09 腐女子と次男とその友達の話。
「ただいまー」
……へんじがない。ただの しかばねの ようだ。
うん、ごめん、ふざけたわ。
恭平兄さんいないのかな。どうしたんだろ。
「兄さん?……あ」
「やっほー瑞穂ちゃん」
リビングのドアを開けたら、うちのテレビでSwatchやってる他人がいた。
「黒木さん、どうも」
彼は涼平兄さんの友達である、黒木優弥。やっぱチャラいのって、見た目で分かるよね。
「兄さんたちはどこに行きました?」
「涼はじゃん負けコンビニ。恭平さんは多分まだ帰ってないよ」
恭平兄さんが帰ってない、だと。
まあ大学生だしそういうこともあるか……。
じゃないだろ! なんで大学生なのに、妹に帰りを心配されてるんだ! 大学生なのに普段全然遊びに行かないなんて、恭平兄さんおかしいのでは? 良いんだ、いっぱい遊んで来てくれ!
一方で涼平兄さん。あなたこの家の住人だよね? 家を他人に任せて良いんか?
「……あと、他の方は?」
「坂上と野口はバイト」
坂上さんと野口さんは、これまた涼平兄さんの友人。いつもはその二人も一緒なのだが、今日はいないのか。
それにしても……バイトってあのお二人でもできるんですね。
私の質問に答えると、黒木さんはスマホを触り始めた。
「あ、涼。まだコンビニ?」
兄に電話か。何を言うんだろう。
「え? もう帰ってるとこ? じゃあ戻って追加で弁当とか買ってきて。じゃ、よろしくー」
おお、言い終わってからすごい速さで切りましたね。
電話越し、しかも私は少し離れてんのに、最後のちょろっと、兄さんの『あ"あ"?』って声がここまで聞こえてきたわ。
「涼に瑞穂ちゃんの夕飯も頼んどいたから。帰ってくるまでゆっくりしてな」
黒木さん、私と涼平兄さんより全然家主感ありますね。
「兄さんお帰り」「涼お帰り」
私たちは二人でマ○カーをしながら、涼平兄さんの帰りを待っていた。いや、食料が届けられるのを待っていたと言うべきだな。
「お前ら何やってんだ」
何って、罰ゲームのデコぴん待ちですけど。
私が前髪を持ち上げて渋い顔をしている。黒木さんが手を私の顔の前に出している。これを見て推察できないのか。
黒木さん、これがまたね、ケンカだけでなくゲームも強いんじゃ。
何戦かやって、勝ったのはたったの一回。これがオタクがヤンキーに負ける構図です。悔しいですっ!
「デコ、ぴん、だよっ!」
「いったあ!!」
このヤンキー、手加減と言うものを知らないんでしょうね。明日には、私の額がとんでもないことになっているだろう。
「涼もやる?」
「……おう」
「あっはは! またお前かよ!」
兄さん、弱えええ! 十戦、全ビリだよ。あり得ん。
ま、私も全二位ですけど。
黒木さんのデコぴん、あれでも私には手加減してくれてたみたいなんだよね。兄さんにやったときの音がヤバかったので発覚しました。
私のときはピシッて感じだったのに、兄さんのは、バンッ! みたいな音してた。とにかく怖かったわ。
その後も何戦かして、全部兄さんが最下位だった。
マ○カーで遊び尽くした後、みんなでご飯を食べてから黒木さんは帰っていった。
翌朝。
「昨日はごめんね……って、え! 二人ともおでこどうしたの?!」
夜遅くに帰ったのであろう、恭平兄さんはすでに朝食の支度に取りかかっていた。
私が部屋を出たのと同時に涼平兄さんも部屋から出てきたので、一緒にリビングに来たのだが。それが恭平兄さんの衝撃を増幅させてしまったらしい。
私まだ自分のおでこ見てないんだよね。そんなヤバイのかな……?
兄さんのはかなりグロテスクな感じになってるけど。私はまだ大丈夫な方だよね……?
「昨日、白熱しちゃって」
「何が? もしかしてケンカ?!」
あちゃー、余計に心配させてしまった。
……デコぴんって、暴力の一種ではあるのかな。
「いや、……マ◯カー」
え? 今の涼平兄さんだよね? 声ちっさ。
「……え?」
ほら、恭平兄さん聞こえてないよ。
「だから! マ○カーだって!」
「いや、普通マ○カーでそんなんにならないだろ!」
そりゃそうだ!
「恭平兄さん、これはビリっけつに贈られる、罰ゲームのデコぴんです。これは勲章なのです」
「デコぴん? く、勲章?」
「うん。黒木さんからいただいた」
ヤベっ。言わなきゃ良かったかも。
「二人とも優弥にやられたの?」
「ど、同意の上でね」
恭平兄さんの顔がどんどん険しくなってくから、一応言っといたわ。でもなんのフォローにもなってないんだろうな。
「か、顔洗ってくる!」
逃げました。完全なる逃亡。
あとは頼んだ、涼平兄さん!
「ギャー!」
洗面所にて。鏡に映る自分を見て、叫んでしまった。
マジ……?! これじゃあ涼平兄さんと変わらんやん! 腫れすぎ!
これ、あと二日で治るの? 黒木さん強すぎるんよ。
フォローとかしなくて良かったかも。黒木さんなんか恭平兄さんに絞られれば良いんだ!
「うわああ!」
私と入れ替わりで洗面所に行った涼平兄さん。
気付いたようだな、自分のデコのグロさに!
ねえ兄さん。今日が土曜日で良かったよね、私たち。
まあ、私は友と約束があるんだけどな! なんて言われるんだろう! 怖い! 会いたくない! 恥ずかしい!
お読みいただきありがとうございます!
松井透香のイラストをTwitterに載せました! ぜひご覧ください! Twitterメディア欄をのぞいていただきますと、すぐに見つかります。
月見 エルのTwitter→ https://twitter.com/otukimi_ll