番外編26 陽キャ男子は許しを乞う話。
多分藤咲は、みんなに知られたくないんだろう。気を遣わせてしまう、と危惧してる。
でも、違うんだ。
みんな、藤咲と見た方が楽しいんだよ。
そりゃ、怪我してるんだから気は遣うけど。そんなので楽しさが減る訳じゃないし、藤咲がいないよりよっぽど良い。
もし、松井さんが藤咲の立場だったとしたら、お前はどう思うんだよ。絶対、俺たちと同じように思うだろ?
「わ! 見て! 始まった!」
焼き鳥をものすごい速さで完食した藤咲。興味が移ったらしい。
藤咲は立ち上がり、窓に寄った。腕を組んで体重を預けている。
ここは外から見える位置だが、見たところで暗くて分からないだろう。それに、こんなときに校舎をみるやつはいない。
「おい、急に立ち上がるなよ」
「だって、しっかり見たいじゃん?」
「言ってくれれば手伝うからってことだよ。立ち上がるなとは言ってない」
俺も立ち上がり、藤咲の隣に行く。そして、同じく窓のサッシの上で腕を組んだ。
「花火も見えるように、四階にしてくれたんだね」
「……まあな」
三階だと花火見るには低すぎるし、五階だと上がるのが大変だろ。まあ四階も大変だけど。
体育館に連れていこうとしたところで、藤咲は来ない。そういうとこ頑なだからな。そういうことまで加味して、ここに連れてきたんだ。
「古池と奏音いないかな」
「……暗いし見つかんないだろ」
全生徒、全教員は中庭で花火を見ている。ちょうど、この窓から下を見たところ。三年はもっと見易い位置の校庭の方にいるんだが、一、二年と教員はそこで密集しながら見てる。
「……ねえ、瀧田くん」
「ん?」
藤咲がこっちを向いた。花火の光で、一層輝いて見える。
「ごめんね」
「え……? 何、急に」
「あの、……夏祭りの。話しかけて欲しくなかったところに、私がすごい質問攻めしちゃったから……」
「……」
「それなのに今日は、本当にありがとう。私まだきちんと謝れてないのに、助けてくれて……。瀧田くん優しいよね」
「……いや、祭りのときは、本当に藤咲は悪くない。ただ、少し……気まずくて。……それだけ。ほんとごめん」
「あ、そ、そうだよね。あの公園の……あ、や! 違うの! 記憶は抹消されてるから!」
「良いって、ムリに消さなくても」
それもあるけど、違う。違うんだ。
あの時好きって気付いて。でも当の本人は、俺の気持ちに気付かない。他のやつのために可愛くして来てる。
だから、嫉妬したんだ。……絶望したんだ。
諦めなくちゃいけない。それが露見したことが、辛かったんだ。
それで、避けた。
あいつと話す藤咲を見ないように。諦めがつくように。
これ以上、お前を好きにならないように――。
「あの、私から提案して良いことなのかちょっとあれなんだけど」
「なに?」
「……仲直り、してくれませんか……?」
「……うん。仲直り。……俺は数時間前にしたつもりだったけどな」
喧嘩してる方が都合が良かったんだけどな。でも、藤咲《好きな人》が望むなら仕方ない。なんでも叶えてやりたいと、そう思ってしまう。
「ありがとう!」
久しぶりに見た。それを見た人さえ笑顔にしてしまう、とびきりの笑顔。
「おう」
俺は微笑み返すので精一杯だった。
ブブブッ ブブブッ
定期的にスマホが振動する。でも俺は、確認しない。
藤咲も、スマホを触らない。花火に集中してる。
帰るって誰かに言ってあるのか。それか、何度も連絡は来てるけど、マナーモードになったままなのか。
……俺が、藤咲のスマホをマナーモードにして渡したんだ。ボタンをカチッとやるタイプだったから……。ほんの少しの、足掻きだ。
ごめん健人。
今だけ、……今だけ許してほしい。俺に、最後に思い出を。
これっきり、邪魔はしないから。
『帰るってどういうこと? 後夜祭と花火は?』
『藤咲と帰ったってことー?』
『おーい、返事してくれよー』
『不在着信』




