69 腐女子と文化祭の話。15
パチ、と不意に目が覚めた。
白い天井。それだけじゃなくて、カーテンもシーツも掛け布団もぜーんぶ白い。
……う、痛った。覚醒してきたら足が痛みだしてきた。
てかえ……、もしかして寝てた? なんで? 暇すぎて?
「はあ……」
寝るくらいなら早く帰れって話だわ。
帰るんならさ、兄さんたちに近くで待っててもらえば良かったよね。私の自転車押してもらって、私はバスで帰る。これで解決だった。
うん、どうしようか。どうやって帰れば良いんだろうか。とりあえず兄さんに連絡しようかな……。いや待て。自分ではよ帰れって言っといてそれは……。
コンコン
ん? 誰だ? 今のってドアをノックする音だったよね。
も、もしや……先生、ですか…………? もしかして、私が無断で使ってるのを聞き及んで……?! もう四時過ぎたから帰れって言いに来たとか?! え、待ってそういえば今何時なんだろ。
「藤咲いる?」
……。うわ、一気に力抜けたわ。無駄に緊張させんでくれ。
「いるよー!」
ガラガラと扉が閉じる音がした後、部屋に小さく足音が響く。
ん? 私今寝起きだな? 人様に見せられる顔面してるかな。
「ここか? 入るぞ」
カーテン閉めてるからどこにいるかは一目瞭然。だがしかし、彼には常識が兼ね備えられているのだ。
「どうぞ」
カーテンが開き、初めて声の主を視認する。うん、やっぱ瀧田くんだった。まあこれで瀧田くんじゃなかったら色々ヤバいけどね! 気まずすぎるよね!
「はい、これ」
そ、その袋は!
「え! 良いの!? ……あれ、焼き鳥…………?」
「うん。三時半前に買ったから冷めてるけど」
「全然! てか残ってたんだね」
三時半には全部の店が閉じないとだから、売れ残ってると大声での集客が始まるんだ。それが必死すぎてみんな協力したくなるから、その時間だけめちゃくちゃ大繁盛! とかもあるんだよ。
でも焼き鳥って普通に人気だから、売れ残ることあんまりなくない?
「……去年の同クラのやつから、まだ受け取ってなかった食券もらったり、とか」
「うわあ、それ権力者って感じするね」
「いや、金は払ったぞ」
「ちが、そういう意味じゃ……。何円だった?」
通じなさそうだから諦めましたとさ。
私は枕の横に置いてある、ミニバッグに手を伸ばす。……が、止められた。
なんだよ。財布が取れないじゃないか。……まさか、後で請求しようと……? 利子付きで……?!
「金は良いって。俺のおごり」
と、当たり前にそんなせこいことを言ってくるわけはなく…………え?
「お、おごり? それは申し訳ないよ」
「俺も食べるから割り勘な」とかを予想していたわけです。それが、……え、おごり? 十本ぜーんぶ私が食べて良いと言うのですか?
「いーから。こういう時は素直にもらっとけよ」
「……どうしたんだよ瀧田氏。今日はなんかいつも以上にキザじゃないか?」
「おい、心の声漏れてるぞ。……ま、待て。俺、いつもキザなのか…………?」
おっとまずい。彼の言う通り、心の声をそのまま出してしまったようだ。
「あ、ああ、違くてですね。あの、はい、瀧田くんの気遣いがいっつもスマートなんでね、そういうことです」
「あっそ……」
瀧田くん、ちょっと絶望してる……?
いやほんとごめん。マジでごめん。漏れ出ちゃっただけなの。言おうとは思ってなかったんだよ。
「……え、瀧田くんが来たってことは、片付け終了した……?」
うわ、申し訳なさすぎる! ……いや、むしろ足手まといになるような? もしかして、結果オーライ?
「そんなのとっくだけど」
「とっく?」
それはどういう? もう体育館に移動する時間ってこと?
?! 待って! 今スマホで確認したら、もう四時半過ぎてるんですが?! 時間経過はやすぎ! え、私、何してた? ……寝てたわ!
いや、マジで何やってんの瑞穂! はよ帰れ!
「瀧田くん! ヤバいよ時間! はやく体育館行きな! 今ならまだ間に合うから!」
普通に後夜祭行きたいよね?! てかそれより先生にバレてないこの状況、本当はおかしすぎるからね?! しかもそのうちというかすぐバレるからヤバいって! 私が怒られるのは正当だけど、瀧田くんが巻き込まれたら私、罪悪感で死ぬ!
「え、行かないけど」
「え?! なんで?!」
何しれっととんでもないこと言ってやがるんだ?
瀧田氏と後夜祭を楽しみたい人、一緒に花火見たい人などなど、そんなの探さなくてもゴロゴロ見つかるのに!
……まずいよな。うん、絶対ヤバい。
多分、古池は奏音と行ってるよね? てことはそれだけでめちゃくちゃざわついてるはず……。その上瀧田くんも見当たらないってなったら、……みんな集中できないよ! 体育館中キョロキョロしちゃうって! 演者さん可哀想だよ!
「……瀧田くん、やっぱ行った方が」
「それより藤咲はどうすんの? 帰る?」
「え? 私? あー、うん。帰る予定だったけど……。なんで聞く?」
お、おい、ジト目で見ないでくれ。
「本当は行きたいんじゃないの?」
……やっぱ瀧田くんに嘘は無理だよなあ。あがくだけムダ、というやつである。
「いやまあ、そうだね。行きたいよ。花火も見たかったなあー!」
でも帰りたくないってほどでもないんだよ。みんなが楽しんでくれれば良いからさ! 一人で寂しく見るくらいなら帰ります(敬礼)!
「……」
おおん? なんだよ顔を背けて。正直に言っただけじゃないか。なんか気に障ることでもあった……?
「!」
うおお、なんだよ。
瀧田くんが意を決したようにこっちを向いたから、びっくりしちゃった。
「じゃあ、特等席に行こう」
でね、ちょっとだけつらそうにこう言ったんだよね。
どうしたの? 『本当は教えたくなかったけど……!』とかそういう感じ?
てか待って。
「……特等席?」
「そ。特等席」
「?」
後夜祭の特等席、ってことだよね? ……え、どういうこと? そんなの公式的にはないよね? いまいち言葉の全容が掴めないんですが。
「じゃ、そういうことだから。藤咲、俺におぶられろ」
「えっ」
いやいや! 話の繋がりが、……繋がりはあるか。歩けんもんな、私。
「ちょ、ちょっと待て。まだなにも言ってないんですけども」
了承した覚えはないぞ。なのにその姿勢は早くないか。お誘い、お気遣いともに有り難いんだが、瀧田くんの上には乗りとうない。
「はやく。階段上れないだろ?」
「え、階段上るとこなの? いいよ帰るよ。瀧田くん、私のことはマジで気にしなくて良いから、後夜祭行ってきな?」
「お前が帰るんなら、俺も帰るけど」
「え? なんで?」
全くもって意味不明である。なぜ私に委ねるのだ。
「なんで……って。…………良いから、早く」
……圧がすごい。
「わ、分かった! 分かったから!」
とりあえず行ってやろうではないか。
でもな。
「でも、瀧田くんの上には乗れん! 自力で歩く!」
あの、うん。体重がね!? 私、絶対重いんで! 乗りたくない! いやだ!
私はミニバッグを掴んで、ベッドから降りる。
「おい!」
「そんな心配せんでええんやで。肩だけ貸してくれ。あ、ごめんスマホ取ってくれる?」
「……ん」
肩だけなら全体重じゃないからよ、いくらか安心できるのさ。
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