデイダラボッチの足跡だね」と言った。
僕は、お姉ちゃんが指差した方を見た。
とても大きい目と大きい口、背丈は僕の何倍もあった。
でも、ちっとも怖いとは思わなかった。
「デイダラボッチは田んぼや畑に住んでいた、元々は神さまの妖怪だから、人間が悪さしなければ大丈夫」そう、お姉ちゃんは言った。
デイダラボッチは僕の方を見た。
僕もデイダラボッチの方を見た。
「バイバイ」デイダラボッチに手を振ると「ばいばい」と低い声で笑いながら手を振って通り過ぎて行った。
「早く行こうよ」雅お姉ちゃんは、デイダラボッチには目もくれずズンズンと田んぼの続く道を歩いた。
白く長い塀の前に立っている。
「あの家と家の間を抜けたら、目の前は学校だからね。早く行こう」人一人が通れるほどの狭くて長い路地「前にも来たことが…ある?」何となく見覚えのある路地のすき間だけど、僕は今まで一度も通っていない。
「見たことあるのに、何で通ったことないんだろう?」そう思ったら、とても大事ことを忘れている気がした。
「まーくん、あそこ通らないと学校遅れるよ。遅刻しちゃうよ」お姉ちゃんが、僕を呼んでいる。
右も左も白い壁が、ずっと続いて回り道は出来そうにない。
とても大事なこと…。
僕は今日は、行かなきゃいけないところがあったはずなんだ。
「あそこに入ったら、僕は…」と、その時だった。
『ピピピッ ピピピッ 朝だよ 朝だよ』
僕の目覚まし時計の音が聞こえてきた。
「あーあ、時間切れだね。まーくん、もっと眠っていて欲しかったなぁ、また遊ぼ。今度はそっちの方でね」
「お姉ちゃん、そっちって?」
遠くで聞こえていた目覚まし時計の音が、大きくはっきりと聞こえてきた。
そして僕は、ベッドの下で布団に包まったまま、目が覚めた。
僕は、お母さんと生まれたばかりの妹を迎えに、お父さんと車で病院に向かっている。
「えー、まーくん今朝はベッドの下に寝てたの」お父さんは大きな声で笑っている。
「そんなに笑わないでよ」僕は、ふくれっ面になる。
「きっと、まくら返しがいたんだね」と、お父さんが言う。
《確かまくら返しは、寝ぞうが悪くなる妖怪だったよね?》
だから今日の朝は、ベッドの下で寝ていたんだと思うことにした。
病院に到着すると、いつでも退院出来るようにと、お母さんは生まれたばかりの妹を抱いて、病室のいすに座って待っていた。
「お母さん」僕は、お母さんに抱きついた。
「ほら、まーくんの妹の雅ちゃんですよ。よろしくねお兄ちゃん」お母さんは僕を抱き寄せて、妹の雅ちゃんを見せてくれた。
「よろしくね雅ちゃん。僕がお兄ちゃんだよ」
僕が人差し指を差し出すと、小さな、とても小さな手で、雅ちゃんは握りしめてくれた。