31 腐女子は悲しんでる暇無かった話。
「今日も推しが尊すぎて死ねるんですが!?」
と、私、瑞穂は息をするように何度も言っています。一日で何回言ったのか、覚えていません。これは無意識の領域です。透香さん、私、しつこいでしょうか。
「ハイハイ、尊い尊い」
うん、ごめん。自重します。
でも解禁後の禁断症状がすごいんよ。
月曜日、六時間目の科目が終わり、次はLHR。名前は違えど、七時間目に変わりない。しっかり五十分もあるんだからなあ!
まあ部活の時間短くなるから良い……くない! 全然良くないよ!
え? どうしたのって?
なんか透香がめっちゃこっち見てくるんだもん! 絶対考え見透かされてる!
……コンクール曲練習しないといけないからね、部活の時間潰してくる七時間目なんか反対だー…………良し、透香さんスマホ見始めたわ。
吹部じゃないのになんでそんな目で見てくんのよ……。部長だった名残?
「……あ、ねえねえ透香さん。今日LHRで席替えってマジ?」
朝、担任がこんなことを言っていたような、言っていないような……。と今思い出した。朝は眠いからね、仕方ないよね。
「マジ」
「えーん!」
そんなー!
席替えをしたくない理由は明白。
一番後ろの席を手放したくないのだ。……というのは、実は理由の三十パーセントほど。後の七十パーセントは、
「もう見れなくなっちゃうじゃん!」
という理由。
今、すごく推しを拝みやすい位置なんだよお!
席替えしちまって簡単には見れないとかなったら悲しいだろお!
など文句は尽きない。
「瑞穂どーしたの!」
「席替えやなの?」
「私早くやりたい! 瑞穂の席が良いなあ」
「やー、私もまだやらなくて良いかな」
クラスのいつメン大集合。皆それぞれ意見があって然るべき、だね。
「はーい、座れー」
「えー、マジか……」
始めるにはまだ二分も早いのに。
担任が言うからには従うしかない。
本音は、『ほんとにやだー! やりたくない! ミズホちゃんとっても悲しい!』である。
「じゃー早いけど始めるぞー。……第二回席替え! 開幕!」
拍手! ……担任だけ! 可哀想だからみんなもやったげてよ! 私はやらないけど!
「今日は出席番号順にくじ引けー」
お願い、推しを眺められる席でありますように!
とは願ったけどね?
おかしいね、なんでこうなった?
ほら、透香も瀧田くんもニヤニヤしてる。
てかニヤニヤすんな。私は遠くからで全然良い人種なの!
「始めましてが多いだろうし、まず隣と挨拶しろー」
またしても一番後ろではある。うん、それは嬉しい。
そして窓際。ちょっと暑いけど後ろだし、まあ良いか。
「古池颯です。っていらねー」
「うん、自己紹介もはや意味なし」
隣も友達。とても良い。
知っての通り、古池とは一年生のときも同じクラスだった。今では恋愛相談も受ける仲である。
「じゃあ次、前後」
ここからが問題だ。
前に座る人が振り返って、言った。
「藍沢健人です」
わー、推しと対面するってこんな感じなんですね。二次元しか推したことなかったから新鮮です。
「藤咲瑞穂です。お願いいたします」
待って自然だった? いけてる? 大丈夫か?
「うん、よろしく。良いなあ一番後ろ」
「あ、ね。嬉しい。藍沢くんおしかったね」
何言ってんだ! 今のじゃ完全に煽りじゃねーか!!
「あは、そうだね。おしかった」
え、優しい……。しかも至近距離の笑顔、破壊力えぐい……。
じゃなくて瑞穂! 藍沢くんに気を遣わせてんじゃないよ!
「はい、じゃーこっち向けー」
先生、私は今あなたに、感謝と怨念が入り交じった視線を向けています。
もっと正面から顔眺めてたい、これ以上墓穴掘りたくない。この二つが私の中で戦っているからです。
これから私、生きていけるんでしょうか。
ああ、なんか。もう、すでに。
席替えしたいかも。
私はここから一週間、発作が止まらなかったとさ。
お読みいただきありがとうございます!




