44 腐女子の夏祭りの話。2
「何話してたんだよ」
藍沢くん、なんかちょっと機嫌悪そうな声色だ……。今日、何か嫌なことがあったけど来てくれた、とかなのかな……。
「別に」
そ、そんな素っ気なく返したら喧嘩になりそうなんですけど?! 柿ピー、ほんのちょっとだけオネエ出してこうよ!
「ま、まあまあ。落ち着けよ。……回ろうぜ」
古池、ナイス。鶴の一声ですな。
とりあえずみんなの足が動き始める。
女子三人が前を歩いて、男子が後ろからついてくる構図です。
わ、チョコバナナ。焼きそばも美味しそう。あ、たこ焼きと焼き鳥も食べたいんだった。……わたあめも良いなあ。
「ねえ、瑞穂。さっき、『なんでこんなにかわいいの?!』って言われたんでしょ?」
奏音が私と透香にだけ聞こえるように耳打ちしてきた。
「あ、うん」
「柿本くんって、知れば知るほどギャップすごいね」
ギャップという言葉で済ませて良いのかは疑問である。
「瑞穂が褒められると嬉しいね」
「そうね、努力が認められたって感じ」
そ、そうなんすか。でもね、柿ピーはそう言ってくれたけど、瀧田くんは固まったよ? あとで何言われるか……。怖すぎる。
「あ、私ポテト食べたい」
奏音さん食べたいの見つけたらしい。私たちが足を止めると、後ろから聞こえていた足音も止まった。
あ、お店ちょっと混んでる。なるほど、人気店なんだな。…………わあ、美味しそう。時間はかかりそうだけど、食べたいのは食べた方が絶対良いよね。
「うん、食べな」
「美味しそうだね! あ、……奏音が並んでる間さ、他のとこ行ってきても良い?」
何を隠そう、私には良い考えがあるのだ!
「うん、ここ混んでるもんね」
「ありがとう!」
よし、舞台は整った。
「ねえ、ここ並んで良い?」
振り向いて、男子群に許可を取る。もちろん、藍沢くんを見てはならない。
「うん」「良いよ」「全然良いよ」
……なんだよ、瀧田くんだけ無視? 素っ気ないな。
奏音はこれらの声を聞いて、列にちょこちょこ走っていった。
「あ、待って江角さん! 俺も並ぶ!」
「うん!」
古池は、奏音の元へと走っていった。
よし、よくやった! 奏音のこと頼んだぞ。
その後ろ姿を見ながら、透香が顔を寄せてきた。
「今日でとりあえず名前呼びにはなってほしいよね」
「そうだね」
そして、透香はチラッと男子の方を見て、ため息をついた。急にどうしたんや透香さん。
「瑞穂さ、今日藍沢くんのこと見た?」
「え、チラ見もしてない……」
「あー、だからか」
「え、なに……?」
一人で納得してないで教えてよ。
「なんでも。……推しの私服気にならないの?」
「気になるけど、私の命日が今日って嫌じゃん?」
ふふふ、とおしとやかに笑われた。
この笑いは多分だけど、『うん、確かに瑞穂死んじゃうかもね』の笑いだな。
「じゃあ、行こう」
柿ピーはそう言うと、私と透香の間に入ってきた。
「え、……え?」
そして、そのまま二人で歩き出してしまった。何事?
なんで柿ピー、私の居場所を奪っていった?
状況把握が出来なさすぎて、しばらく突っ立ってた。
「……藤咲どうしたの?」
「……藤咲、早く」
藍沢くんと瀧田くんの声でハッとした。
私を追い越してたけど、私が来なさすぎて待っててくれたらしい。
「ごめん!」
なお、藍沢くんは見ていない。見てはいけない。
私は一人、最後列を行った。
「松井さん、運良いね」
「でしょ?」
透香と柿ピーが穏やかに会話をしている。
私たちはくじ引きの屋台に来ていた。
透香は豪運を発揮し、一等の花火セットを当てていた。
一方、私は光るボール。透香がせっかく盛り上げてくれた雰囲気を、一挙に台無しにした戦犯がここにいます。
「瑞穂、落ち込まないで」
柿ピーが慰めに来てくれた。
「だって、空気が一気に……」
「違うよ。面白すぎて笑いたかったけど、瑞穂が落ち込んでるから笑うに笑えなくて」
それ本当? それなら私めちゃくちゃ元気になるよ? てか笑ってくれた方が救いではあるんだが?
「次はどうする?」
と言う藍沢くんの声を聞きつつ、私は光るボールを見つめていた。
「飲み物ほしいな」
……瀧田氏、しゃべれるなら私ともしゃべってくれい。
「自販機? 屋台?」
柿ピーが聞けば、瀧田くんはこう答えた。
「できれば自販機。でも先に屋台で見つかればそっちで良い」
「じゃあ行こうか」
歩き始めたのは良いけど、やっぱ今日雰囲気良くないんだよね。瀧田くんは私と一向にしゃべってくれないし、藍沢くんもいつもより笑顔が少ない……気がする。見てないから分からんけども。
どうしたんだろ。やっぱり初っぱなにあったあれが原因……? 柿ピー、何してくれてんだよお。
いや、あれか? 瀧田くんは先日のあれが原因なのか? でも私、忘れるって言ったじゃん。ちゃんと忘れてるつもりだったんですけども。
しばらくして。
相も変わらず、最後尾を一人歩いております。
んお。なんや、この感覚は。
ワンピースの裾を引っ張られているこの感覚は……!
まさか、痴漢!? ……なわけないか。
「ママぁ……!」
ん? こ、これは……! もしや迷子の幼子に、母親だと勘違いされている!?
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