73 腐女子がちょびっとキレる話。1
病院に行ってから二日後。学校に登校した。
あ、違うよ?! サボってたとかじゃないからね!
土日が文化祭だったから、その代休? みたいな感じで火、水曜日が休みだっただけ! その間部活もなし! というわけで、私はずっと寝ていたということなんですよ。……あ、ほら、安静にしてないとだから!
「おはよー!」
私はいつもの友達五人が集まるところへ行き、挨拶を交わす。
みんなさすがだね! きっちり十分前には登校してるんだもん! それに比べて、私はチャイム四分前のギリギリ登校。ま、もっと遅い人もいるけどね!
「「……」」
……えっと、…………何この空気。
「あの……? どうかされました……?」
私のこの質問に、萌々子が答えた。
「いや、それこっちが聞きたいかも」
「え?」
みんなの視線が、私の右足に集中している。
「……あ! こ、これはね!? 月曜日に家で階段踏み外しまして……」
すぐバレた。いやまあそりゃそうか……。
「それで休んでたってこと?」
と、透香さん、ちょっと怒ってる……?
「そ、そうなんです……」
「LIMEしたのに返信ないし、ほんと心配だったんだよー?」
「え? LIME?」
♪(チャイム)~~
うお! ビックリした。もう四分も経ったんか。いや、やっぱ早すぎるような気がせんでもない。
だがしかし、会話は強制終了。みんなそれぞれ席に戻っていく。
朝のHRが終わった。今日は短めだったな。
てか聞いてくれ! 今日の帰りのHRで席替えするんだって!
はい、私瑞穂ちゃん、ちょっと複雑な気持ちです!
今の席楽しいからしなくて良いけど、緊張から解放されるなら……! みたいな! 分かってくれみんな!
「藤咲」
そんなことを考えていたら、複雑な気持ちにさせている張本人がゆっくりとこちらを向いた。
「ど、どうしたの?」
なんか推し様、げっそりしてませんか? 体調を崩されていたのでしょうか。
「足、大丈夫?」
「大丈夫! 月曜日に家でやっちゃってさあ。治ったらちゃんと運動しなきゃだよね、再発防止!」
「何か手伝えることがあったら言って。なんでもするよ」
「ありがとう……! でも大丈夫です! 大半のことはできます!」
きっと! とは言いませんでした。
てかもうさ、本当に優しすぎて何事? って感じなんですけども。
「あとさ、あの……LIME……」
「……ら、LIME?」
なんでみんなLIMEに触れるんだ? 別に何もなかったと思うけどなあ……。
とりあえず、スマホを持ち上げてLIMEアプリを起動してみる。
あ、あれ?
「ご! ごめん! 気付かなくて……!」
日曜日の夜、月曜日の午前と、連絡をいただいていたらしい。マジか。なぜ気付かない……!
てか六人のグループにも心配のLIME来てんじゃん! 五人みんなから来てるし、ホントに何やってんの……。
透香からは個人でも来てるし……。あと柿ピーと古池からも来てるわ。……ん、なんか古池だけ毛色違くね?
私、そんなスマホ触らないからさ、着信音鳴らないと気付かないんだよね……。ロック画面に表示されない設定だし、アイコンもカスタムしちゃってるから……。
いや待て、こんなん言い訳でしかないから! そんなこと考えるなんて最低だよ瑞穂!
はあ。着信音聞き逃したんかな……。……ん?
「あ! これだ! マナーモードになってる!」
無意識にカチッてやっちゃったのかな?! そんな気付かないことある?!
……いやだからって、こんな長い間未読無視って…………。
「ほんとごめん……」
「ううん、大丈夫。気付いてなかっただけ?」
「はい……。でも、これは許されざる行為だと思います……」
本当に申し訳ない……。透香たちもごめんよ……。
「そっか良かった! それなら良いんだ!」
う、うわああ! 突然の笑顔がまぶしすぎる!!
…………え、それなら良いんですか?
あ、よ、良くはなさそうですね……。またお顔が曇り始めました……。
「あとさ、……文化祭、ごめん」
「……え?」
なんで藍沢くんが謝るんですか?! 全面的に私が悪いのに!
「いやいやいや! なんで藍沢くんが謝る?!」
「俺、藤咲と回ってたのに、しかも俺から誘ったのに。ごめん、貴重な文化祭の一日ムダにして」
え! マジでなんで謝るんですか! 逆に私が申し訳ないことをしてしまったというのに!
「……もしかしてだけどさ…………」
「?」
何か言い淀んでいる様子です。大丈夫だよ! 目の前にいるのはあなたの全肯定ファンなのですから!
「……伊織といっs…………いや、なんでもない!」
「なんでもない……、はい! 分かりました」
瀧田くんの名前が出てたけど……。何なのか気になる……。
……が! 推しがなんでもないって言ってるからね! 追求はせん!
「あの、あのですね……」
さすがに私が姿を消した理由は伝えねばならない。
「途中でいなくなった理由……、が、ですね……」
休んでる間に考えとけよ瑞穂! 待ってほんとに浮かばない!
もしほんとのこと言ったら、……ほら、黒木さんの印象は元々良くないし、優しい優しい推し様はめちゃくちゃ責任を感じてしまうだろう。
私の不注意が招いた結果であるのに、だ。いや、筋力不足なのか……?
「うん」
え、ほんとにどうする……? どうしよう……どうしようどうしようどうしよ…………あ!
「……あ、兄が! 兄が急に現れまして!」
「お、お兄さん?」
「そう! 兄が! それでちょっと道案内してて! それで、えっと、そのまま捕まっちゃって……」
藍沢くん、嘘付いてごめんなさい。
兄さん、言い訳に使ってごめん。
「そっか、そうだったんだ。あれから会えなかったし連絡取れなかったからてっきり……。一緒に回ろうって誘ったくせに、他の人と写真とか……」
「いやいや! ほんとに大丈夫です! というか藍沢くんになら別に何されたとしても嫌な気持ちにはならないんで!」
「え?!」
「ということで、ごめん藍沢くん! ちょっとみんなのところ行ってきます!」
「え! あ、うん!」
みんなにもLIMEの件謝らんと!
私は立ち上がり、さっきから……というか朝の会始まる時にはすでに突っ伏していた古池の後ろを通
「うわあ!」
何?! 急に腕掴まれたんだけど何なの?!
……犯人は分かる。ここで掴めるのは古池しかおらん。
「ふ、藤咲……」
「え、え?! どうしたの?!」
「お、おい、颯! その顔……!」
クマえぐっ!! 寝てないんか? 体調悪いんか?
「ちょっと来て……」
「え、う、うん」
「! じゃあ俺もついて」
「健人! 伊織!」
藍沢くんの声を遮り、二人を呼ぶ声が聞こえた。だけど、その声に反応したのはクラス全員だった。もちろん、私も。
そりゃそうだよ。二人を呼ぶなんて、気になるじゃん。
あ、男の人だ。誰なんだろ。
「先輩!」
先輩……。あ! 部活の先輩か!
にしても、今の藍沢くんの喜び具合……可愛かった…………。仲良いんだね……!
「ごめん、俺呼ばれたから……」
「うん! いってらっしゃい!」
「……」
古池は応答なし、ね。マジでどうしたんや。
もしかして古池くん、定番化させようとしてます?
またもやあの階段ですよ。まあ、人来ないから密会にはうってつけだけども。
「俺、どうしたら……」
腕、一生掴まれたままなんだけど。……なんて、そんなこと言える雰囲気ではないな。
「どうしたらって……。何があったの?」
「……俺、」
「うん」
「絶対、」
「うん」
もったいぶらんで早く教えてくれ。
「絶対…………奏音に嫌われた…………!」
「……は?」
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