34 腐女子が推しと友達になれる世界線の話。2
しばしの沈黙のあと、最初に口を開いたのは私である。
「あ、ねえ古池。あんたはコンクール見に来るの?」
「ん? 俺?」
「え、はい」
「なんで?」
なんでって、理由は一つしかないだろう。
「え、吹いてる姿見に来るかなーって思ったから」
「……ああ。それって俺も見に行けんの?」
行けたら行くんか? まあ古池の事だから来そうではある。
「うん、誰でも行ける。千円かかるけど」
「……部活と被ってなければ行こうかな」
わお、ホントに来そうじゃん。
「本番は七月二十●日だよ。あと楽器はテナーサックスね」
「テナー? ってなに」
「ああ、それはな。ちょっとデカ」
「ストップで……!」
え……。藍沢くん控えめに止めてきた……。かわいい……!
「どうしましたか」
「今度は健人かよ」
私の推しは、言い出しづらそうに、言った。
「えっ、と。もしかして、二人って付き合ってたり」
「しません」「しねーよ」
絶対ないです。推しのすること全肯定の私ですが、こればっかりはいただけませんね。
「そ、そっか。じゃあめちゃくちゃ仲が良いんだね」
「あー、古池は私を見に来るんじゃなくて――」
「藤咲待っ」
古池の制止が入ったけど、もう口が動いてて止められなかった。
「――好きな人を見に来るんです」
「…………へっ?」
藍沢くん、開いた口が塞がらないって感じなんだけど、どういうこと?
え、もしかして……。
「颯って、好きな人いんの……?」
やっぱり! なあんで言ってないのよ古池!
……ってここは逆ギレじゃないでしょ。私が悪いやつやろ。
「い、言ってなかった……?」
私の問いかけに古池は、
「……うん…………」
と答えた。そうか……。ホントにごめん。
この状況、私たち腐女子三人にもあったな。デジャブだわ。
「ごめん……」
「いや、言ってなかったのは俺だし……」
「え、待って。反省会してないで早く教えてよ」
お通夜状態の私たちに対し、藍沢くんは目を輝かせていた。ま、まぶしい……!
「うん、教える。言おう言おうとは思ってたから。ごめんな、言ってなくて」
「良いよ、こういうのはタイミングだろ?」
わあ、天使がおるー……。
「……実は」
「はい、じゃー発表終わり」
え? タイミング悪すぎやろ。先生なに考えてんだよお!
「このプリント回収終わったら自由時間で良いぞ」
はい神。……我ながら手のひらくるっくるだな。
みんなプリント書き終わってたんで、提出してお話し再開!
「よし、話して」
「おう。実は――」
「えー! 青春じゃん! なにその出会い!」
「で、藤咲がその子と友達だから、協力してもらってる」
「なるほどな。心強い味方がいて良かったな颯」
これは私が褒められてると思って良いっすか? 思うのは勝手ですよね?
「そうだな」
「俺にも協力してほしいことがあれば何でも言って」
この優しさよ。もうホントに推してて良かった……!
「藤咲もだよ? なんか困ったことあったら言ってね」
おっと、急に私ですか。不意打ちすぎて死ぬかと思いました。いや最早死んでるのかも。
視線がこっちに向くだけで息できないのに、そんなこと言われたら昇天してまう。
「え、私なんて気にせんで良いっすよ。逆に私が助けます」
これがオタクの本望ですわ。
……腐女子としては、瀧田くんに頼ってもらいたいがな。瀧田×藍沢が最推しなんで。
「……ははは! 初めて言われたよ。じゃあ、お互いに助け合うってことで!」
「……分かりました…………」
「なんか不服そうじゃない? 良いじゃん。もう友達だろ?」
…………えっ。空耳? 私の脳がバグったのかな?
「とも、だち……?」
私の今の言い方、なんか地球外生命体も言ってそうだよね。
てかあり得るんですか。オタクと推しって友達になって良いんすか。マナー違反じゃないですか。
「え……もしかして、藤咲はそう思ってなかった……?」
そそそそんな悲しい顔しないでえ! 私が推しを悲しませたなんて耐えられないからあ!
「……いや! そんなこと!」
「そっか! 良かった!」
笑顔がまぶしい!!
……推し本人もこう言ってるし、きっともう友達なんだろう(洗脳済み)。
「友達のなり方子供かよ……」
という古池のツッコミは、誰の耳にも届かなかった。
「あ、ねえねえ、さっき藤咲が発表したアニメ、なんだっけ」
「……ソードアート・○ンライン?」
「そうそうそれ! それって漫画あるの?」
「あるにはあります……」
うちにも漫画はある。だが私は小説を推奨したい。
だが問題はそこではない。
「面白そうだから読みたくなってさ。探してみようかな」
「じゃあ藤咲に借りれば? 前俺に勧めてきたとき漫画もあるからーって言ってただろ」
おうおうおう、古池今すぐその口を閉じろ!
「マジか! 藤咲!」
期待の眼差しで見られてる。推しに言われたら、拒否権なんて破り捨てないとね……。
「良いですよ。月曜日に持ってきます」
「ほんと?! ありがとう!」
推しの笑顔が見れるなら、なんだってしようと決めた。
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