70 腐女子と文化祭の話。16
「特等席って、ここ?」
移動すること十数分。いや、二十分くらいかな? うん、時間かかりすぎだね。
「そ。二年二組」
案内されたのは教室である。一組側の階段の二階が体育館との渡り廊下になってるんだ。
だから、体育館と同じ高さは二階なんだけど、ここは四階。それでも確かに、体育館から音が漏れて聞こえてくるな。防音できてないね。
「座ろう」
「うん」
瀧田くんは、教室から廊下に椅子を運んで来てくれた。
「あれ、一つ?」
「うん。俺は床で良い」
「ええ? ふふ、なんでよ」
あ、ホントに床なんだ。
「! 流行ってる曲だ」
少しの沈黙の後聞こえてきたのは、ノリの良いあの曲。私も頭でリズムを取る。
「藤咲も知ってるんだ」
「知ってるよー。私、こう見えて結構色んな界隈かじってるんだよー! ま、広く浅くだけど」
アニソンはもちろん、流行りのJ-POPは音楽番組見てれば分かるし、あと意外かもしれないけど、私K-POPも好きなんだ。サブスクのプレイリストに色んな曲入ってるし! ……オタクからしたらニワカでしかないんだけどね。
「すげえな。流石、誰とでも話せるだけある」
「え、そんなことないけど」
だって、ガチオタとは話せないし。ちょーっとだけ知ってるってのが一番たち悪いと思うんだよね。話せると思ってガンガン話してたのに、踏み込んではムリだった……って思われるの。
ああ、言ってて悲しくなってきた。
だからね?! 私たくさん勉強してるの! 頑張るから許してほしい!
「!」
……う、わ。
今、瀧田くんと目が合ったんだが、分かるかい? 状況的に、私、上目遣いされてるんよ。はは。美の暴力。
目を逸らすためにスマホで時刻を確認すると、五時十五分になるところだった。あと三十分で打ち上げ花火が始まるんだよね? まだ明るいけど、この季節だし、暗くなるの早いのかな。
「どう?」
音が聞こえなくなったから、きっと終わったんだと判断。瀧田くんに窓から確認して貰ってる。
「みんな移動し始めてる」
やっぱりそうだった。あっという間だったな。
……すごい、楽しかった。パフォーマンスを直接見れた訳じゃないけど、何て言うんだろ。特別感? ほら、現に特等席に座ってるんだし!
「……あ!」
「なんだよ急に」
「焼き鳥食べてない!」
着いたら食べよーとか話してたのに、いざ着いたら後夜祭に集中しすぎて忘れてた。
「ああ、そういえば。今食べるか? それとも持ち帰る?」
「今食べる! 思い出したらお腹空いてきた」
「塩とタレどっち?」
「塩でお願いします」
私、圧倒的塩派なんだよねー。
焼き鳥で好きなのが、なんこつと砂肝だからってのもあるかもしれん。この二つって塩が主流じゃん? それをずっと食べてきてるからさ。
「ん」
「ありがとう」
お、皮だ。確か売ってたのはモモと皮だったよね。皮の方が好きなので嬉しいですわ。
「モモもあるからな」
「マジか、神すぎる」
どっちも食べれるに越したことはない。普通に嬉しい。
「あ、瀧田くんも食べて良いからね?」
「え、良いの?」
「当たり前なんですけど……。瀧田くんにお支払いいただいてるわけですし……」
「じゃあ、遠慮なく……」
あ、瀧田くんはモモが好きなのかな? そっち食べてる。
……やっぱ私もモモ食べたい!
「あの……!」
「?」
「食いしん坊したいからそっちも欲しいです」
食いしん坊とは。……両手に一本ずつ持ち、交互に食べることである(※藤咲家では周知の事実。瀧田氏もときどき聞くこの言葉の意味に勘づいている)。
「はい」
「ありがと!」
私たちは焼き鳥を食べながら、花火が始まるのを待った。
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