16 腐女子は驚いた話。
「ただいまー」
「おかえりー」
一人分の声しか聞こえてこない。
今日は涼平兄さんいないのかな?
手を洗って、自室に荷物を置いて、リビングへ行った。
「今日のご飯はな、に……?」
ドアを開けながら言った。けど、不思議すぎてどんどん音量ちっさくなっていった。
「やっほ、瑞穂ちゃん」
「どうも……」
ソファーに黒木さんがいた。
もっと言うと、家に黒木さんだけいる、だ。なんで? またですか?
ていうか、恭平兄さんの声と黒木さんの声、全然違うのに。なんで気付かなかったんや。
黒木さんはいじっていたスマホを机の上に置き、私との会話に徹するような姿勢を見せた。
良いって。スマホいじってて良いですよ。
「そんな怪しまないでよ。俺も瑞穂ちゃんの兄貴みたいなもんでしょ」
何言ってんだ。そんな仲良くはないでしょ。
あと! デコピンの件まだ恨んでますから!
「あはは、やめてくださいよ」
「えー。つれないなあ」
拗ねた表情になって、訴えかけてくる。
……、イケメンってマジですげえです。なんか肯定しても良い気がしてくる。しないけど。
黒木さん、そのビジュと演技力あれば俳優できるんじゃないですか。
「兄さんたちはどこに?」
「あー、恭平さんは飲み会だって。涼に家のこと頼んでたらしいけど、アイツも急用できて」
「で、黒木さんが涼平兄さんに頼まれたってことですか」
「そうそう」
別に良いのに。私一人で十分家事こなせるって。
恭平さんが心配性なのは分かってたけど、涼平兄さんも大概だよね。
「あ、ねえ今日ちょっと遅くない? 部活ないって聞いてたんだけど」
「えーっと、友達に勉強教えてもらってて……」
「ふーん? 男?」
眼光が鋭い。が、それには屈しないぞ。
事実を言ったら大変なことになる気がするからな。
「私にそんな仲良い男友達いると思います?」
「……確かに」
そんなすぐ納得されるとは。不服を申し立てようか。
いやそんなことより、早くこの男を家から追い出したい。誰もいない状況下では、私が付きっきりで接待しなくちゃいけないじゃん?
あ、今日はマ○カーはしないからな。私はテスト勉強をしたいのだよ。
「黒木さん、私帰ってきたのでもう大丈夫ですよ。お帰りになってください」
「せっかく来てあげたのに?」
「はい。ありがとうございました」
お辞儀をして、両手を玄関へ続くドアに向けた。
「……手料理振る舞おうか?」
「いえ、お構い無く」
「今日俺も家に一人だから寂しいんだよね。坂上たちもバイトだし」
「でしたら彼女さんのところに行ったらどうです?」
「え? 俺彼女いないけど」
「……はい?」
この人何言ってんだ?
だって、涼平兄さんに『今日は黒木さん来てないんだ』って言うと、『女とどっか行った』って返ってくるよ?
黒木さん、なんでそんな驚いた顔してんですか。
私が驚くのが正解でしょ。
「兄さんと遊んでない日は女の人と遊んでるんですよね? 兄さんからそう聞きますけど」
「ああ、それはセ○レだよ。ただヤるだけの人」
「あー……。なるほど……」
おっと。その単語、現実世界で初めて聞きました。やっぱチャラ男はちげえや。
「瑞穂ちゃんは? 彼氏とかいないの?」
「いるわけないですね。仲良い男友達すらいないんですから」
ま、柿ピーがいるんだけどね!
「へー。まあそうだろうね」
おおん? ケンカ売ってんのか?
流石にムカつきますよ。
「え、じゃあセフ」
「やめてください。いないです。うち自称進学校ですしそういうのないです」
あくまで自称。そこまで勉強に特化した学校ではないのだ。勉強も行事も頑張ろうねー、という校風である。
「そういうもん? やっぱ頭良いやつは理性が強いんだな」
「何言ってんですか。黒木さんだって普通に入れるとこですよね? なんで頭良いのに兄さんと同じ高校行ってんだか」
「おー、めちゃくちゃ褒めてくれるじゃん」
「嫌みですよ、イヤミ!」
その後もなんだかんだ黒木さんは居座り続け、手料理も振る舞われてしまった。
出てきたのはチャーハン。結構本格派で驚いた。
普通に、くっそ美味しかった。
いっそ料理人目指しては?
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