番外編28 腐女子は逃げたくなった話。
文化祭二日目。隣には、颯くんがいる。
「奏音、なに食べたい?」
「んー、甘いもの食べたいな」
パンフレットを広げて、私の食べたいものを聞いてくれる。やっぱり、優しい。
「甘いのか……、あ、チュロスとか揚げパンとかあるよ」
「揚げパン? 懐かしいな。学校の給食で出てきたらみんなじゃんけんしてた」
「俺の学校もしてた! あと唐揚げの時とかも」
「ふふ、唐揚げも人気だったよね。あとは、……」
……あ、みんなこっち見てる。
「あ、颯くんだ」
「え、なんか女の子と歩いてる」
颯くん人気なんだなって、改めて実感する。私が隣を歩いていて、いいのかな。
「? 奏音?」
「あ、ううん。揚げパン食べたいな」
「分かった。揚げパンは……、5階か。6組だから向こうから行こう」
「うん!」
そうして歩き始めて、ちょっと経った頃。
「え、颯くん、その子誰?」
すれ違った時、じっとこっちを見てた気がしたんだ。颯くんのお友達だったんだ。
「あ、私、江角です」
「名前なんて聞いてない。しかも私、颯くんに聞いてるんだよね」
強めの語気に、私は何も言えなくなった。
「颯くん、その子だあれ?」
「隣のクラスで、共通の友達がいて仲良くなって、……それで、」
「ああ! じゃあ特に付き合ってるとかではないんだ。良かった!」
よかっ、た……?
それって、この子も颯くんのことが好きってことだよね……?
「……そう、だね。友達……」
颯くんがこちらをチラリと見た。
それは、どういう視線なの、颯くん。
同意してほしいって、ことなのかな。誤解されたくないのかな。
「うん、そう。お友達」
ちゃんと笑顔作れてるよね。大丈夫。
「私たちね~、体育祭の頃から連絡取り合ってるの。それくらい仲良しなんだ~。ね、颯くん!」
そう言って、颯くんに近づいて笑顔を向ける女の子。可愛くて、華奢で、可愛らしい仕草がとっても似合う、そんな子。
「ん? え、うん……?」
この子が私に視線を向けた。冷たい目だった。
これはきっと、忠告。もう近づかないでって、そう言われてる。
「そうなんだ」
でもね、私も颯くんのことが好きなんだよ。
「奏音……?」
ああ、そっか。私、浮かれちゃってたんだ。最近颯くんと一緒にいられる機会がありすぎて、ちょっと勘違いしちゃってた。好きなのは、私だけ。一方通行。
「ねえねえ颯くん。私も一緒に回ってもいい? 私、奏音さん? とも仲良くなりたいんだ! 颯くんのお友達だから絶対仲良くなれるもん! ……奏音さん、いいよね?」
「えっ、と……」
私は、すがるように颯くんを見つめた。
「……俺は、良いんじゃないかなって、思う。こうやって、出会ったわけだし」
……そうだよね。
「うん。一緒に回りましょう。私も、仲良くなりたいです」
そうは言ったものの、やっぱり耐えられなくて。なんて理由つけたかはあんまり記憶がないんだけど、別れた後はなんか、泣いちゃった記憶はある。見られてはなかったと思うけど……。
その後は、後夜祭見る気持ちになれなくて、一人で帰っちゃった。
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