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75 腐女子たちが無言になる話。

「かのーん!!」


 昼休み、やっと奏音かのんのところに行くことができた。

 朝はね、歩くの遅すぎて時間内にたどり着けなかったのよ……。手前でチャイムがなっちゃって、左に曲がろうとしてたのを直進に切り替えたんです。おのれ、にっくきチャイム……! 松葉杖を使いこなせるようになるまで待っておれ!


「み、瑞穂みずほ……」


 あ……笑顔が引きつってる……。くっそー古池こいけ。あとで八つ裂きにしてやる。


「今日は私と透香とごはん食べない?」


 私の後ろから、透香さんがすたっと軽い身のこなしでその姿を奏音に見せた。全開のドアの真ん前に立ってます。


 一方、私はというとだな、奏音の席は後ろの方なんでね。そっち側のドアをのぞき込む形で奏音に話しかけてます。向こうからは私の顔しか見えてない状態ね。想像したらキモいな。


「え、うん」


 開きかけていたお弁当をしまってくれた。ありがとう。


「じゃ、行こ」


 奏音が友達に断りを入れこちらに来た。私たちは音楽室を目指して歩こうと思う。


「え!? 瑞穂何その足!」


 ま、当然っすよね。こんなガッチガチに固定されてたら誰だって大声出すわな。


「え、これ? 家で階段踏み外しちまった」


「まあ確かに瑞穂ならやるか……。アンコンは間に合う?」


「もちろんです。二週間後には取れてるはずです。間に合わなくても間に合わせます」


「ん、よろしく」


 アンコンというのは、アンサンブルコンテストの略でして。なんと今年、サックス二年全員で出場することになりました! 拍手!

 いわゆるサックス四重奏だね。これがまた楽しいんよ。練習が練習じゃない、みたいな。いや、ちゃんと練習だよ?! 練習なんだけど、楽し過ぎて練習であること忘れちゃうんだ。……あれ、私何を熱弁してるんだろう。


「音楽室行こ。ちょうどこの階だし」


 透香が先に告げてくれたので、そちらに向かって歩き出す。二人ともスピード落としてくれてる。天使。




 そんなこんなでやっとお話をする体制になれました。お弁当開いてはいるけど、誰も箸を出してないです。食べる気皆無。


「二人はさ、あの話聞きに来たんだよね? 誰から聞いたの? もしかして、……ううん、なんでもない」


「……古池から聞いた。けど、奏音からも聞かせてほしい。つらくなければだけど……」


 言っていいのか迷ったけど、ここは正直に行こうと思う……!


「うん……。あのね、」



 かくかくしかじか、奏音視点でのお話を聞けた。話してくれてありがとうだよ……。


「あの、さ。古池くんは、なんて言ってた……?」


「奏音のこと楽しませてあげられなかったのかな、とか、嫌なことしちゃったかなとか色々考えてた。大反省会してる」


「そんなことない! ただ、私が気付いちゃっただけなの」


「気付いた?」


 透香が言葉の真意を聞いた。


「颯くんは、優しいから。私の誘いにいいよって言ってくれてたんだなって。ほら、友達の友達は無碍にできないでしょ?」


「え?」


 何を言っとるんじゃこの子は。むしろ奏音だったからおっけーしたんやであやつはよォ。


「それに気付いちゃって、悲しくなって、……あと、その子ともあんまり合わなくて」


 それで涙を一筋……っていうところに繋がるわけか。

 だってもうなんか話聞いてるだけでつらかったもん。牽制ばっかりするわ話には入れてくれないわで、私だったら手が出とるかもしらん。瑞穂ちゃんぱーんち! ってな。ま、痛くもかゆくもない打撃ですけども。


「うーん、でもなんか、二人……じゃなくてもいいけど、お互いの気持ち? あ、あれだよ? 今回の件に対しての気持ちね? それは話した方が良さげかもしれない」


「古池くんは話そうって言ってるんだよね?」


「うん。そうやって連絡くれたけど、まだ返信できてなくて……」


「私としては、瑞穂と同じでやっぱり話してほしい。でも、奏音がどうしたいか、でいいと思うの。奏音が傷付いたことには変わりないわけだし」


「うん……」


 私たち、一度もお箸を取り出しませんでした。チャイムが鳴るまで、時間の経過も分からずずっと無言だったんだ。

お読みいただきありがとうございます!

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