42 腐女子の夏休みのある日の話。
午前十時。自室のベッドの上。
あの時からずいぶんと増えた薄い本を積み上げ、それを読みながらゴロゴロしていた。
だが、今は電子書籍を読み漁っているところです。新たに開拓してます。
『古池は試合とかないの?』
『あるけど、ベンチだから見に来ないで』
『あーね、了解』
これは数日前のLIMEである。
確か試合は一昨日だったらしいが、断られたので断念した。奏音連れて行ってやろうと思ったんだけどな。直前で怪我してベンチになったらしい。古池クオリティである。頑張って治せ。
『男バレの試合●日にあるけど行ってくれば? 俊臣とか連れて』
『そんな目立つことできんよ』
というやり取りもしたので、今日は男バレの試合だということも知っている。だが試合を見に行くとか、メッセージを送るとか、そういうアクションは起こしていない。
いや正しくは、起こせない、です。
だって緊張しちゃうんだもん! 書いては消し、書いては消し……。昨日これをめちゃくちゃ繰り返したんだから!
♪(LIMEの通知音)~
「ん?」
ポップアップを見れば、『藍沢 健人』の文字。
毎回焦る。そして、動悸も毎回起こす。
個人チャットを開き、送られたメッセージを読んだ。
『おはよう! 今から試合なんだー』
そして、写真も添付されていた。推しと瀧田くんが、ユニフォーム姿で柿ピーを取り囲んでいる。
うお! これはさらに動悸発生しますね! 薔薇が咲き誇ってるわ!
柿ピー見に行ったんだ。古池はいないけど、部活あるのかな。
私は『そうなんだ! 頑張って(p^-^)p 応援してるよー!』と、返信。
最近、推しからちょくちょくLIMEが来るようになった。
私は公式LIMEから送られているものなのだと、そう思って返信をさせていただいてます。
私のLIMEが推しに登録されたのは、あのコンクール打ち上げ当日の電話事件の後。
『藍沢です! よろしく! 俊臣から教えてもらった!』
これが送られてきた時、私は何が起こったのか分からなすぎて暴れてた。
『よろしく!』
既読を付けて、この一言を返信するまでに小一時間かかってしまったのだった。
イソスタのDMだと気付いてくれない、と不快に思わせてしまったのだろう。わざわざ登録してもらうなんて、申し訳ない。
♪(LIMEの通知音)~
午後十二時半。お昼を食べていると、またまた通知音がなった。
今度は柿ピーだ。何事?
『瑞穂ちゃん来なかったの?』
『予定があってね』
ごめんね、嘘です。普通に勇気がなくて行かなかっただけです。
でもこれも人間関係を円滑に保つコツ、だよね……!
いや、はい。……偉そうに言ってごめんなさい…………。
『なんで健人がLIMEしたと思ってんだか』
『え、報告でしょ? コンクールでメッセージくれたし、私も送れるきっかけになったから、ありがとうございますって感じです』
『そうですか』
え、冷た……。
『試合終わったの?』
『ええ。負けちゃった。最後に伊織がサーブをネットにかけちゃって……。遠くからでも落ち込んでるの分かるのよ。見てるこっちまでつらいわ……』
『そうなんだ……』
『伊織、本当に上手でいっぱい点も取ってたのに……。ミスしたのもあの一点だけよ? それだけでこんな……』
瀧田くんがミスしてるとこも、落ち込んでるとこも、あんまり想像つかないかも……。
でも、文面で色々伝わってきて……。私までつらくなってきた。実際に見てもないのに。
『まあそういうことだから……。また部活でね』
『うん……。またね』
「恭平兄さーん! コンビニ行ってくるー!」
夜になって、無性にあたりめが食べたくなった。
さっきまで、やけオレンジジュースしてたら、お供が欲しくなってきてね……あはは。
涼平兄さんとか黒木さんたちがいれば頼んでいるところだが、あいにく今日は恭平兄さんしかいない。
「大丈夫か? 俺が行ってくるよ」
「へーきへーき! コンビニなんてすぐそこにあるじゃん」
兄さんの手を煩わせるわけにはいかない。
「……分かった。すぐ帰ってくるんだぞ」
「はーい。行ってきまーす」
お読みいただきありがとうございます!




