59 腐女子と文化祭の話。5
「藤咲、何食べたい?」
その質問、夏祭りを思い出してしまいます。
「ああ藍沢くんはある?」
これも言ったことあるような。
「俺は藤咲に聞いてるんだよ」
藍沢くんは目を細める。どんな表情でも美しいでございますね。
「え、じゃあ……小籠包で」
「分かった!」
これもデジャブだ……。私が食べたいのリクエストしちゃうやつ。
「小籠包は、……あ、外みたいだね」
先日、ホームルームにて配られたパンフレット的なものを見て、藍沢くんは言った。
そうだった。火を使う場合は中庭って決まりだった。
「そ、そっか。じゃあ中のにする?」
「え! なんで? 藤咲小籠包食べたいんでしょ?」
「う、うん。ありがとう……」
藍沢くんの優しさに触れ感動しつつ、中庭まで歩きます。……もちろん、二人で。
まずい。非常にまずい。
視線が突き刺さってくる。特に女子から。もちろん男子のも痛い。
『誰この女』『なんで健人くんと一緒に歩いてんの?』って視線なんです。正直つらいっす。
勘違いなんですー! って大声で言い回りたいけど、推しの前でそんな奇行はできないのでね。
そうだよね、ここは学校ですもんね。さっき、文化祭だからって了承した私をぶん殴りたい。いや、了承はしてないか。
ならいっそ逃げようか。……学校に逃げ場はないな。
夏祭りは多分、というか絶対、絶ッッ対運が良かったんだ。会った知り合いが黒木さんだけだったから。結構近めの会場だったのに、学校の人とすれ違わないなんて、ほんとに奇跡だったんだよ。
「お、結構並んでる」
「そうだね」
外に出てみてびっくり。行列である。しかし、きっとうちのクラスのに比べたら短いな。
てかみんなそんなに小籠包食べたいのかい。
小籠包以外に焼きそばと焼き鳥と豚汁があるんだけど、これが一番人気らしい。
ふむ……豚汁も美味しそうだな。食べたい……!
「じゃあ並ぼうか!」
「う、うん! そうだね」
はたして、何分並ぶことになるんだろう。
ああ、早く、この場から去りたいです(泣)。
しかしなあ、一緒にまわるってさ、今日一日ずっとだったりするのでしょうか。それだとオタクの心臓は持ちませんよ! 色んな意味で!
「あ、健人!」
「やっほー」
男子の軍団と挨拶してた。なんの知り合いなんだろ。
「あ、健人くん!」
「おお! 久しぶり!」
今度は女子の軍団だ。
に、睨まないでくれ……!
違う! 決してそんなつもりはないのだああ!
……ほっ。案外すぐ立ち去ってくれた。
「あ、さっきの友達たちは、去年同じクラスだった人なんだ」
「そ、そうなんだ」
なるほど。藍沢くんのことですから、当たり前だと承知の上で申し上げます。去年のクラスメイトとも良いご関係を築いていらっしゃったということですよね。流石です。
「去年のクラスもみんな良いやつで、すごい楽しかったんだ」
「……うん。想像に難くない、ですね」
想像しながら答えましたよ。
その結果、藍沢くんがいたからっていうのもあったんじゃないかと、そう思ったんです。
「ふふ。藤咲、そんなニヤニヤしてどうしたの?」
やべ。オタクが漏れ出てたかも……!
笑われちまったし、このままじゃやっぱ危ない!
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