48 腐女子の夏祭りの話。6
ああ……。推しに黒木さんを見られてしまった。
「藤咲、その人誰?」
そうだよね。こんなチャラい人警戒するに決まってる。
「あー、えっと、し、知り合い……です……」
「ほんとに?」
うん、私とは縁遠そうな人種だもんね! そりゃ疑うよ!
「ほんとです。兄の友達でして……」
「瑞穂、そいつが瀧田?」
ちょっと! 今は藍沢くんに弁明中なんですから黙っててください!
……え? 瀧田って言った? なんでその名前知ってるの?
「ち、違います! 彼は藍沢くんで、瀧田くんは別に存在してます! てかなんで瀧田くんを知ってるんですか?」
「さっき瑞穂が言ったんじゃん」
「わ、私が?」
そんな記憶ないんですけど……。
あ、今気付いたのですが、黒木さんがチョコバナナ持ってる図、なんか面白い。
……ヤンキーがチョコバナナ。うん、……ね。
え、ちょ、ちょっと待った! え、これさ、私の存在を消すじゃん? そしたらさ! 二人の手が繋がってることになるよね! そしたらこのシチュ、BLの一コマっぽくない?!
ヤンキー攻めと圧倒的受け。え、神かもしれん。
なんで私ここにいるの? 薔薇に挟まるなんて切腹もんなんだが?!
「おい、瑞穂」「藤咲?」
「はっ! す、すいません」
こんなときに何を考えてるんだ瑞穂おお!
冷静になれよおお!
「……と、とりあえず、お二人とも手を離していただけませんか?」
両手を広げる。たったこれだけのことでも、長時間だとつらいのだ。それに、両サイドからすんごい力で引っ張られてるし。
「ご、ごめん!」
藍沢くんは離してくれた。優しい……。
おい、黒木さん。離さんかい。
「あ、ちょ!」
「おい!」
黒木さん、引っ張んないで! ほら藍沢くんもびっくりしてますし!
私、呼んでくれればそっち行きますから! チョコバナナ受け取って欲しいんですよね!?
「……はい、これ」
うん、大正解。スマホをしまって、その手で受け取る。
「ありがとうございます!」
うおお、美味しそう!
「……藤咲」
「はい!」
藍沢くんに呼ばれ振り返った。
え……。
藍沢くんのあんな表情見たことない……。完全に怒ってる顔だこれ。
ああ、怒ってる御尊顔もお美しいでございます……なんて今そんな感想言ってる場合じゃない!
早くそっちに行かないと。
「黒木さん、碧くんの件とチョコバナナ、ありがとうございました。では私は友達の方に合流しますので」
「あいつと二人で来たの?」
「いえ。私含め男女七人です。私が連絡しなかったばかりに、手分けして探してくれたみたいで」
「ふーん……」
「では、黒木さんもお連れ様のところへ行ってくださいね。ありがとうございました。また家で」
不機嫌な黒木さんを置いていくのは、少々ためらわれる。しかし、友達が待ってるんでね。申し訳ないが、黒木さんとはバイバイします。
私は藍沢くんの方に駆け寄った。
「すみません、お騒がせしました。さっきも言った通り、黒木さんは兄の友達で」
そう言いながら黒木さんの方をチラ見した。
あれ、もういない……。早すぎんだろ。
「うん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけ。ごめん、怖がらせたよな」
違います。逆ですね。怒ってるのも良いなあ、なんて思ってました。
「いえ。平気です」
藍沢くん微笑んだ。わあ、かっこいい……。ってだから、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだよ。
「行こうか」
……?! な、なんですか?!
なぜまた手を繋ぐんです?!
「……またはぐれたら嫌だから」
なるほど、子供扱いされてますね……。
で、でも、誰かに見られたりしたらまずいです。
というか私がもたない。
というわけで、どうにか手を離そうとしてみてるんだけど、握力強すぎ。さすが運動部といったところでしょうか。
しかも藍沢くん、めちゃめちゃ普通そうなんだよね。
まあ、当たり前か。
……私はこんなにも、心臓が死にそうだというのに。
いやもう死んでるのかもしれん……。
お読みいただきありがとうございます!




