64 腐女子と文化祭の話。10
知らない女の人の声が聞こえてきた。真上から。
明らかに私に話しかけてるよね?
……頼む。人であってくれ。
「えっと……」
恐る恐る顔を上げれば、そこには美人さんだけどメイクの濃い、多分高校生がいた。
……誰ー? 私服だから、どういう人なのか少しも判断できないぞ。
……てかここ入っちゃダメなとこですよ。私が言えたことじゃないかもしれませんがね。
ありゃ、それにしても、なんかもったいなくないか? いや、メイクは人の好みなのはそうだけど、もっと薄い方が素材が引き立ちそうなんだよなあ。あ、や、今でも十分美人さんであることには変わりないけども。
「あんた、誰?」
いやいや、こっちが聞きたい。礼儀としては、あなたが先に名乗る方が良いと思いますけど……。なんて考える私、もしかして心が狭いのか……?
「……」
「黙ってないで、何とか言ったらどうなの?」
こ、怖いよ……。なんでそんな喧嘩腰なの……? 私なんにも悪いことしてませんよね……?
……して、るな。禁止区域に入ってるな。
「ちょっと!」
ひえええ! 胸ぐら掴まれるのなんて、人生初です!
……あれ、すぐ離された。私を立たせたかっただけなんか? …………立ったら足痛い! なんで?! 悪化したか?!
あ、私より背が高いんですね。
……髪の毛も長いし染めてるのにトゥルントゥルンだ。この人素材だけじゃなくて努力も惜しまない人種なんだ。って、何考えてんだ私。
「ちょっと、あんた何考えてんの?」
私も思ってたところです……。
「え、あ、いや……」
しかし、こんなことをバカ正直に言ったらキモがられるだけである。口が裂けても言えませんな。
「……ああもう!」
やべえ! ぶちギレられる!
「あんたは優弥の何なのって聞いてんでしょ!?」
…………ここは少女マンガかよ!
てかそんな質問、今初めて聞きましたが!
こほん。それより、あなたは黒木さんのお連れ様でしたか。なるほど、そういうことだったのですね。
黒木さんあなた嘘付きましたね? 兄さんと黒木さんとこの方の三人で来た、ということですよね。
あの、フレンドさん(※確証はない)。何を勘違いしてるのか知りませんけど、私と黒木さんはですね。あなたが思ってるような関係ではないのは確かです。
……もしかして私、ここまでこの人につけられてた説、あるよな…………?
「私は黒木さんとはたに…………知り合いです」
他人とか言ったらぶっ殺されそう。
「知り合いなわけないでしょ! あんな優弥見たことないんだけど!」
あんな優弥ってどんな優弥なんだ……?
「ええー……。そんなこと言われましても、知り合いは知り合いですので……」
「本当のこと言いなさいよ!」
ほ、本当のこと? 全て本当なんだけどな……。
あ、これは言ってない。
「私の兄が黒木さんと仲が良くてですね、それで知り合っただけです」
「何言ってんの? あんたに似た優弥の友達なんていないけど」
まあ確かに似てないけども……。
「いえ、それが……。私の兄は、藤咲涼平でして……」
「はあ?」
「私、瑞穂と申します。藤咲瑞穂です。聞いたことありませんか?」
個人情報を見知らぬ人に開示せねばならぬとは……。
「……あ、あるけど! あんたが本当にその妹本人かは分からないじゃない!」
えー! そんなこと言わないでくださいよ!
てか! 黒木さん早くこっちに来てくれ! それで誤解を解いてくれー!
「ねえちょっと、私真剣に話してんだけど」
「私もいたって真剣に話してます」
どうすれば伝わるんだ! 黒木さん早く来んかい(怒)!
……あ、黒木さんが戻ってこないなら、こっちが黒木さんのとこに行けば良いのでは?
「あの、あなたはとっても美人です。それに比べて私はこんなにも不細工です。なのに、黒木さんが私を選ぶと思いますか? ですから、あなたが危惧していることが起きるなんてあり得ません。私に構ってないで黒木さんを探した方が」
「うるさい!」
えっと、……なんか地雷踏んだ……?
どうしよう、この人泣き始めちゃった。
「そーよ! あんたなんてめちゃくちゃブスなのに!」
おお、なんだ、急に悪口大会始まったな。まあ私が始めたことなんですけども……。
でも! 自分で分かってることだから傷をえぐらないでくれ……!
「なんで……! なんでなの!」
女性は感情の高ぶりに合わせて、細い腕を上に持ち上げた。
え、これ殴られるんじゃ……。
いくら力が弱そうな人からのビンタでも、怖いもんは怖い!
私は咄嗟に目をつぶって、腕で頭を守る防御体勢を取った。
うっ、そろそろ来る……!?
……あれ?
全然来ない。
ていうか私、誰かに抱き締められてないか?
ははーん、黒木さん、間に合ったんですね。ありがとうございます。まだ和解はしていませんがね。気安く私に触れたことに関しては、お咎めなしということにしましょう。
すっかり安心して、女性の方を見ると、なんと!
涼平兄さんが、女性の腕を掴んでいるではありませんか! ありがとう兄さん!
「瑞穂ちゃん! ……はあ、良かった…………」
誰かが階段を駆け足で下りてきてると思ったら、黒木さんが途中で顔を覗かせた。そして階段に座り込んだのだろう、見えなくなった。
黒木さんあんたねえ! 良かったじゃないでしょうが!誰のせいでこんなこと、に…………ん?
あれ? 黒木さんが、なんでそこに?
えー? なんでー?
……ならば、一体ここは誰の腕の中なんでしょうか?!
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