49 腐女子の夏祭りの話。7
「あと何か食べたいのある?」
チョコバナナを食べ終えると、藍沢くんはそう聞いてきた。私は顔を背けながら答える。
「あああ藍沢くんはありますか?」
いや、もうほんとに死ぬんじゃ? 手を繋いでる状況どない? これで顔なんか見ようものなら即死だよ。
「俺は藤咲に聞いてるんだよ」
「あ、じゃあ、焼き鳥で……」
まだ機嫌悪そうですね……。どうしたんでしょうか。いつもはあんなに優しい笑顔を振り撒いてるのに。
き、聞いてみる……?
「はあ……」
何ッ?! ため息?!
「どうしたんですか?!」
……ん? あ……。うおお! 聞いちまった! ため息ついてたからつい!
「……ちょっと座っても良い?」
「は、はい」
そ、そんなに深刻なことなんだ……。
はたして私が聞いて解決することなのでしょうか……。
お祭りの屋台がある道から、少し逸れたところの土手。
私は推しと座っている。
あ、焼き鳥を買った後です。
こんなことあって良いんですかね? 私絶対に罰当たるよこんなん……。
「藤咲、あのさ……」
「? はい」
顔がめちゃめちゃつらそう! とっても言いづらいことなのか!? なのに私ズケズケと……!
「俺のこと、避けてる……?」
わー、切ない表情グッと来ますなあ……。
って。
「……え?!」
「だって、今日は藤咲とまともに会話できなかったし、目も合わせてくれないし……」
ちょ、ちょっと待ってくれ。
「も、もしかして、今日元気なかったのって…………」
「うん、それ」
ええええ!! ど、どういう!? てか私が元凶か!
確かに友達と会話もろくにできないって寂しいよね。ごめん……。私も瀧田くんと話せなくてちょっとムカムカしてたところだし。
……私、藍沢くんを不快にさせてたんだ。
オタクが推しを傷つけるなどあってはならない! オタクは常に推しの幸せとともにあるべきなのだ! 傷付けるなどもってのほか! 瑞穂、お前はピーーーーだな!
「ご、ごめん! そんなつもりはなくて、ただ今日は藍沢くん見たらヤバいかなって思っただけで」
「え、どういうこと……?」
きょとんとしている藍沢くんを尻目に、私は早口でまくし立てる。
「あの、その、ほら私服だし、きっと……というか絶対かっこいいじゃん? だから、直視したらドキドキしすぎて命日になるというか、だから」
「ちょ! ちょっと、タイム!」
っ! 口! 押さえられてる! これは右手か?!
眼球を動かして右隣を見ると、藍沢くんが私の口を押さえながらうつむいているのが確認できた。推しの体はこっちを向いていて、私には頭頂部が見える状態だ。
推しの頭頂部など見る機会は滅多にない。存分に拝ませてもらおう。私は心の中で合掌した。
「……あ! ごめん!」
藍沢くんは私の口から手をどかすと、今度は左手で自分の顔を覆いながら顔を上げた。
おっとまずい。拝んでいるのがバレるところだった。
「あ、あのさ、藤咲。……俺――」
ま、待ってくれ! 推しがなんでか知らんが赤面してる! 尊すぎるんだが! それを恥じらいながら手で口元を隠す仕草。とてもえっちい!
今日、供給過多すぎない!?
「……藤咲?」
「あ。すみません、何でしたっけ……?」
おい。推しの言葉を聞き逃すなど、さっきから何をやってるんだ私。
いや多分、さっきから推しの供給がありすぎて脳ミソ壊れてるんだと思う。今何話してたとかマジで全く記憶ないし。なんかヤバイこと口走ってないよね? え、待ってすんごい不安になってきた。
「えっと、」
♪(着信音)~~
「あ、すみません。……奏音からだ」
今回はLIME電話ではなく、ちゃんと電話である。
「もしもし?」
『あ、瑞穂。みんなどこにいるの? 誰も出てくれなくて』
柿ピーと透香、今何してんだろ。二人とも電話出れないことある?
……あ、あれか。出ないようにしてたのか。くっ、またしても瑞穂、やっちまいました。
「あ、ごめん。私も今藍ざ……」
?!
これ、まずいのでは? この状況は奏音に疑われるよね?! 『なんで瀧田さんじゃないの?』ってなるよね?!
『瑞穂ー?』
「あー! 何でもない! 今さー、一人でわたあめ並んでんだよねー! だからみんながどこにいるか分かんない! 誰かと連絡ついたら奏音にも言うね!」
『一人? ……瀧田さんは?』
「え、あー、ちょっとトイレに行ってる……かな?」
『そうなんだ。じゃあ、また後で。連絡よろしくね』
「うん! バイバイ」
……よし、戻ろう。奏音たちに遭遇しないように、慎重に戻りましょう。
「藍沢くん、行きましょう」
「え、あ、うん……」
藍沢くん、なんか変? 心ここにあらずっていうのかな。
元気ない感じはなくなったけど……。どうしたんだろう。
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